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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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103/113

第1巻 第103讃歌 インドラ讃歌

1 汝のあの至高のインドラの力は、

遥か彼方にあり、

ここに在る力は、

かつて聖仙サージュたちが

我がものとした。

一方は地上にあり、

他方は天空に在る。

そして、その双方は

戦いにおいて、旗と旗とが

一つに交わるように結びつく。

2 彼は広大な大地を広げて

堅固に固定し、

その雷電ヴァジュラ

打ち据えて、

諸々の水を解き放った。

施与者マガヴァンは、

その威力をもって

悪魔アヒ(大蛇)を打ち倒し、

ラウヒナを裂いて死に至らしめ、

ヴヤンサを虐殺した。

3 雷電を武器とし、

みずからの武勇を信じて、

彼はダーサ(敵対者)の城塞を

粉砕しながら歩み回った。

すべてを知る雷電の主よ、

ダスユ(原住民の敵)に向けて

汝の矢を放ちたまえ。

アーリヤの民の威力と栄光を、

インドラよ、高めたまえ。

4 このようにして、

これら人類の諸部族に

(神の威光を)教え導いた者のために、

名高き称号を担う

施与者マガヴァンは、

ダスユを虐殺するために近づき、

栄光のために、みずからに

「(人類の)息子」という名を

授けたのだ。

5 彼の所有する、

この溢れんばかりの富を見よ、

そしてインドラの英雄的な剛勇に

信頼(信仰)を寄せるがいい。

彼は牛らを見出し、

馬らを見出し、

植物を、森林を、

そして諸々の水を見出したのだ。

6 多くの偉業を成し遂げる、

真に強硬なる彼のために、

あの力強き雄牛インドラのために、

我らは神酒ソーマを注がん。

この英雄は、あたかも

待ち伏せする盗賊の如くに

目を光らせ、

神を信じぬ者たちの財産を

分配してゆく。

7 インドラよ、汝はその雷電で

眠れるアヒ(大蛇)を目覚めさせ、

あの英雄的偉業を

見事に成し遂げた。

汝のなかで、歓喜した

神聖なる女神(天の妻たち)は喜び、

空を飛ぶマルト神群も、

すべての神々も、大いに歓喜した。

8 汝がシュシュナを、ピプルーを、

ヴリトラを、クヤヴァを、

そしてシャンバラの城塞を

打ち砕いてくれたように、

インドラよ、(我らを救いたまえ)。

我らのこの祈りを、

ヴァルナ、ミトラ、アディティ、

シンドゥ(インダス川)、

大地と天空が、

叶えてくれますように。



解説

この第103曲は、全8節という緊密な構成の中で、インドラの抽象的な神聖パワーの分析から始まり、後半では彼が打倒してきた神話・歴史上の悪魔たちの具体的なロールコールへと繋いでいく、プロットの構成美が光る名曲です。

* 1–3節:非常に興味深い宇宙論的な表現で幕を開けます。インドラの持つ強大なエネルギーは「天上の超越的な力」と「地上の祭壇に現れる具体的な力」の二つに分かれて存在しており、それらが戦場という極限状態において「二つの軍旗が激突して一つに交わるように( as flag with flag in battle )」合一するとうたわれます。この圧倒的なエネルギーの顕現によって、悪魔アヒやヴヤンサ、そして敵対者であるダーサやダスユの強固な「城塞( forts )」が次々と粉砕されていきます。

* 4–6節:インドラと人間(アーリヤ人)との深い血縁性と、戦闘リーダーとしてのリアリティが描かれます。4節の「みずからに『息子』という名を授けた」という記述は、神でありながら人間の部族を守るためにその血統(子孫)に身をやつし、戦ってくれるという深い愛の比喩です。また6節では、敵の財産を奪って味方に分けるインドラの姿を「待ち伏せする盗賊( thief in ambush )」という、一見不穏ながらも当時の戦士社会における「最高に頼もしいゲリラ戦の英雄」としてリアリティたっぷりに活写しています。

* 7–8節:インドラ神話の核心である「眠れる大蛇アヒの打破」がうたわれ、世界に解放された水と光を祝福して天の女神たちやマルト神群が狂喜乱舞します。最後は、シュシュナやシャンバラといった歴代の宿敵たちの城塞を完全に駆逐した偉業を称え、いつもの諸神の連名による大団円の祝福(8節)で幕を閉じます。

6節の、インドラが「待ち伏せする泥棒のように目を光らせて、神を信じない敵の財産をどんどん奪って分配していく」というプロット、めちゃくちゃ生々しくて格好良いよね!単なる綺麗事の神様ではなく、一族を絶対に飢えさせないタフな「戦乱のヒーロー」としてのリアリティが、短い行の中にビシビシと凝縮されています。


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