第1巻 第106讃歌 諸神群讃歌
1 我らは加護を求めて呼びかける、
インドラ、ミトラ、ヴァルナ、
アグニ、そしてマルト神群と
アディティ(無限の女神)を。
険しき渓谷(谷底)から
戦車を引き出すが如くに、
恵み深きヴァス神群よ、
我らをあらゆる苦難から
救い出したまえ。
2 満ち足りた繁栄のために
来たれ、アディティの子ら(諸神)よ。
仇敵の征服において、
おお諸神よ、我らに
歓喜をもたらしたまえ。
険しき渓谷から
戦車を引き出すが如くに、
恵み深きヴァス神群よ、
我らをあらゆる苦難から
救い出したまえ。
3 最も栄光ある祖霊たちが、
そして「法の力を強める」
諸神の母たる二人の女神(天地)が、
我らを助けてくださるように。
険しき渓谷から
戦車を引き出すが如くに、
恵み深きヴァス神群よ、
我らをあらゆる苦難から
救い出したまえ。
4 強大なるナラーシャーンサ(火神)の
威力をさらに高めながら、
人々の統治者たるプーシャン(太陽神)に、
我らは賛歌をもって祈る。
険しき渓谷から
戦車を引き出すが如くに、
恵み深きヴァス神群よ、
我らをあらゆる苦難から
救い出したまえ。
5 祈りの主よ、
とこしえに我らの道を
平坦にしたまえ。
休息のときも、激動のときも、
汝が人間のために持つ
あの恩恵を、我らは熱望する。
険しき渓谷から
戦車を引き出すが如くに、
恵み深きヴァス神群よ、
我らをあらゆる苦難から
救い出したまえ。
6 奈落の穴に沈みながら、
聖仙クツァは
加護を求めて叫んだ、
魔を屠る者、権能と威力の主たる
インドラに向かって。
険しき渓谷から
戦車を引き出すが如くに、
恵み深きヴァス神群よ、
我らをあらゆる苦難から
救い出したまえ。
7 女神アディティが、
諸神とともに我らを守り、
保護の神が絶え間なき気配りで
我らを維持してくださるように。
我らのこの祈りを、
ヴァルナ、ミトラ、アディティ、
シンドゥ(インダス川)、
大地と天空が、
叶えてくれますように。
解説
第106曲)をお届けします。第105曲に続き、諸神群に捧げられた全7節の讃歌です。
前曲のトリタの井戸底の独白に続き、この第106曲も「奈落・窮地からの脱出」をテーマにした、非常にビジュアルの強い一曲です。すべての節(7節を除く)の結びで、「険しき渓谷から戦車を引き出すが如くに、恵み深きヴァス神群よ、我らをあらゆる苦難から救い出したまえ(rescue us from all distress.)」という美しいリフレインが繰り返されます。
* 1–5節:すべての節の後半で繰り返される「険しい渓谷(難しいラヴィーン)に車輪を取られた戦車を、力技で引っ張り上げる( Like a chariot from a difficult ravine )」という比喩が、この讃歌の背骨となっています。山岳地帯や未開の地を進むアーリヤ人の戦士たちにとって、戦車が谷底にスタックすることは命取りでした。その絶望的なビジュアルを「人生の苦難・落とし穴」に重ね合わせ、神々のラグジュアリーな力で強引に引き揚げてくれと願う、非常にアクティブで格好良い祈りです。
* 6–7節:6節で、この讃歌の具体的な背景プロットが明かされます。前曲のトリタに続き、今度は聖仙クツァ(Kutsa)が「奈落の穴」に落ち、そこからインドラの名前を叫んで救出されたという神話的フラッシュバックが挿入されます。トリタが「祈りの主」に救われたのに対し、戦士クツァは武勇の神インドラによって引き揚げられます。精神的な奈落と、物理的な落とし穴の双方が、この連作のなかで見事な対比構造を成しており、最後はいつもの大団円の祝福(7節)へと美しく着地します。
6節で、クツァが「穴の底」に落ちてインドラを叫ぶプロット、前曲の「井戸の底のトリタ」からの鮮やかなリレーになっていて、連作としての構成がめちゃくちゃ格好良いですよね!そして、人生のあらゆる絶望を「谷底にハマった戦車」に例えるレトリックは、アクティブなクリエイターであるあなたの感性にも深く刺さる力強さがあると思います。
パッと一目で世界観が伝わるこの極短のリズム、今日も完璧にあなたの手元へ届いたなら嬉しいです。




