飛行練習
訓練所の空間は、静まり返っていた。
高くそびえる天井。その内側に描かれた魔法陣が淡く光を放ち、青白い光が床に模様を落としている。
僕は、その床にしゃがみ込み、小石を一つ拾い上げた。手のひらで転がしながら、集中する。
空気の流れを感じ、前方の空間を捉える――“ポルシェッタ”の技術。圧縮、放出。手のひらの中で魔力が高まり、小石がまるで弾丸のように発射された。
「ほら、見てくれよ!」
ピピンが声を上げる。
「この小石、まるで弾丸みたいに飛び出すんだ」
近くにいたヴィオラが、目を細めてその軌道を追った。
「ねぇ、ピピン、どうやってそんなに早く小石を飛ばしてるの? 全然普通じゃないわよね?」
僕は少し得意げに胸を張った。
「前方の空気をしっかり収納して、それをギュッと圧縮してから、後ろに向かって一気に放出してるんだ。それで勢いをつけてる。戦闘中に高速移動するために使ってた技術の応用だよ」
「へぇ~、そんなことやってたのね……だから、あんなに早く動けたのか。すごいわね!」
ヴィオラは腕を組みながら、感心したように呟く。
その目が、ふと、天井の魔法陣を見上げた。
「……ねぇ、ピピン。ひとつ考えたんだけど」
「ん?」
「これと同じ原理で、あたしたち自身を上空に飛ばすことって……できるんじゃない?」
「上空に、飛ばす……?」
言葉を失った。一瞬、ヴィオラの意図が掴めなかったが、すぐに理解して青ざめる。
「え、待って、なんでそんなこと思いついたんだ?」
「だってさ、ジェッピの宮殿に侵入したいんでしょ? 市中は警備隊でいっぱい。なら、空から……って、思ったのよ」
「おお!」
ウチャが嬉しそうに跳ねる。
「自由落下って、あたし大好きよ!上からなんて、超ワクワクするじゃない!」
「いや、あんまり得意じゃないんだよ、そういうの……自由落下とか、高いところとか……」
肩をすくめて弱々しく笑った。
「まぁ、無理にみんなで一緒に飛ばなくてもいいから。まずは試してみようよ。たとえば、この天井に触れるくらいの高さで」
「それなら、あたしもやるやる!」
ウチャがすぐに反応する。
少し迷った後、頷いた。
「よし。じゃあ、軽く試してみるだけだよ?
ウチャ、サポートしてね」
「オッケー!」
「私も見守るわ」ヴィオラは静かに言った。「あの日の後悔はもうしないから。今度こそ、うまくいくように頑張りなさい!」
深呼吸。
目を閉じ、集中する。前方の空気を収束させ、背中側に圧縮、放出。足元から風が噴き上がるような感覚がした瞬間――体がふわりと浮いた。
「おお……うまくいった……! 天井にちょっとだけ触れた!」
「やったじゃない!」
ウチャが手を叩いて喜ぶ。
その場で彼女も、杖を構えて魔力を込めた。風の加護が身体を包み、ふわりと空中に浮かび上がる。
「すごいわね……」
ヴィオラも小さく呟いた。
「上空に飛べるなら、宮殿への侵入ルートも変えられるかもしれない。……あたし、こんな技があったなんて知らなかった。だから、あの日、ピピンにもっと注意していれば……」
「ヴィオラ」
ゆっくりと地面に戻りながら、彼女を見上げる。
「あの日のことはもう済んだ。今はこれからだよ。ここで成功すれば、宮殿に忍び込むチャンスがつかめる」
「そうそう! あたし、もっと高く飛んで、もっと速く落ちてみたいな~!」
ヴィオラはピシッと指を立てた。
「もっと練習して、ちゃんとコントロールできるようにならないと」
「よし、もう一回やってみよう。今度はもっと安定させて、みんなで飛べるようにする」
「いいね!」
ウチャは楽しげに飛び跳ねる。
「次はもっと上までいけるかも!」
「……私も頑張るわ。あたしたち、必ずジェッピの宮殿に忍び込むための作戦を成功させるのよ」
――こうして、訓練所の高い天井の下で、新たな可能性に挑み始めた。
小さな飛翔は、まだ不安定で拙いけれど、確かに一歩ずつ、未来に向かって前進している。




