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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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100/106

第1巻 第100讃歌 インドラ神讃歌

1 剛勇のなかにその家を持ち、

強大にして、

地と広大なる天の至高の王、

真なる権能の主、

戦いのなかで呼び求められる者。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救い(助け)となりますように。

2 その進む道は、太陽スーリヤの如くに

何者も到達できぬもの。

彼はそれぞれの戦いにおいて、

強大なるヴリトラの討ち手であり、

己の道をゆく仲間たち(マルト)とともに、

最も力強き者。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

3 その進む道は大いなる威力に満ち、

何者も抵抗できぬもの。

それはあたかも、天空の

恵み深き潤い(雨)を

搾り出すかの如し。

雄々しき剛力をもって勝利する、

仇敵を圧倒する者。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

4 アンギラス聖仙たちのなかにあって、

彼は最高の首領であった。

友ら(神々)を従えた友であり、

強大なる者たちのなかで最も強大。

称え手たちのなかの最高の称え手、

うたう者たちに最も尊ばれる者。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

5 あたかも己の子供たちを率いるように、

ルドラの御子たち(マルト)とともに強く、

雄々しき戦いのなかで、

みずからの仇敵を征服する者。

固き絆で結ばれた戦友たちとともに、

栄光の偉業を成し遂げる者。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

6 傲慢なる者のプライドを挫き、

闘争を奮い立たせる者、

英雄たちの主、

多くの人々から呼び求められる神。

彼が今日こんにち、我らが戦士たちとともに、

あの太陽の光(勝利)を勝ち得ますように。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

7 彼の助けは、彼を

戦いにおける歓喜の勝者とし、

民は彼を、みずからの安寧の

守護者とした。

彼こそは、すべての聖なる儀礼の

唯一無二の主なり。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

8 武勇の絶頂の日にあって、

英雄(戦士)たちは助けと戦利品を求め、

この英雄インドラのもとへと

馳せ参じる。

彼は、目を眩ませるほどの暗黒のなかに、

あの光(太陽)を見出したのだ。

マルト神群を従えしインドラが,

我らの救いとなりますように。

9 彼は、その左手をもって

強大なる敵をも阻止し、

その右手をもって

戦利品(富)を掻き集める。

彼は、謙虚なる(力なき)者とともにあっても、

富を獲得するのだ。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

10 彼は、歩兵の軍勢と戦車隊を率いて、

数々の宝(戦利品)を勝ち取る。

今日、彼はすべての民によって、

広くその名を知られている。

雄々しき剛力をもって、

彼はみずからを憎む者たちを征服する。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

11 多くの人々から呼び求められる彼が、

同胞とともに、あるいは異邦人とともに、

水を勝ち取るため、

そして息子や孫たち(子孫)の利益のために、

己の道を進み、戦いへと急ぐとき。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

12 恐るべき、猛烈なる者、

悪鬼の討ち手、雷電ヴァジュラの担い手、

無限の知識を持ち、

何百もの人々にうたわれる強大なる者。

ソーマの如き生命力(強さ)に満ち、

五つの部族の守護者たる者。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

13 光(太陽)を勝ち取りながら、

彼の放つ雷鳴は、

あの恐るべき天空の大いなる声の如くに、

こちらへ向かって轟き渡る。

豊かな贈り物と宝が、

とこしえに彼に付き従う。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

14 彼の剛勇によって創り出された、

永遠なるその住まい(宇宙)が、

あらゆる側面から彼を取り囲む、

彼の讃歌、そして天と地が。

彼は我らの儀礼を喜び、

我らを救ってくださるように。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

15 その権能の限界には、

神々がその神聖さをもってしても、

死すべき人間も、そして諸々の水さえも、

いまだ誰も到達したことはない。

彼は、その活力において、

大地と天空の双方を凌駕する。

マルト神群を従えしインドラが、

我らの救いとなりますように。

16 白い額の斑(ふ(ひたいづ))を持つ、赤栗毛の牝馬。

リジュラーシュヴァに富をもたらすため、

天上の彼女は、

牡馬たちとともに

くびきに繋がれた戦車を引っ張った。

歓喜に満ちたその姿は、

人間の軍勢のなかで、広く注目を集めた。

17 ヴァールシャーギラの一族は、

強大なる汝、インドラよ、

汝を喜ばせるために、

この讃歌を声高らかにうたう。

リジュラーシュヴァが、その仲間たる

アンバリーシャ、スラーダス、

サハデーヴァ、バヤマーナとともに。

18 多くの人々に呼び求められる彼は、

いつもの流儀に従い、

ダスユ(原住民の敵)とシミユを虐殺し、

彼らを矢をもって低く這いつくばらせた。

強大なる雷電のインドラは、

その色白き友人たち(アーリヤの戦士たち)とともに、

あの土地を、太陽の光を、

そして水を勝ち取ったのだ。

19 願わくは、インドラがとこしえに

我らの保護者でありますように。

我らが危険にさらされることなく、

あの戦利品を勝ち取ることができますように。

我らのこの祈りを、

ヴァルナ、ミトラ、アディティ、

シンドゥ(インダス川)、

大地と天空が、

叶えてくれますように。



解説

第100曲は、全19節という圧倒的なスケールで描かれる英雄神「インドラ」への大讃歌です。

すべての節の結び(1–15節)で、「マルト神群を従えしインドラが、我らの救いとなりますように(May Indra, girt by Maruts, be our succour.)」という荘厳なリフレインが鳴り響く、まさに大台にふさわしい超大作です。

後半(16節以降)では、これまでの神話的な描写から一転して、「リジュラーシュヴァ」をはじめとする歴史的な英雄たち(ヴァールシャーギラ一族)の実戦の記録へとカメラが切り替わる、非常にドラマチックな構成になっています。

主神インドラの宇宙論的な偉大さと、地上の王族・戦士たちのリアルな歴史的戦闘(部族闘争)の記録を一本の線で結びつけた、リグ・ヴェーダを代表する記念碑的大叙事詩です。

* 1–15節:インドラの全能性と、彼の「精鋭部隊」である暴風雨の神々マルト神群(ルドラの御子たち)との完璧な絆が、重厚なリフレインとともにうたわれます。インドラは「左手で敵を抑え、右手で富を掴む(8節)」という無敵の戦士であり、彼の力の限界には神も人間も到達できません。特に8節の「目を眩ませるほどの暗黒のなかに、光を見出した(He hath found light even in the blinding darkness.)」という描写は、絶望の底から勝利(太陽)を掴み取る一族の象徴的なプロットとして極めて高い文学的強度を持っています。

* 16–18節:この讃歌の極めてユニークな歴史的転換点です。詩の舞台は神話の天空から、地上の「ヴァールシャーギラ(ヴリシャギルの子孫たち)」の一族の戦場へとシフトします。リジュラーシュヴァ王をはじめとする5人の実在の英雄たちの名前が具体的に列挙され(17節)、彼らがインドラの加護を得て、敵であるダスユやシミユを矢の雨で制圧していくリアルな戦闘が描かれます。18節の「色白き友人たち( fair-complexioned friends )」という表現は、中央アジアからインド亜大陸へと進出してきたアーリヤ人戦士たちの肉体的特徴を生き々々と伝える、歴史的にも極めて貴重な描写です。

* 19節:激しい戦いの記憶から、一族の未来の安全( unimperilled )と、宇宙の主要な諸神による平和の祝福へと見事に着地し、第100曲にふさわしい圧倒的な余韻を残して幕を閉じます。

9節の「左手で敵を抑え、右手で富を掴み取る」というインドラの無敵の戦闘ポーズや、18節の「色白の戦友たちを引き連れて、敵を矢の雨で平伏させ、土地と太陽を勝ち取った」というリアルな戦記プロットは格好いいですね。神話のスケールから、一気に戦場泥臭い人間の英雄譚へとドライブしていく構成が、本当に映画のようで素晴らしい完成度です。


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