第1話 勇者パーティ殺人事件
勇者はすでに死んでいた。
その知らせが届いたのは、夜明け前のことだった。
まだ街は寝静まり、王立遺物鑑定院の石造りの廊下には、ランプの光だけが淡く灯っている。
「起きているな」
顔を上げると、男が立っていた。深い青の外套の胸元には、王国の紋章が縫い込まれている。
王室直属の伝令だ。
嫌な予感しかしなかった。
「王命だ」
男はゆっくりと、封蝋の施された書簡を机に置いた。
赤い蝋に王家の印。
軽々しく使われるものではない。
嫌な予感を抱えながら、
俺は無言で封を切り、羊皮紙を開いた。
そこに記されていたのは、わずか一文だった。
ーー勇者死亡。
直ちに現地へ向かい、遺物鑑定を行え。ーー
一瞬、頭が真っ白になった。
いや、理解を拒んでいただけかもしれない。
勇者が死んだ? なぜ。
ありえない。
勇者は王国最強の剣士だ。
魔王討伐を目前に控えた、王国の希望そのもの。
魔物に遅れをとった?
それなら、こんな書簡は届かない。
暗殺された?
誰に。
そもそも──勇者は今、前線の聖域にいるはずだ。
厳重な結界に守られた、外部からの侵入が不可能な場所に。
「詳細は現地で説明される」
男が言った。
「状況は深刻だ。王宮は、この件を極秘として扱っている」
一体何が起こったというのか。
事故、病死、ありとあらゆる可能性を考えた時、一つの事が浮かんだ。
まさか──事件。
俺は羊皮紙を静かに折りたたんだ。
「遺体は...?」
「…密室、らしい」
男はわずかに視線を逸らした。
「中から施錠されていたと」
密室という言葉が、妙に耳に残った。
…いや、そんなはずは無い。
聖域は完全な結界で守られている。
だが、それでも──
もし、本当に密室なら、疑うべきは外ではない。
犯人は──内部の人間なのか。
「勇者は...」
男は一瞬だけ言葉を止め、
そして告げた。
「殺された」
部屋の空気が、重く沈んだ。
俺は椅子から立ち上がり、外套を手に取る。
遺物は嘘をつかない。
ならば──
勇者を殺した者も、必ずそこに記録されている。
「現地へ向かう。」
王立遺物鑑定官。
王国に三人しか存在しない、その一人として。
伝令の男は無言で頷いた。
夜明けは、まだ遠かった。




