魔法都市ニューメキ
大鵬の背に乗って孤島ブラジを出てから、半年が経った。
ちなみに大鵬笛は消耗品らしく、またヒビが入って壊れてしまった。
魔法都市ニューメキ――
この名を耳にしたとき、最初はどこか大袈裟な響きだと感じたけれど、今では違う。この街に生きる者たちは、本当に“魔法の中”で暮らしている。いや、魔法とともに呼吸していると言った方が近いかもしれない。
僕が転生する前の大都市と重なるほど、魔法は科学と見分けがつかないほど洗練されていた。
ニューメキは、旧時代に建てられた超高層ビル群の廃墟を骨格として、その上に築かれた魔法都市だ。
電気の代わりに魔法で動く都市と言った方が分かりやすいだろうか。
朽ちて崩れかけた高層ビルは、風の魔力で支えられ、草の魔法で蔦や苔に覆われて生き物のように息づいている。
ーー強い日差しが街を照らし、ビルの影を伸ばす。
いくつも空中に浮かぶ庭園では、流行りの服を着た巨人がくつろいで寝転がり、オシャレな猫耳族が枝の間でハンモックを張って昼寝している。
そして何より――雷の力を宿したモノレールが、街中のレールを走る様子は、転生前の都市そのものだ。稲妻の尾を引きながら、音もなく滑りゆく光の列車。
僕はビルの間をぬうように走るモノレールを見上げた。
「何度見ても、すごいなぁ……」
太陽の光をビルのガラスが反射する。その光はどこか冷たく、でも美しかった。
この街全体が、魔法によって繋がれた大きな生き物のようだった。
半球のバリアが都市を覆い、気温や湿度も適切に保たれている。
「今日、ヴィオラは図書館にこもって巨人の本を探すんだったかな。いや、格闘トーナメントが近いからジムに行くっていってたな……」
エルフの露天商が、風の魔法がかけられた人形を手のひらで跳ね上げて遊んでいた。光の粉がふわりと舞い、子供達が目をキラキラさせて群がっている。
兎耳族の子どもたちがきゃっきゃと空中回廊を走り回る。その足元を、土の魔法で動く小さなゴーレムが掃除していた。
種族も違えば文化も違う。だけど、この街ではそれらがぶつかるのではなく、重なっている。
「……こんな場所があるなんて、島にいる時は想像もしなかったな」
僕は両腕いっぱいにパン包みを抱えていた。
中身は、魔法パン職人の店で譲ってもらった売れ残りのクルミパン、そして魔法アカデミーでウチャが煮詰めて作った苺のジャム。
ほんの少し酸っぱくて、でも香り高くて、孤児たちにも人気の味だ。そして、外套の内ポケットには、紙芝居の一冊。
「“赤い目の巨人”、ヴィオラがいつも読み聞かせするからみんな好きなんだよね。ここの話……」
足場に光の魔法が灯り、僕はは土の魔法で作られた足場を一歩ずつ踏みしめながら、都市の中層部へと向かった。
そこには、草魔法で囲われた静かな温室庭園があり、その一角に刃角の子どもたちが暮らす孤児院がある。
孤児院の前には大きなどんぐりの木があって、それが目印になっていた。
そこは刃角の孤児院と呼ばれていた。
建物は古びていたが、壁には風除けの結界が丁寧に張られ、草花の香りがいつも漂っていた。石の床は磨かれて、清潔が保たれていた。
僕にとって、そこはどこか懐かしい匂いがする場所だった。優しい場所――いや、優しくあろうとする人たちが守る場所だ。
「ポルシエッタでマジックを見せてやるか。これでもサーカス仕込みだからね……」
階段を上がる途中、僕はふっと立ち止まり、空を見た。
雲の切れ間からのぞいた光の筋が、まるで神さま様でもいるかのようだ。この女神のいない世界にも。
「……よし。今日は、めいっぱい楽しませてやるか」
僕は、刃角の孤児院にゆっくりと足を踏み入れる。ここはゴチャリングスによって孤児になった子供たちを保護する施設。
二つの山脈の向こうで勢力を拡げるゴチャリングスの暴力は、この街でも一つの危機として認識されていた。




