笛の修復
数週間が過ぎた。
ヴィオラは相変わらず本を読んでいる。静かにページをめくる音が、宿の一室に心地よく響いていた。
ウチャも魔法書を買い込んでは夢中になって読んでいる。時折、難しそうに首をかしげながら、指でページの文字をなぞっているのを見ると、きっと新しい魔法の研究をしているのだろうと思う。
時折ヴィオラがウチャを突いて、読めない言葉をウチャに聞いている。2人とも、この時間ですごく仲が深まったみたいだ。
僕はというと、笛の練習をしたり、ポシェッタで放つ弾丸を的に当てる練習をしたりしていた。
まだ思うように吹けるわけじゃないけど、リーネに教わったことを思い出しながら、何度も指の動きを確かめ、息を吹き込む。
今日は、ドワラゴンの店に笛の修理の様子を見に行くことにした。
ヴィオラとウチャを連れて、店の前に立つと、そこにはスミスが店番をしていた。
「やぁ、ピピン」
スミスは大きな手でカウンターを軽く叩くと、笑顔で迎えてくれた。
「ドワラゴンは?」
僕が尋ねると、スミスは肩をすくめながら答えた。
「昨日から作業場にこもりっぱなしさ。ピピンと一緒に作った光の水やルミナ鉱石を使って、笛の修復ができることがわかったんだよ。今は、その作業に集中しているんだとよ」
ヴィオラが少し心配そうに眉をひそめる。
「そんなに熱中しすぎて、ちゃんと食事は取っているの?」
「さあな。何度か声をかけたんだけど、『完成するまで出ねぇ!』って聞かないんだ」
スミスが苦笑いする。そのとき、ふとウチャの持つ杖に目を向けると、彼の表情が一変した。
「え……その杖……!」
スミスはウチャの杖をじっと見つめる。
「造形の深さ、漂う魔力……これは……神話級の杖だよ!」
目を輝かせながら、スミスは杖の柄を指でなぞるようにして、その細かい彫刻を確かめる。
「どこで手に入れたの?」
「んー……」
ウチャは少し考え込んでから答えようとしたが、そのとき、作業場の扉が勢いよく開いた。
「できたぞぉぉ!!!」
興奮した声とともに、ドワラゴンが作業場から飛び出してきた。
顔は煤だらけで、服には金属の粉がついていたが、目はギラギラと輝いていた。
「おお、ピピン!ちょうどよかった。待たせたな!お前の笛、最高の仕上がりになったぜ!!」
彼は誇らしげに修復された笛を掲げると、そのこだわりのポイントを次々と説明し始めた。
「まず、光の水で繊細な音の響きを強化してある!さらに、ルミナ鉱石を埋め込んだから、ほんのわずかだが魔力を帯びた音色を出せるようになった!」
ドワラゴンから笛を受け取った。
「すごい……!」
「魔力を込めて使えるのは一回きりだ。いいな」
「分かったよ」
手に取ると、前よりも少しだけ温かみが増した気がする。光の水とルミナ鉱石の効果なのか、指先から伝わる感触が柔らかい。
「修理代は金貨100枚だ」
ドワラゴンがニヤリと笑う。僕は素直に金貨を差し出し、彼の手のひらに置いた。
「おお。値切りもせず、スッと金貨100枚を出すなんて、剛毅だな。毎度あり」
「こちらこそ、ありがとう。ドワラゴン」
「へっ、こっちこそ楽しい仕事だったぜ!取り扱い説明書と今回の修理の内容を書いた紙をつけとくよ。また壊れるかもしれねぇ。俺以外に直せるやつがいるともおもえねぇが、なんかの役には立つだろう」
「分かった。大切にするよ」
僕は笛を大事にしまいながら、ヴィオラとウチャと顔を見合わせた。
「さて……」
僕は小さく息をつく。
「そろそろ、大陸へ向かう準備をしないとな」
ウチャは頷きながら、杖を軽く握り直した。
「大陸……どんな場所なんだろうね。まだ想像もつかないけど、ワクワクする」
ヴィオラは静かに目を閉じ、言葉を選ぶように呟く。
「未知の地……でも、その前に……」
ヴィオラがゆっくりと顔を上げ、僕たちを見渡した。
「旅立つ前に行きたい場所があるの」
「どこ?」
「キョウカ村」
その名を聞いた瞬間、ウチャが驚いたように顔を上げる。
「キョウカ村!?……ドラコニアが連れて行ってくれた場所!ちょうど、今の季節は……」
ヴィオラは少し微笑んで、懐かしそうに語る。
「私も幼いころ、ドラコニアに連れて行ってもらったわ。あの村には、ずっと忘れられない風景がある」
ウチャが目を輝かせながら続ける。
「今がちょうどいい季節だね」
ヴィオラは小さく微笑むと、僕を見つめた。
「ピピン、どうかしら?」
僕は少し考えた後、笛をそっと握りしめながら微笑んだ。
ヴィオラとウチャの思い出の場所。僕は行ったことがないけど。
僕が大陸に行きたい理由は、新しい景色をたくさん見たいから。それは孤島ブラジにだって、たくさん見たことがない景色があるはずだ。
「いいね。じゃあ、まずはキョウカ村へ行こう」
そう決めると、僕たちはそれぞれの思いを胸に、静かに新たな目的地へ向かう準備を始めた。




