アレイオスの復興
街を歩いていると、広場の掲示板の前に人だかりができていた。
「何があった?」僕は首を傾げる。
近づいてみると、大量の紙が剥がされ、火にくべられている。
「ジェッピ関連の命令書やポスターさ」近くにいた住民が答えた。
「あいつの影響を消して、街を元に戻さないとな」
紙の束が次々と炎に包まれ、黒い灰となって空へ舞い上がっていく。その中には、僕たちの指名手配書や、ドラコニア窃盗団にかけられていた賞金付き手配書も含まれていた。
「ドラコニアの手配書も?」
ヴィオラが驚く。
「正式な手続きがされてなかったらしいよ」
別の住民が肩をすくめる。
「結局、ジェッピが好き勝手やってただけだったんだな」
「……やっとまともな街に戻るってことね」
燃え尽きる紙を見つめながら、ヴィオラが静かに呟いた。
⸻はじめての買い物
朝の市場は活気に満ちていた。行商人の掛け声が飛び交い、色とりどりの野菜や焼きたてのパンが並ぶ。通りを行き交う人々の楽しげな雰囲気に、僕とヴィオラは完全に飲まれていた。
「……ど、どうする?」
「うん、まずは何を買えばいいのか……」
僕たちは市場のど真ん中で立ち尽くしていた。
奴隷として過ごしてきた僕たちにとって、「買い物」という行為はほとんど未知のものだった。
誰かに与えられたものを食べる生活に慣れすぎていて、自分で食べるものを選ぶという経験がほとんどない。
ウチャはそんな僕たちの様子を面白がって、少し後ろでニヤニヤしている。
「ねぇ、サンドイッチとか買えばいいんじゃないの?」
「サンドイッチ……」
僕たちはとりあえず近くのパン屋へと向かった。店先には香ばしい匂いが漂い、カウンターには具材たっぷりのサンドイッチが並んでいた。
「い、いらっしゃい!」
ヴィオラは意を決して声を張り上げた。……が、それを聞いた店の主人が怪訝そうにこちらを見た。
「……いや、俺のセリフだが」
「……あっ」
僕は思わず顔を覆った。
「えっと、えっと……」
ヴィオラは混乱しながら、指を震わせてサンドイッチを指す。
「これ、ください……」
主人は少し微笑んで、手際よくサンドイッチを包んだ。
「二つで五十銅貨だ」
「……五十……」
僕は硬貨の束を取り出し、慎重に数える。が、手が震えてうまく分けられない。
「大丈夫だよ、落ち着いて」
ウチャが後ろから小声で言う。
「わ、わかってる……」
ようやく五十枚の銅貨をカウンターに置くと、主人は呆れたように笑いながら受け取った。
「はい、お釣りなしでちょうどな」
僕はサンドイッチを受け取り、ホッと息をついた。……思った以上に疲れた。
「買い物って、大変だね」
「ははっ、そりゃ慣れてないからだよ」
そこへ、後ろから聞き慣れた声がかかった。
「おい、お前ら」
振り向くと、パラッパが腕を組んでこちらを見ていた。
「……正直、心配してたんだぜ? お前ら、指名手配されてたろ?」
「まあな」
僕は肩をすくめる。
「でも、もう全部剥がされたみたいだ」
「それはよかったよ」
パラッパは胸をなでおろした。
「ジェッピのやつがやってたことは滅茶苦茶だったしな……お前ら、これからどうするんだ?」
パラッパの問いに、僕はフォークを持つ手を止めた。
「……まだ決めてない。でも、きっとどこかに行くと思う」
ヴィオラも頷く。
パラッパは少し寂しそうに目を細める。
「……レイレイは大陸に行っちまった」
「そうだったんだ」
「アイツ、強くなりたいって言ってたからな」
「……寂しい?」
ウチャが聞くと、パラッパはしばらく黙っていた。
そして、ニカっと笑う。
「ヤバい!まじガチ寂しい!なんてな」
パラッパが続ける。
「でも、アイツのことだから、大陸でとんでもなく強くなって帰ってくるだろうさ」
パラッパの笑顔は、どこか誇らしげだった。
僕たちは静かに朝食を続けた。
レイレイが目指した「大陸」という場所。
僕たちも、そこへ向かう。
パラッパは寂しい顔を笑顔に切り替える。
「お前達も大陸に行くんだろう?俺はアレイオスでお前達の帰りを待ってるよ。」
パラッパは空を見上げた。




