登録試験
薄明かりの差し込む迷宮の入口に、ドラコニア団の四人が並び立っていた。
今日はギルドの正式登録試験の日だ。制限時間内に迷宮内から規定数のクリスタルを回収し、その成果とチームワークが評価される。初期ランクにも関わる、冒険者としての“第一歩”となる試験である。
「緊張してる?」
ヴィオラが優しく問いかけると、ロップスは小さくこくんとうなずいた。
得体の知れないふわふわの存在。能力も未知で、戦闘訓練すら満足に受けていない。だからこそ、彼はヴィオラに守られながらの参加となった。
「大丈夫。私が絶対守るから」
その言葉に、ロップスはぱっと表情を明るくした。
「ムー!チームワーク!」
「協力だね」
「うん、がんばろー!」
頼もしい仲間たちの声が響くなか、ロップスはといえば――
「……オイラ、クリスタル知ラナイ。 甘イ? 美味シイ?ムー?」
ロップスが首を傾げた。
「食べ物じゃないよ、ロップス……」とヴィオラが苦笑しながら注意する。
ロップスにとって、これが初めての“冒険”。
下水道の外の世界自体が初めてなのだ。
わからないことだらけだろうけど、ロップスを見ると、不安よりも好奇心のほうが勝っていた。目はきょろきょろ、耳はぴこぴこ、心はわくわく。
「頑張ルゾー!ピピット、キラット発見、ムー!……アッ、置イテ行カナイデー!」
迷宮の中は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っている。
僕たちは前を進み、ウチャが小さな光球を灯して周囲を照らす。
「こっちの壁、魔素が強いよー! このへんにあるかも!」
ウチャの勘を頼りに枝道へ進むと、床の隙間に小さな光がきらめいていた。
僕が素早くナイフで掘り出し、ひとつ目のクリスタルをゲット。
「よし、順調!」
一同のテンションが上がる中、ロップスはぴょんぴょんと跳ねながらあちこちを動き回っていた。
「コノ石?クリスタル?」
ウチャがゴツゴツした岩を調べるロップスに優しく伝える。
「もっとキラッとしてるやつだよ!ロップス!」
動きもどこかちぐはぐで、ヴィオラの「下がってて!」の声に左右を間違えて飛び出したり、ピピンの指示に「ハイ!」と元気よく返事した直後に反対方向へ跳ねていったりする。
「ロップスー! 今どこー!?」
「コッチー!ムー!」
「そっちじゃないよ!」
そんなやり取りをしながらも、僕たちはクリスタルを着実に集めていった。
そのとき――通路の影から、ぬるりと音を立ててスライム系のモンスターが現れた。
「敵だ!」
僕が剣を抜いて前に出る。ウチャが素早く光の呪文を唱え、ヴィオラはロップスの前に立って守る構えを取った。
「ロップス、こっちに来て!」
「分カッター!」
しかしその瞬間、ロップスの後ろの壁がぬるりと膨れ、スライムが背後から姿を現した。
「……ひゃっ!?」
ヴィオラが振り返って間一髪、拳を叩き込む。スライムは飛び散り、壁にぺしゃりと張りついた。
「ロップス、大丈夫!?」
「大丈夫!ムー!助ケテモラッテバカリ、ムー....」
笑顔は浮かべているけれど、その声にはほんの少しだけ、申し訳なさがにじんでいた。
試験時間の途中、小さな広間で休憩を取ることにした。
ピピンが地図を確認し、ヴィオラは周囲を見張っている。
ロップスは壁際にちょこんと座って、小さなため息をついた。
「ロップス、クリスタル見ツケテナイ……」
「ロップス、ぴょんぴょん可愛かったよ」
ウチャがとなりに座って、笑いながら言った。
「モット、役ニ立チタイ……」
そう言いつつも、ロップスの表情は明るいまま。首をかしげて、困ったような、でもあっけらかんとした顔をしている。
ウチャはくすっと笑い、ポンとロップスの背中を軽く叩いた。
「ロップスはさ、いるだけで元気でるし。さっきの後ろのスライム、ロップスが気づいて声出してくれたから、ヴィオラが間に合ったんだよ」
「ソウ?ナノ?」
ロップスはくるくるとしっぽを回しながら、少しだけ胸を張ってみせた。
「キラットスルヤツ、見ツケル!」
ウチャが素直に答える。
「うんうん、それっぽいやつ、期待してるよ」
ロップスとウチャが笑いあう。迷宮の奥へと続く静かな空気の中で、少しだけチームの輪が深まっていく気がした。




