初依頼
数日後、ドラコニア団の活動拠点で、僕、ヴィオラ、ウチャの3人は、冒険者ギルドからの小さな依頼を手にして、駆け出しの芸術家ジョルジュの住居へ向かうことになった。
ドラコニア団の初仕事だ。
ニューメキの賑やかな通りを抜け、モノレールの車窓を背にして進む途中、ウチャは嬉しそうに声を上げた。
「見てよ、ピピン!あれ食べたい!生クリームが山盛りついたピカリ焼!」
「わぁ、すごいいわね!」
ヴィオラも興奮している。
僕は苦笑いしながらも、遠くに煌めくモノレールや、魔法によって輝く都市景観に目を奪われた。しかし、心は、これからの依頼に対する緊張と期待でいっぱいだった。
――到着すると、ジョルジュの家の前には、不思議な形と色彩に溢れる数々の壺が並んでいた。大きさは身長ほどにもなるものから、手のひらサイズのものまで、奇抜な模様と輝く魔法のエッセンスが散りばめられていた。
ヴィオラは、どこか遠慮がちな口調で、ひと際目立つ、ピンクの壺を指さしながら呟いた。
「……これ、素敵。ピンクの壺、あまりにも美しいわ」
ウチャも目を輝かせた。
「わあ、ほんとに可愛い!天才よ!」
しかし、ジョルジュは鼻で笑いながら肩をすくめた。
「お前達は芸術なんて、何もわかっていない。これは昨日気晴らしに作った遊びの作品だよ。コンクールに出したいのは、この中の一つだけだ。選んだのは……このとびきり不安定で、気色が悪い壺だ。」
ジョルジュの言葉に、部屋の空気が一瞬凍りついた。
ウチャが顔をひきつらせる。
「うげ。これ本当に?」
ヴィオラがウチャをたしなめる。
「だめよ、ウチャ。失礼よ。でも芸術って本当にわからないわ」
決められたその壺を運ぶため、手に持っていた魔法道具「ポルシェッタ」を用いようとした。しかし、不注意にもその不安定な壺を扱う際、ピピンは手元を誤り、壺を倒してしまった。
「うわっ……!」
ゴロゴロ、バリバリ!!
壺が床に散乱し、割れそうな音が響く。3人は凍りついたような静寂の中、失敗を確信した。
「ごめんなさい……」
しまった。油断していた。簡単な依頼などないのだ。
ジョルジュは、作品が台無しになったことに、嘆き悲しみ、怒りを抑えきれずに震えながら叫んだ。
「三年間の集大成が……お前のせいで!」
ウチャは無邪気な笑いを浮かべ、ふざけた口調で返す。
「いや、むしろ、ピンクの壺のほうがいいよ! そっちにしなよ、ジョルジュ!」
その言葉に、僕は呆れる。
「……ウチャの無神経なこと言うなって……」
ヴィオラは、淡々と立ち上がり、決意を込めた声で宣言した。
ジョルジュは自棄っぱちになっていった。
「もういい。好きなのを持っていけ。どうせ大賞なんか取れないんだ。あの壺だって、確信はなかった……」
「行くわ。ピピン、壺を収納して。指定された美術館へ運ぶのよ。」
再び「ポルシェッタ」を手に取り、壺を慎重に収納しながら、心の中で深い後悔と決意を抱えつつ、美術館への道を踏み出した。
その後、美術館の館長、ブラックと対面する。
「あぁ、ジョルジュの使いか……」
館長の目は、ジョルジュのかつての輝かしい才能を懐かしむかのように、そして最近の彼の奇妙な傾向に対して、失望と怒りが混ざった複雑な感情を表していた。
「かつて、ジョルジュほどの才能を持つ者は他におらんと私は確信していた。しかし、今やその作品は奇怪なまでにこじれてしまっている。初心を思い返せば、あの頃の輝きは、確かに存在したのだ…」
ブラックは、そんな古き良き時代への嘆きを漏らしながら、ピピンたちに温かい言葉をかけた。
「ありがとう。ジョルジュの作品はどこじゃ。一目見ておこう」
ジョルジュのピンクの壺を置いた場所にブラックを案内する。
ブラックはピンクの壺の前に、ひざまづくように崩れた。
「おおお!こ、これじゃ!まさしく、才能の輝き!!!」
ウチャは「やっぱり天才!」とはしゃぐ。ヴィオラは「ほらね」とさっぱりと言った。
ブラックは涙を流して言う。
「ジョルジュに伝えてくれ。失敗もまた経験。経験こそが未来を切り開く力となるだろう。」




