練習用の笛
ドワラゴンの鍛冶屋に足を踏み入れた瞬間、炉の熱気が肌を叩くように押し寄せてきた。赤々と燃え盛る炎と、打ち下ろされるハンマーの金属音。
それだけで、ここが生きた職人の空間であることが伝わってくる。
「おう、お前らか。よく来たな。」
奥で腕を振るっていたドワラゴンが、煤けた顔をこちらに向け、にやりと笑った。相変わらず、見た目も声もゴツい。でも、その笑顔の奥には、どこかあったかい信頼の色があった。
僕、ヴィオラ、ウチャの三人は、それぞれ空いた腰掛けに腰を下ろす。
すると、ドワラゴンはわずかに目を細めて笑い、深く頷いた。
「おかげで、俺たちもやっと営業再開できた。感謝するよ、ピピン。」
「いや、みんなのおかげだよ」
照れ隠しにそう言うと、ヴィオラが真っ直ぐな目で僕を見た。
「でも、光の水のおかげで、回復は早まったんじゃない?希望そのものだったんだと思うわ。」
「そうだよ!」
ドワラゴンが作業台の上に視線を落とした。
「まぁ、確かにみんな頑張った結果だな」
そこには、分解された大鵬笛の破片が並んでいた。かつて僕が命がけで使った、あの笛。
「ピピンから預かった大鵬笛、これがまた予想以上にボロボロでな……特殊な素材が必要なんだが、何が適してるかはまだ調べねぇとわからんのだ」
ヴィオラが壊れた笛の手をかけ、じっと見つめる。
「やっぱり、ただの楽器じゃないんだね……」
「そりゃそうだ。特殊な技術で作られてるからな。簡単に直せるもんじゃねぇ」
ドワラゴンは棚の奥から、こじんまりした木箱を取り出し、カウンターにポンと置いた。
「とりあえず、これを持っていけ。修理が終わるまでの間、これで練習しておけよ」
木箱は大鵬笛が入っていたものだ。
木箱の蓋を開けると、中には練習用の笛が入っていた。見た目はあの大鵬笛に似てるけど、普通の笛だ。
大鵬笛の箱の内側には古い音符の模様……たぶん楽譜だけど、僕にはさっぱり読めない。
「楽譜みたいね」
ウチャが覗き込み、ヴィオラも口を開く。
「ピピン、笛なんて吹けるの?」
「音を出すにも練習が必要だ。ピピン、やってみな」
僕は笛を手に取り、鼻で息を吸った。よし、ちょっと試してみるか。
「ぷふぅ……」
……風の音だけだった。見事なまでの、無音。
その瞬間、ウチャとヴィオラが腹を抱えて笑い出す。
「これは毎日練習しないとね」
「ほんと、予想以上に音が出ないよ」
僕は悔しさをごまかすように、笛を握る手に力を込めた。
「絶対に吹いてみせるから」
ドワラゴンが満足そうにうなずいた。弟子のスミスも、横で小さく笑っていた。
「そういう気概が大事だ。修理が終わる頃には、お前も立派な笛吹きになってるかもしれねぇな」
僕は視線を作業台の上に戻す。そこは本物の大鵬笛。




