77.予感
クラスの店番が終われば、次は生徒会の仕事だ。
生徒会室でイヴと合流して、見回りに向かう。
「キアラちゃん、どこか行きたいとこある?
どこでも一緒に行くよ」
「……ぇっと、手芸部に……」
「キアラちゃん、手芸部だもんね。
今年は魔導六師のレンツァー師からの指名依頼を展示にするって張り切ってたよね。
見に行こっか」
キアラとしては、魔法陣の刺繍体験を提案した張本人なので様子を見ておきたい。
多分、魔法兵団に帰ったら内容を報告させられそうだし。
「あれ、お兄ちゃん! 来てくれたんだ」
手芸部に着いたと同時に、イヴが駆け出した。
「おう、イヴ。ちょっとした仕事だ」
キアラが良く知るアズーラ中尉とイヴが並んで話しているのを見ると、なんだか違和感がすごい。
(手芸部のこともあるし、妹も在学してるし、卒業生だし。
アズーラ中尉が来てても全然おかしくないけど、なんか、変な感じだ!)
挙動不審になる前に、キアラはそっとその場を離れて体験ブースを見に行く。
かなりの盛況ぶりで、展示範囲から少しはみ出した所まで椅子が置かれていて、皆が黙々と作業している。
「ねぇねぇ、キアラちゃん〜!」
少しだけ嫌な予感がしたけれど、イヴに呼ばれたので大人しくそちらへ行く。
「この人ね、私のお兄ちゃんなんだけど! なんと、あの! 《殲滅の魔女》レンツァー魔導師の部下なんだよ! 凄くない!?」
「……ぁっ、はぃ……」
イヴにとっては自慢のお兄ちゃんなのだろうが、キアラは大変返事に困る。
「《殲滅の魔女》様と言えば、私よりも若いのに魔獣討伐記録、堂々の歴代1位!
しかも、連隊成績じゃなくて個人成績よ!?
私、夏休みに魔法兵団の選抜試験で魔境へ行ったんだけど、そこで見た魔獣の大きさと言ったら!
あれの前に一人で立つっていうだけで、すくみ上がってしまいそうなのに、特大型まで単独討伐するって、それはほんとに人間技じゃないって思ったわよ!
ほんとに凄くて憧れで、私はレンツァー師みたいになりたいから、魔法兵団を目指してるのよ!
そんな方の依頼を頂けるってほんとに素晴らしいことよね!」
とても熱く語るイヴはキラキラと輝くような目をしていて、本当に憧れているのだと思う。
ただ、その本人としては平静を取り繕うのに中々苦労するけれど。
「イヴ、その辺にしておいて、生徒会の仕事があるんだろう?」
「うん、ロルフお兄ちゃん。またね〜!」
隙を見てアズーラ中尉がやんわりと切ってくれたけれど、そうでなかったらずっと喋り続けていそうな雰囲気だった。
「キアラちゃん、次はどこに行きたい?」
「……ぇっと……特には……」
イヴの褒め殺しのせいで、冷静に考えることも出来ないキアラはとりあえず中身のない返事をする。
(イヴ先輩、レンツァーのことをそんなに思ってくれてたんだ。
頑張ってて良かったな……)
自分はずっとひとりぼっちだと思っていて、レンツァーとしての仕事は誰にも褒められる事なんてないと思っていた。
でも、こんなにも憧れてくれる人がいるなら、もっと頑張りたいと思える。
「フライドポテト、食べてみたいって言ってたよね? 行ってみようか」
「……はぃ!」
仕事モードになりそうだった気持ちを、グッと文化祭に向ける。
今しかない学生生活なんだから、存分に楽しみたい。
「……これ、揚げ芋とは……ちょっと、ちがいますねぇ」
アツアツでカリカリの芋を貰ってキアラは上機嫌だ。
「そうね、もっと軽くてカリカリで美味しいでしょ?」
「……はぃ、もっと、食べたくなる感じ、です」
「そうよね! 私も1本もらえる?」
「……もちろん、です。どーぞ」
1本つまんでイヴの方へ差し出す。
「あら、いいの〜? あーん。 美味しいわ〜!」
受け取ってくれるかと思ったら、そのままぱくりと食べられた。
(なんか、女の人なのに、ドキドキしちゃった)
少し頬を赤らめているキアラを見て、イヴは益々満足気に微笑む。
(でも、何だろう。なんだか、胸騒ぎがする……)
凄く楽しくて、今まで感じたことがないくらいにワクワクする。
なのに、心の奥底が冷たい氷で冷やされたみたいな、嫌な感覚が消えてくれない。
(きっと、気のせいだよね。気持ちを切り替えて、楽しみたいな)
そう思うのに、その感覚は、消えてはくれなかった。
一旦生徒会室に戻ると、キラッキラの衣装をまとったルーレストが難しい顔で座っていた。
「あれ、会長どうしたの? 劇の準備は?」
「それはもうほとんど出来ているからいいんだけど、ちょっと落ち着かなくてね」
「そりゃあ、それだけキラキラの服なら落ち着かないでしょ」
夜会仕様のルーレストを見慣れているキアラでもびっくりするような、舞台映えする衣装だ。
「服はそんなに気にならないんだけど、何となく落ち着かない感じがしてね」
「えー、会長でも緊張とかするんだ?」
「ただの緊張だといいんだけど」
茶化すイヴとの話の中身を聞いていると、益々嫌な予感が膨らんでくる。
(ルーレスト先輩も、嫌な感じがするんだ。
もしも、魔王と勇者が同じように感じているのなら、気のせいじゃないのかも……)
そう思っても、もちろんルーレストに『魔王も嫌な予感がしてるんで気をつけてくださいね』なんて言えない。
なので、グッと自分に気合いを入れ直すのだった。




