シェアハウス
⸻ニューメキの南側の居住区。
僕たちはモノレールの駅から程近い場所に3LDKのシェアハウスを借りていた。安くはないけど、莫大なドラコニアの資産が僕たちを支えてくれている。
「ただいま」
僕が玄関を開けると、リビングでヴィオラとウチャが待っていた。ウチャはアカデミーの黒いローブを脱ぎ、テーブルの上に魔法の書を広げていた。
一方、風呂上がりのヴィオラは格闘ジム帰りの汗をシャワーで流した後、無防備にタオルを身体に巻いていた。
「きゃ。ちょっとピピン。恥ずかしいから向こう向いてて」
「ご、ごめん」
僕も慌てて、顔を背ける。
「おかえり、ピピン。孤児院はどうだった?」
ウチャが嬉しそうに顔を上げた。
「あぁ。ウチャの苺ジャム、大人気だったよ」
「うしし。嬉しいな。魔法でジャムを煮詰めるのって魔力の制御を長くつづけるからいい練習になるんだよね。しかもそれで子供達が喜ぶなら、やりがいもあるよ」
そこにヴィオラが部屋着に着替えて戻ってきた。
「お、おかえり、ピピン。」
ヴィオラもバツが悪そうに微笑む。それからティーポットの用意をして、席についた。
「お疲れ様。」
僕もティーカップを準備して、ゆっくりと席に着いた。
みなそれぞれ充実した今日だったみたいだ。表情にそれが表れていた。
温かい紅茶の香りで気持ちが安らぐ。
「刃角の孤児院はまた子供の人数が増えていたよ。こんなこと、許してはいけない。なんとかしないと。僕らの為にも」
「ひどい!ゴチャなんとか倒さないと!」
「そうだね。でも今のあたしたちではゴチャリングスの組織だった行動をどうにかすることはできない」
「情報と作戦、そして僕たちにも仲間が大勢必要だね」
「仲間!必要!」
「そうね」
「そうだね。この街なら情報が集めやすい。やっぱりあと半年くらいここに留まろう。今日はどうだった?」
僕がまずはヴィオラに尋ねた。
ヴィオラは軽く息をついてから言った。
「今日、色々ニュースがあるよ。
来年、世界最強決定戦があるんだって。ニューメキでも予選があるの」
「世界最強!すごい!」
ウチャが興奮して声を大きくした。
「おねぇちゃんも予選にでれるの?」
彼女の目がキラリと輝く。
「もちろん!予選に勝ち上がれば、本戦に行けるんだって。強者たちの中に混ざれるなんて、楽しみ」
「すごいな、世界最強決定戦か。おねぇちゃんなら、きっと予選を勝ち上がれるよ」
「うん。でもね、ニューメキには強者がたくさんいる。今のままでは難しいかもね」
「そうなの?」
「ウチャ、ヴィオラを応援する!」
「ありがとう。予選まで半年あるから、それまでに力をつけないとね。あと、それだけじゃないんだ。」
ヴィオラが少し神妙な面持ちで続けた。
「実は、ウチャが探してる人物、ミピシトがその大会の主催者なんだって。」
「ミ、ミピシトが?」
ウチャが目を大きく見開いて顔を上げる。
「それ、本当に?」
「うん、どうやらそうみたい。」
ヴィオラはうなずいた。
「世界最強の魔法使いミピシトが最強決定戦の主催者だよ。」
ウチャはテーブルに手をついて、興奮を隠せない様子だった。
「本当に? 世界最強決定戦の日に本戦会場に行けばミピシトに会えるかもしれないんだ!!」
「おお。ついにミピシトの情報にたどり着いたね。誰もが名前を知っているけど、誰も居場所を知らない最強の魔法使いの」
僕たちは、ニューメキでゴチャリングするだけでなく、ミピシトの情報収集もしていた。
「ドラコニアの師匠、ミピシト。私の師匠の師匠!」
ウチャは嬉しそうに立ち上がる。
「私、絶対にユユキレイスタの未完の魔法書を完成させたいんだ。あの本、私がなんとかしなきゃ。」
「それができたら、すごいことだね。」
僕は笑顔でウチャを見つめる。
「うん、すごいことだよ!ミピシトにあって完成させるのに何が必要か聞かないと!」
ウチャは手を握りしめて、胸を張った。
「ところで世界最強決定戦の本戦ってどこでやるの?」
ヴィオラが軽く笑って言った。
「海中都市カイロよ」
「か、海中?」
「そうよ。海の中にドームがあって人が住んでいるそうよ」
「海の中すごい!」
次の目的地はカイロになるかもしれない。
それまで半年、ニューメキでできることをしよう。
「そうだ。そろそろ僕たちも街にも慣れてきたし、冒険者ギルドに登録に行かない?」
「ドラコニア団の登録、したい!」
「前回は、下見だけして登録しなかったものね。チームでの登録試験は4人からだったから」
「そうだったね。でも、3人でも最低ランクでチームの仮登録だけはできたはず」
「そうね。行ってみましょう」




