作戦会議
夜の帳が街を包み込む頃、僕たちは人目を避けて、小さな隠れ家に身を寄せていた。窓には厚布がかけられ、灯りを最小限にした室内には、緊張した空気が漂っている。作戦を成功させるため、情報を整理し、最後の確認を行う時間だ。
その場には、あのドワラゴンの姿もあった。
ヴィオラが椅子の背に肘をつきながら、鋭い視線で口を開いた。
「さて、そろそろ本番ね。あたしたちの狙いは、ジェッピを油断させた状態で倒すこと。でも……バンデラの情報によると、まともに戦っても勝ち目はないらしいわ」
「どうして? あたしたち、結構強いよ?」と、ウチャが不満げに眉を寄せた。
「それがね……ジェッピに抵抗した実力者たちは、突然、身動きが取れなくなったの。まるで身体を凍りつかせるように。炎に包まれたり、見えない斬撃を受けたり……まったく歯が立たなかったって」
ヴィオラの口調は冷静だったが、その内側に秘めた緊張は隠しきれなかった。
「……スキル?それとも、何か仕掛けがあるの?」
ピピンが真剣な顔で問いかけた。
「そこまでは分からない。ただ、確かなのは“先手必勝”しか勝ち目がないってこと」
「つまり、ジェッピが本気になる前に倒すしかないってことか」と、ピピンは頷いた。「親衛隊との戦闘は避けて、ジェッピただ一人を狙う。シンプルに言えば、奇襲。奇襲でけりをつける」
その時、ドワラゴンがゴソゴソと懐を探り、分厚い羊皮紙を取り出した。床に広げられたそれには、精緻な線で描かれた宮殿の見取り図が収められていた。
「そこでワシの出番じゃな。これは宮殿の詳細図面。修繕工事の監督をやったことがあるからのう、構造は頭に入っとる。ジェッピがいるとしたら、玉座の間じゃ」
彼の指が滑るように図面の一角を示す。
「ここが玉座の間。問題はそこへどうやって行くかじゃが……屋根のこの部分から侵入できれば、すぐ近くの通路に出られるはずじゃ」
「なるほどね。ポルシェッタ飛行で屋根に着地して、そこから隠し通路を通れば、親衛隊の目をかいくぐって玉座の間に直行できるってわけ」
ヴィオラが唸るように言った。
「着地さえうまくいけばな」とピピンが言う。「俺たちにとっては、飛ぶより降りる方が問題だ」
「大丈夫! ピファールでふわっと着地するよ!」
ウチャは親指を立てて笑った。
「目立ったら意味がないからな。軟着陸、頼むぞ」
「わかってるって!」
ヴィオラが続けた。
「問題は、親衛隊に見つかった場合ね。その時は……すぐに飛行で撤退するわ」
「うまくいくといいけど」
ウチャが元気よくうなずいた。
「大丈夫よ、撤退の練習もしたもん!」
ヴィオラがうなずく。
「最初はバランスが悪くて空中でバラバラになりそうだったけど、今なら3人一緒でも制御できるようになったわ」
僕は苦笑を浮かべる。
「……自由落下は怖いんだけどな。正直、まだ慣れないよ」
「ピピン、最初固まってたもんね!でも今はもう、ちゃんと飛べてるよ!」
「まぁ、それしか方法がないからね」
皆の視線が自然とヴィオラに集まる。彼女は静かに目を閉じて、深く頷いた。
「……行くしかないのよ、やると決めたからには」
ドワラゴンが腕を組み、厳しい目で皆を見渡す。
「無茶な作戦じゃが……奇跡というものは、無茶の中にしか宿らん。成功を祈っとる」
ヴィオラは彼に小さく頭を下げた。
「ありがとう、ドワラゴン。じゃあ……最後にもう一度、練習しておきましょう。明日は、すべてを賭ける日なんだから」
皆が静かに頷き合う。
夜の風が、薄く開いた窓の隙間からそっと吹き込んできた。明日の戦いが、この風のように静かで終わることを――誰もが願っていた。




