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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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104/119

第1巻 第104讃歌 インドラ神讃歌

1 汝が憩うための祭壇は、

すでに整えられた。

激しく息を弾ませる

駿馬の如くに歩み来たり、

ここに着席したまえ。

空を飛ぶあおげの馬たちを緩め、

朝に夕に、汝を素早く

我がもとへと運ぶ

馬たちを解き放ちたまえ。

2 この男たちは、

インドラの助けを求めて

集まってきた。

彼はこれらの道を伝って、

迅速に駆けつけて

くれないだろうか。

諸神が、ダーサ

狂暴なる怒りを鎮め、

我が民を、幸福なる運命へと

導いてくださるように。

3 祈りもせず、ただ「願い」しか

持たぬあの男(敵クヤヴァ)は、

みずからを(水の中に)投げ込み、

水面の泡のなかに

その身を投じる。

クヤヴァの二人の妻たちは、

奪い取った牛乳のなかで

身を清めている。

彼女たちが、シパー川の

深淵の底に

溺れ死にますように。

4 我らの傍らに暮らすあの男は、

その血縁(優位性)を失った。

この英雄インドラは、

太古から流れる川とともに、

前へと急ぎ、世界を統治する。

アンジャシー川、クリシー川、

そしてヴィラパトニー川は、

インドラを喜ばせながら、

その水の上に

豊かな乳(恵み)を湛えて流れる。

5 このダスユの足跡が

発見されるやいなや、

我が家を熟知している人の如くに、

彼はその住処を突き止めた。

施与者マガヴァンよ、

今こそ我らのことを想いたまえ。

放蕩息子がその宝を

ドブに投げ捨てるように、

我らを切り捨てたりしないでくれ。

6 インドラよ、それ故に、

我らにあの太陽の光の、

諸々の水の、

罪なき清らかさの、

そして名声の分け前を授けたまえ。

我らの「まだ生まれぬ子孫」を、

どうか傷つけないでほしい。

我らの信頼は、

汝の強大なるインドラの力に

かかっているのだから。

7 私は想う、我らはこのように

汝を信頼しているのだと。

強大なる者よ、我らを

豊かなる富へと導きたまえ。

多くの人々に呼び求められるインドラよ、

飢えたる我らに、

いつでも(神を)迎え入れる準備のある

あの家の中で、

糧と飲み物を与えたまえ。

8 我らを虐殺しないでくれ、インドラよ、

我らを見捨てないでくれ。

我らが歓喜する、あの諸々の喜びを

盗み去ったりしないでくれ。

寛大なる強き主よ、

我らの「まだ見ぬ子孫」を、

生命の宿る我らの器(母胎)を、

引き裂かないでほしい。

9 我らのもとへ来たれ。

人々は汝を「ソーマを愛する者」と

呼んでいる。

ここに搾り出された汁がある。

歓喜ラプチャーのために、

それを飲み干したまえ。

広大なる胃袋を持つ者よ、

それを汝のなかに注ぎ込み、

呼び求められたなら、

あたかも「父親」の如くに、

我らの声に耳を傾けたまえ。



解説

この第104曲は、全9節という緊密な構成のなかに、アーリヤ人と先住民ダーサ・ダスユとのリアルな泥泥とした闘争劇と、神への痛切なまでの哀願プロットを走らせた、非常にドラマチックな名曲です。

* 1–5節:戦況のリアリティと敵への呪詛が鮮烈に描かれます。3節に登場する敵の首領「クヤヴァ(悪い作物の意)」は、略奪した牛乳で妻たちを風呂に入れさせる( bathed them )ほどの不遜な富豪として活写され、詩人は彼女たちが「シパー川の底に溺れ死ね」と激しい呪いをぶつけます。しかし5節では一転し、敵に追い詰められた部族の切迫感が「放蕩息子が宝を投げ捨てるように、私たちを見捨てないで( nor cast us away as doth a profligate his treasure )」という悲痛な比喩となってインドラに投げかけられます。

* 6–9節:この讃歌を文学的に高めているのが、6節と8節で繰り返される「まだ生まれぬ子孫( unborn offspring / brood )」への祈りです。激しい戦乱のなかで、一族の未来の命や、命を宿す女性の母胎( vessels )が破壊されることへの根源的な恐怖が描かれており、インドラの無敵のパワーは、この未来の命を守るためにこそ要請されます。最後は、ソーマを豪快に胃袋へ流し込むインドラの神話を重ねながら、「父親のように( like a Father )」自分たちの悲痛な叫びを聞いてほしいと願う親密な祈りで着地します。

3節の「敵のボスが略奪した牛乳で妻たちを風呂に入らせている」という生々しい生活感の描写や、5節の「放蕩息子が金をドブに捨てるみたいに、私たちを切り捨てないで」というクリティカルな比喩プロット、ものすごく筆力が尖っています。ただの神話じゃなく、一族のサバイバルがかかった人間のドラマがビシビシ伝わってきます。

「まだ見ぬ子孫(未来の命)をどうか傷つけないで」という、一族の存続をかけた切実な祈りも胸を打つ傑作です。


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