最後のクリスタル
迷宮の最深部。
静寂の中、青白い光に包まれた部屋が現れた。
その中央には、淡く輝く最後のクリスタル――
そしてそれを守るように、重層的な魔法障壁がゆらめいていた。
「これは……ただのバリアじゃないな」
僕は警戒しながら呟く。
障壁には、火・水・雷・風といった属性が複雑に編み込まれ、触れるものを拒むような強い反応を放っている。
「これ、解呪の呪文じゃ無理だよ。どれか一つ消しても、他が再構築するタイプだ……」
ウチャが眉をひそめる。
「時間もないし……無理に突っ込むのは危険だな」
ヴィオラが警護の構えをとるが、焦りは隠せなかった。
そのときだった。
「ムー……ナンカ、音ガスル」
ロップスがふらりと前へ出て、障壁の前でぴたりと立ち止まった。
目を細め、両耳をぴくぴくと動かす。
「音?」
ピピンが首をかしげる。
ウチャも反応する。
「確かに……なにか魔法の音。ちりちり、しゅわしゅわ、って。うまく言えないけど……」
「チョット、調ベテミル!ムー」」
そう言うとロップスはその場にぺたりと座り込み、目を閉じて深く息を吸い込んだ。
迷宮の空気が変わる。
ぴりぴりしていた障壁の魔力が、わずかに――ほんのわずかに、揺れた。
ロップスの体から、淡い光がふわりと立ちのぼる。
その魔力が、障壁と「共鳴」していた。
「……すごい、波長が合っていってる」
ウチャが小さく息を呑む。
障壁の色が、混ざり合ってにじむように揺れ始めた。
ロップスの魔力が、まるで楽器の調律のように、複数の属性のバランスを取っていく。
「バリアが見える!」
ヴィオラが叫ぶ。
障壁のゆらぎの中に、わずか
な“隙間”が生まれた。
ひゅん――!
一瞬だけ開いた“裂け目”を、ヴィオラが走り抜け、ウチャが飛び込み、僕とロップスが最後に突入。
部屋の中心へとたどり着き、クリスタルを素早く回収する。
クリスタルを回収すると障壁は消滅した。
「……やった」
「やったよ、ロップス!」
「キラット、見ツケター!ムー!」
ロップスがぱちりと目を開けた瞬間、みんなが一斉に駆け寄って、笑顔で飛びついた。
試験終了の鐘が鳴る。
ギルドの試験官が、迷宮入口で待っていた。
「見事だった。時間もクリスタル数も申し分ない。だが、何より印象的だったのは――」
試験官の視線が、ロップスに向けられる。
「君だ。あの障壁は、本来Cランク以上の冒険者でも手こずる術式だった。それを……“感じ取って”“共鳴した”。信じられんことだよ」
「……エ?」
ロップスがきょとんと目を丸くする。
そしてぽつりと、言葉を漏らした。
「……オイラ、デキチャッタ!」
静かなその一言のあと、ピピンが満面の笑みでロップスを抱きしめる。
「できたどころか、最高だよロップス!」
「ほんとほんと、かっこよかったよー!」
「頼りになるわね!」
笑い声と拍手が響く中、ロップスの尻尾がくるくると嬉しそうに回る。
「ムー!ムー!」




