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王立遺物鑑定官《レリック・アプレイザー》の事件簿  作者: ぽねこ
勇者パーティ殺人事件

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2/8

第2話 出発




知らせを聞いて馬車に飛び乗ったはいいものの、まだ落ち着かない。


魔王城へ人間が辿りつくには、必ず一つの遺跡を越えなければならない。


古代王国の遺跡。

数百年前に失われ、未だ完全な攻略記録が存在しない場所だ。


本来であれば、

勇者パーティほどの戦力があれば、遺跡鑑定官が不要か、あるいは最後の確認役として呼ばれる程度のはずだった。


少なくとも、このタイミングではない。


「……やはり、前倒しだな」


馬車の揺れに身を任せながら呟いた。


王都に彼らがいた時だっただろうか、遠目に見た背中を思い出す。人垣の向こう、旗と歓声の隙間に見えた、やけに真っ直ぐな背中。あの時、自分は資料を抱えて走っていて、立ち止まる理由もなかったのに、なぜかほんの一瞬だけ足が止まった──英雄というのは、ああいうものかと、場違いな感想を抱いたのを覚えている。


勇者死亡。

その直後に出された王命。


遺跡鑑定という表向きの理由はあるが、

実際は──調査だ。


しかも極秘の。


考えを巡らせている中、思考は勝手に脇道へと逸れて行った。

そういえば、解析途中の資料を引き出しにしまい忘れた。書きかけの報告書は

……帰ってからだな。

昨日まとめた魔力反応の数値はまだ仮説の段階で、あのまま放っておけば助手が勝手に触るかもしれないし、いや触らないか、あいつは妙に几帳面だから机には触れないはずだ、だがインクが乾ききる前に埃でも入ったら───



「……余計な事を考えても仕方ないね」



自分に言い聞かせるように息を吐き、緊張と不安を胸に抱え、そっと目を閉じた。




────────



聖域に到着したのは、次の日の昼を少し回った頃だった。


結界の中は静かすぎる。

魔王討伐を目前に控えた拠点とは思えないほど、人の気配が抑えられている。


案内役の兵士が、無言で俺を奥へと導いた。


そこで待っていたのが───

勇者パーティだった。


勇者を除いた三人。


戦士は腕を組み、あからさまにこちらを睨んでいる。

魔法使いは一歩引いた位置から、値踏みするような視線を向けてきた。

僧侶だけが形式的な礼を返してきたが、その目は疲れている。


「……王立遺物鑑定官、だな」

戦士が吐き捨てるように言う。

「今さら何の用だ。勇者は──」

そこまで言って途切れた。



「用件は皆様ご存知だと思っていました」

三人を軽く見渡していたら、魔法使いが口を開いた。

「まあ、あんな事もありましたし……」


「だからって、今じゃないだろう!」

戦士は苛立ちを隠しきれていない。

「あいつは、まだ……っ」


「やめましょう」

掠れた声で言った僧侶の指が、法衣の端を強く握っている

「……ここは聖域ですよ」


戦士が舌打ちして視線を逸らした。



はぁ、なんで俺がこんな目に。

つくづく役回りが悪い。


俺は懐に手を入れ、一通の書簡を取り出した。

封はすでに切られているが、赤い蝋はまだ形を保っている。


王家の紋章。

三人の視線が、自然にそこに集まった。


「……王命、なんですよ」


短く告げると、空気が一段と重くなった。

戦士は一瞬だけ歯を食いしばり、何も言わずに腕を解いた。



「でしょうね。遺跡の件でしょう。魔王城への道は、あれを越えねばなりませんから。」


魔法使いは話が早いらしい。

僧侶は目を伏せたまま、静かに言った。


「……勇者様が居なくなった今、時間がありません。」


居なくなった、か。

誰も"死んだ"とは口にしなかった。

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