お買い物
朝のニューメキは、高層層を縫うように流れる光の列車と、空に揺れる風の布橋がきらめき、まるで都市そのものが目覚めるようだった。
「いよいよ、冒険者ギルドに正式登録か……」
僕はモノレールの窓の外を眺めながら、ぼんやりと呟いた。
彼らドラコニア団は、下水道調査の後もFランクの依頼をいくつかこなしてきた。
次は、正式登録の試験。ロップスを4人目としてカウントできるか、ギルド内で問題になったけど、なんとかオッケーになった。ロップスがしゃべれたことが良かったみたいだ。
僕たちは試験の前に、装備を整えておく必要がある。
「お金はあるはいっても、有限。身の丈に合った装備にしようね」
ヴィオラはそう言って、隣で腕を組む。口調は冷静だが、目にはかすかな緊張が走っている。
「うへへー!ウチャは新しい帽子が欲しい!可愛いやつ!」
先頭に立っていたウチャが振り向き、いつものように元気いっぱいに叫んだ。
3人は中央層の商業区――「蒼鉱街」と呼ばれるショッピングストリートへと向かった。そこは古代のエレベーターシャフトの内部を改装して作られた巨大な吹き抜け空間で、空中に浮かぶ店舗が無数に吊るされ、空中通路と魔導リフトで移動する仕組みになっている。
⸻僕とヴィオラは武器と防具の店に。
金槌の音が響く鍛冶屋〈アード=スパーク〉では、頑固そうなドワーフの職人が火花を散らしながら、作業している。番頭のドワーフ、ドリゲスが僕の剣の刃を吟味していた。
「お前の剣は、短いこと以外、言うことはないな。伝説の剣と言っていい。魔王の剣、まさか本物を見ることができるなんてな」
「何かおすすめの品はあるかな」
「ちょっと値が張るが、こいつはどうだ?」
持ってきたのは今の装備より明らかにランクが上の装備だった。
「軽い魔導鉄を使った魔法耐性があるグローブと胸当て、ブーツの一式だ。小さいサイズが売れ残っていてな」
ロップスを肩に乗せたヴィオラが念入りに品定めをする。
「いいんじゃない?」
「イイネ!ムー!」
確かに今の装備は少し重いし、古びていた。
「分かったそれにするよ。おねぇちゃんは?」
「あたしはグローブが欲しいな。世界最強決定戦の予選に出たいんだ」
「お!予選にでるんだな。しかし、拳闘士とは、度胸があるな。魔法使いの独壇場だって聞いていたが。チャンピオンアリシアだって、魔法使いカリスタ相手じゃ分が悪いんじゃないかって、もっぱらだぜ」
「魔法使いだって、倒してみせる」
「気に入った。この店で一番のグローブを譲ろう。サイズを合わせるから1週間くれ」
「どんなグローブなの?」
「グリフィンのクチバシ。元々は精霊が管理する宝物庫にあったって話だ。文字通りグリフィンのクチバシを素材にしたグローブ。魔法を弾く性質を持ってる。どうだ?」
宝物庫?!ゴゴルムが管理人をしてきるあの場所の!
「いいわね。タイ丸の口に手を突っ込まなくても手に入るなら、より価値を感じるわ」
確かに。タイ丸の口に手を突っ込んだ生々しい感覚が蘇って、ブルっと寒気がした。
「おねぇちゃん、身の丈に合った装備って言ってなかった?」
「あら?そんなこといってたかしら?似合ってたでしゃ?」
「ヴィオラ、ピッタリ!ムー!」
ヴィオラのギラギラと興奮した目を見て、もうこれ以上何も言えなかった。
⸻魔道具店では
ウチャはすでに3軒目の帽子屋に入り浸っていた。
さまざまなデザインの帽子を試したのに、結局、オーソドックスなとんがり頭の魔法使いの帽子を頭に乗せ、くるくると鏡の前で回っている。
「どう!?似合う!?魔法が強くなりそうでしょ!」
「うん、すごく似合ってるよ」と僕が返すと、ウチャはふと照れたように「……かわいい?」とつぶやいた。
「すごくかわいいよ」
僕が何気なくウチャに言うと、ヴィオラが眉間にシワを寄せていた。
あれ?なんか怒らせること言ったかな。
一瞬、空気が止まる。
ヴィオラは自分でも驚いたように眉を上げたが、すぐにそっぽをムッとする。
「ヴィオラ、ヤキモチ!ムー!」
「……ぼ、帽子のことだよ」
「な、なにそれー!!」
ウチャが頬を膨らませて、帽子のつばを引っ張った。
「か、帰りに生クリーム山盛りのピカリ焼き食べに連れてってあげるから!」
「お!食べるー!」
「あたしも食べるわ!」
「み、みんなで行こう!」




