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王立遺物鑑定官《レリック・アプレイザー》の事件簿  作者: ぽねこ
勇者パーティ殺人事件

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第6話 再確認

第6話 再確認


勇者の部屋に足を踏み入れるのは、これで二度目になる。


昼間に比べ、結界の魔力は安定していた。

歪みは修正され、空気も落ち着いている。

だが、それは「何もなかった」という意味にはならない。


部屋の奥、簡易的な保存魔法の中で、勇者の遺体は静かに横たえられていた。

致命傷はすでに確認済みだ。

今はこれ以上、手を入れる段階ではない。


「……装備を確認する」


そう告げると、戦士が一歩前に出た。


「鑑定官。必要なのか?」


「必要だよ」


短く答え、視線を装備に向ける。

勇者の鎧、手甲、ブーツ。

どれも手入れが行き届き、血痕も破損もない。


俺は、一つずつ手を伸ばした。


金属に触れた瞬間、僅かな魔力の反発が走る。

拒絶ではない。

ただ、「適正者ではない」と告げる程度の、形式的な反応。


問題ない。


鎧。

手甲。

ブーツ。


そして――剣。


勇者の聖剣は、台座の上で静かに魔力を帯びていた。

俺はためらわず、その柄に触れる。


反応は、他と変わらない。


剣は、沈黙している。


一通りの確認を終え、俺は手を引いた。


「……無闇に触るな」


戦士の声が、少し遅れて落ちてくる。


「勇者の装備だ」


俺は振り返った。


「分かってる」


一度は、素直に引いた。

それでも、部屋の空気は張りつめたままだった。


数秒の沈黙。


俺は、部屋を見回す。

机。

椅子。

ベッド。


どれも使い込まれているが、整っている。


それから――

もう一度だけ、剣の方を見る。


見落としたものがあるとすれば、そこだと思った。


俺は、再び聖剣に近づいた。


一歩。


「そこまでだ」


手を伸ばしたところで、戦士がはっきりと俺の前に立った。


「それ以上は許さない」


「理由は?」


「戦闘職でもない奴が、勇者の剣に触れる必要はない」


正論だ。

少なくとも、この場では。


俺は剣から視線を外し、戦士を見る。


「……君ってさ」


戦士が眉をひそめる。


「勇者と、仲良かった?」


「当たり前だろ」


即答だった。

迷いのない声。


「長い付き合いだ。何度も死線を越えた」


「そっか」


一度、そこで会話は切れた。


俺は剣に背を向け、部屋の中へ視線を戻す。


「勇者ってさ」


背を向けたまま、続ける。


「無茶するタイプだった?」


「……ああ。そうだな」


「止めても聞かない?」


「聞かないな」


戦士の声が、少し柔らいだ。


「でも、最後はちゃんと話を聞く奴だった」


その言葉に、俺は振り返らなかった。


「じゃあ――」


一拍。


「最後の日も?」


空気が、止まる。


戦士はすぐに答えなかった。

ほんの一瞬。

だが、確かに。


「……何だよ、それ」


苛立ちを含んだ声。


「いつもと変わらない。普通だった」


「普通?」


「ああ。朝も、移動中も、夜もだ」


早口だった。


「変な様子なんてなかった」


「そっか」


それだけ言って、俺は装備から離れた。


戦士が、何か言いたげに口を開き、閉じる。


「……鑑定官」


「なに?」


「変な聞き方するな。

……疑われてるみたいで、気分が悪い」


俺は答えなかった。


装備から離れ、部屋の出口に向かう。


振り返れば、戦士と視線がぶつかった。


「確認は終わりか?」


その問いに、俺は頷く。


「一旦ね」


部屋を出る前に、もう一度だけ装備へと視線を戻した。


鎧も、手甲も、剣も。

どれも綺麗だった。


丁寧に手入れされ、

長く大事に使われていたのが分かる。

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