↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

212/232

笛の修復

 数週間が過ぎた。


 ヴィオラは相変わらず本を読んでいる。静かにページをめくる音が、宿の一室に心地よく響いていた。

 ウチャも魔法書を買い込んでは夢中になって読んでいる。時折、難しそうに首をかしげながら、指でページの文字をなぞっているのを見ると、きっと新しい魔法の研究をしているのだろうと思う。


 時折ヴィオラがウチャを突いて、読めない言葉をウチャに聞いている。2人とも、この時間ですごく仲が深まったみたいだ。


 僕はというと、笛の練習をしたり、ポシェッタで放つ弾丸を的に当てる練習をしたりしていた。

 まだ思うように吹けるわけじゃないけど、リーネに教わったことを思い出しながら、何度も指の動きを確かめ、息を吹き込む。


 今日は、ドワラゴンの店に笛の修理の様子を見に行くことにした。

 ヴィオラとウチャを連れて、店の前に立つと、そこにはスミスが店番をしていた。


「やぁ、ピピン」


 スミスは大きな手でカウンターを軽く叩くと、笑顔で迎えてくれた。


「ドワラゴンは?」


 僕が尋ねると、スミスは肩をすくめながら答えた。


「昨日から作業場にこもりっぱなしさ。ピピンと一緒に作った光の水やルミナ鉱石を使って、笛の修復ができることがわかったんだよ。今は、その作業に集中しているんだとよ」


 ヴィオラが少し心配そうに眉をひそめる。


「そんなに熱中しすぎて、ちゃんと食事は取っているの?」


「さあな。何度か声をかけたんだけど、『完成するまで出ねぇ!』って聞かないんだ」


 スミスが苦笑いする。そのとき、ふとウチャの持つ杖に目を向けると、彼の表情が一変した。


「え……その杖……!」


 スミスはウチャの杖をじっと見つめる。


「造形の深さ、漂う魔力……これは……神話級の杖だよ!」


 目を輝かせながら、スミスは杖の柄を指でなぞるようにして、その細かい彫刻を確かめる。


「どこで手に入れたの?」


「んー……」


 ウチャは少し考え込んでから答えようとしたが、そのとき、作業場の扉が勢いよく開いた。


「できたぞぉぉ!!!」


 興奮した声とともに、ドワラゴンが作業場から飛び出してきた。

 顔は煤だらけで、服には金属の粉がついていたが、目はギラギラと輝いていた。


「おお、ピピン!ちょうどよかった。待たせたな!お前の笛、最高の仕上がりになったぜ!!」


 彼は誇らしげに修復された笛を掲げると、そのこだわりのポイントを次々と説明し始めた。


「まず、光の水で繊細な音の響きを強化してある!さらに、ルミナ鉱石を埋め込んだから、ほんのわずかだが魔力を帯びた音色を出せるようになった!」


 ドワラゴンから笛を受け取った。


「すごい……!」

「魔力を込めて使えるのは一回きりだ。いいな」

「分かったよ」


 手に取ると、前よりも少しだけ温かみが増した気がする。光の水とルミナ鉱石の効果なのか、指先から伝わる感触が柔らかい。


「修理代は金貨100枚だ」


 ドワラゴンがニヤリと笑う。僕は素直に金貨を差し出し、彼の手のひらに置いた。


「おお。値切りもせず、スッと金貨100枚を出すなんて、剛毅だな。毎度あり」


「こちらこそ、ありがとう。ドワラゴン」


「へっ、こっちこそ楽しい仕事だったぜ!取り扱い説明書と今回の修理の内容を書いた紙をつけとくよ。また壊れるかもしれねぇ。俺以外に直せるやつがいるともおもえねぇが、なんかの役には立つだろう」


「分かった。大切にするよ」


 僕は笛を大事にしまいながら、ヴィオラとウチャと顔を見合わせた。


「さて……」


 僕は小さく息をつく。


「そろそろ、大陸へ向かう準備をしないとな」


 ウチャは頷きながら、杖を軽く握り直した。


「大陸……どんな場所なんだろうね。まだ想像もつかないけど、ワクワクする」


 ヴィオラは静かに目を閉じ、言葉を選ぶように呟く。


「未知の地……でも、その前に……」


 ヴィオラがゆっくりと顔を上げ、僕たちを見渡した。


「旅立つ前に行きたい場所があるの」


「どこ?」


「キョウカ村」


 その名を聞いた瞬間、ウチャが驚いたように顔を上げる。


「キョウカ村!?……ドラコニアが連れて行ってくれた場所!ちょうど、今の季節は……」


 ヴィオラは少し微笑んで、懐かしそうに語る。


「私も幼いころ、ドラコニアに連れて行ってもらったわ。あの村には、ずっと忘れられない風景がある」


 ウチャが目を輝かせながら続ける。


「今がちょうどいい季節だね」


 ヴィオラは小さく微笑むと、僕を見つめた。


「ピピン、どうかしら?」


 僕は少し考えた後、笛をそっと握りしめながら微笑んだ。

 ヴィオラとウチャの思い出の場所。僕は行ったことがないけど。

 僕が大陸に行きたい理由は、新しい景色をたくさん見たいから。それは孤島ブラジにだって、たくさん見たことがない景色があるはずだ。


「いいね。じゃあ、まずはキョウカ村へ行こう」


 そう決めると、僕たちはそれぞれの思いを胸に、静かに新たな目的地へ向かう準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。