大鵬笛
歌が終わった。
最後の一音が夕焼け空へ溶けていく。
誰も拍手をしない。
その静けさが、この景色には何よりふさわしかった。
そのときだった。
「……ねぇ」
ウチャが空を見上げた。
「あれ、何?」
僕もヴィオラも、つられるように空を見上げる。
夕日に染まる雲の向こう。
何かが、ゆっくりと旋回していた。
「鳥……かな?」
最初は、そう思った。
だけど、どう考えても大きすぎる。
翼を一度広げるたび、雲が揺れる。
「……近づいてきてる」
ヴィオラが小さく呟く。
黄金色の光が、少しずつ大きくなる。
風が変わった。
谷を吹き抜ける風が、一方向へ流れ始める。
赤い花々が一斉に空へ舞い上がった。
「まさか……」
ヴィオラの声が震える。
「そんな……」
ウチャも目を見開いていた。
「あれって……」
黄金の翼が夕陽を受けて輝く。
長い尾羽。
山よりも大きな影。
空そのものを覆うほどの翼。
見間違えるはずがない。
「……大鵬。」
ヴィオラが、祈るようにその名を口にした。
その瞬間、僕の胸がどくりと鳴る。
「大鵬……?」
僕は思わず笛を見つめた。
まだ温もりが残っている。
リーネから教わった旋律。
ヴィオラが『リノスの歌』と呼んだ歌。
そして今、現れた大鵬。
「……もしかして。」
僕は息を呑む。
「この笛が……呼んだの?」
答える者はいなかった。
けれど、大鵬は迷うことなく、まっすぐ僕たちのもとへ降りてくる。
まるで、その音色を探していたかのように。
黄金色に輝く羽が、夕日を反射しながらゆっくりと大空を舞い降りてくる。
その羽ばたきひとつで風が吹き、周囲の赤い花々が巻き上げられ、花吹雪のように舞い散った。まるで光そのものが集まったかのように、花びらが輝きながら空へと吸い込まれていく。
僕たちが立っている広場の中央に、大鵬が降り立った。まるで一つの大陸そのもののような圧倒的な存在感。その巨大な身体が地面を揺るがし、静かに佇んでいる。
その目は、太陽のように燦燦と輝き、僕たち一人一人をじっと見つめていた。
言葉はない。
ただ風だけが静かに吹き抜ける。
舞い散る花びらが、黄金の翼のまわりをゆっくりと舞い、夕焼け空へ溶けていった。




