↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

203/232

飛行練習

 訓練所の空間は、静まり返っていた。

 高くそびえる天井。その内側に描かれた魔法陣が淡く光を放ち、青白い光が床に模様を落としている。


 僕は、その床にしゃがみ込み、小石を一つ拾い上げた。手のひらで転がしながら、集中する。

 空気の流れを感じ、前方の空間を捉える――“ポルシェッタ”の技術。圧縮、放出。手のひらの中で魔力が高まり、小石がまるで弾丸のように発射された。


「ほら、見てくれよ!」

 ピピンが声を上げる。

「この小石、まるで弾丸みたいに飛び出すんだ」


 近くにいたヴィオラが、目を細めてその軌道を追った。

「ねぇ、ピピン、どうやってそんなに早く小石を飛ばしてるの? 全然普通じゃないわよね?」


 僕は少し得意げに胸を張った。

「前方の空気をしっかり収納して、それをギュッと圧縮してから、後ろに向かって一気に放出してるんだ。それで勢いをつけてる。戦闘中に高速移動するために使ってた技術の応用だよ」


「へぇ~、そんなことやってたのね……だから、あんなに早く動けたのか。すごいわね!」


 ヴィオラは腕を組みながら、感心したように呟く。

その目が、ふと、天井の魔法陣を見上げた。


「……ねぇ、ピピン。ひとつ考えたんだけど」


「ん?」


「これと同じ原理で、あたしたち自身を上空に飛ばすことって……できるんじゃない?」


「上空に、飛ばす……?」


 言葉を失った。一瞬、ヴィオラの意図が掴めなかったが、すぐに理解して青ざめる。


「え、待って、なんでそんなこと思いついたんだ?」


「だってさ、ジェッピの宮殿に侵入したいんでしょ? 市中は警備隊でいっぱい。なら、空から……って、思ったのよ」

「おお!」

 ウチャが嬉しそうに跳ねる。

「自由落下って、あたし大好きよ!上からなんて、超ワクワクするじゃない!」


「いや、あんまり得意じゃないんだよ、そういうの……自由落下とか、高いところとか……」

 肩をすくめて弱々しく笑った。


「まぁ、無理にみんなで一緒に飛ばなくてもいいから。まずは試してみようよ。たとえば、この天井に触れるくらいの高さで」


「それなら、あたしもやるやる!」

ウチャがすぐに反応する。


 少し迷った後、頷いた。

「よし。じゃあ、軽く試してみるだけだよ?

 ウチャ、サポートしてね」


「オッケー!」


「私も見守るわ」ヴィオラは静かに言った。「あの日の後悔はもうしないから。今度こそ、うまくいくように頑張りなさい!」


 深呼吸。

 目を閉じ、集中する。前方の空気を収束させ、背中側に圧縮、放出。足元から風が噴き上がるような感覚がした瞬間――体がふわりと浮いた。


「おお……うまくいった……! 天井にちょっとだけ触れた!」


「やったじゃない!」

 ウチャが手を叩いて喜ぶ。


 その場で彼女も、杖を構えて魔力を込めた。風の加護が身体を包み、ふわりと空中に浮かび上がる。


「すごいわね……」

 ヴィオラも小さく呟いた。

「上空に飛べるなら、宮殿への侵入ルートも変えられるかもしれない。……あたし、こんな技があったなんて知らなかった。だから、あの日、ピピンにもっと注意していれば……」


「ヴィオラ」

 ゆっくりと地面に戻りながら、彼女を見上げる。

「あの日のことはもう済んだ。今はこれからだよ。ここで成功すれば、宮殿に忍び込むチャンスがつかめる」


「そうそう! あたし、もっと高く飛んで、もっと速く落ちてみたいな~!」

 ヴィオラはピシッと指を立てた。

「もっと練習して、ちゃんとコントロールできるようにならないと」

「よし、もう一回やってみよう。今度はもっと安定させて、みんなで飛べるようにする」


「いいね!」

 ウチャは楽しげに飛び跳ねる。

「次はもっと上までいけるかも!」


「……私も頑張るわ。あたしたち、必ずジェッピの宮殿に忍び込むための作戦を成功させるのよ」


――こうして、訓練所の高い天井の下で、新たな可能性に挑み始めた。

 小さな飛翔は、まだ不安定で拙いけれど、確かに一歩ずつ、未来に向かって前進している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。