76.クラスの文化祭
次の日は、もちろん待ちに待った文化祭の当日だ。
「……す、すみません……ご迷惑を、おかけしました……」
朝一番に生徒会室に集まってすぐ、キアラはぺこりと頭を下げた。
「……文化祭前の、大事な時期に、来れなくて……」
「いいのよ、体調不良は誰にだってある事だもの。キアラちゃんはただでさえ身体が弱いんだから、無理しないでね」
イヴが優しくそう言ってくれて、心が軽くなる。
「そうだぞ。自分の身体が一番大事だからな。それに、文化祭前に来れなかったのは会長も一緒だから大丈夫だ」
ウェブはおどけたようにそう言う。
「そうだね。僕も迷惑かけた。ごめんね」
「いや、会長の休みは違うでしょ。国を守るためなんだから、休んでも当然だって!
お疲れ様!」
「アズーラ君、ありがとう。
それはともかく、今日は文化祭だ。
外部からのお客さんも来るし、当日になって慌てる団体は必ずある。
というか、どこのクラスも必ずトラブルが起こるから、手に負えない場合に教師に連絡したり、お客さんに説明したりするのが主な仕事だ。
僕らはあくまでサポートなので、その問題自体を解決する必要はない。
5人で出来ることは限られているので、ひとつの事に囚われすぎず、適宜他の人に仕事を振るように心がけて欲しい」
「「はい」」
「基本的には巡回がメインの仕事で、何かあれば職員への連絡の役目を果たしてほしい。
巡回に出る時間は指定したけれど、好きなルートで周っていいよ。
あまり固く考えず、文化祭を楽しんで欲しい。
友だちの店を覗きに行ってもいいし、見たいステージの演目があるならぜひ行っておくれ。
生徒会の仕事とはいえ、メンバーも文化祭を楽しむように。
以上、各自頑張ってくれ!」
「「「はいっ!」」」
(……やっぱり、ルーレスト先輩は凄いなぁ。なんでか分からないけど、話を聞くと背筋が伸びる気がするもんね)
頑張ろうという想いを胸に、まずはクラスの出し物に行く。
昨日の夜に突貫工事で作った立て看板も無事完成し、キレイなお店に仕上がっていた。
教室の前の廊下にいるソフィアは、『チョコバナナ』という可愛らしい文字とイラストの描かれた看板を持っている。
今日はいつもより気合いが入っているようで、かなり複雑な編み込みのヘアスタイルだ。
「……おはよ、ソフィアちゃん、髪の毛、かわいいね」
「おはよう、キアラちゃん。褒めてくれてありがとう。
朝から頑張ったのよ!」
キラキラの笑顔だから、より一層かわいく見えた。
教室の中では、もう準備がかなり進んでいた。
「……遅くなって、ごめん……何をしたら、いいかな……?」
調理班の責任者っぽい立ち位置になっている、サンディに聞いてみる。
「キアラちゃんは生徒会で忙しいんでしょ?無理しないでね。
えっと、もうすぐ開店時間だから、そろそろチョコレート刻みはじめて欲しいな」
「……分かった」
顔を覚えるのが苦手なキアラは、一緒に刻み担当になったのが誰だったか忘れてしまったけれど、自分の仕事を一生懸命にしよう。
開店時間と同時にかなりのお客さんが入ってきたので、一気に忙しくなった。
壁に向かってただ包丁を動かすだけの仕事だけれど、黙々と進める。
最初のうちは周りと雑談していたクラスメイトも、だんだんとその余裕が無くなってきた。
「もー、手が痛いんだけどー! 誰か代わってよー!」
キアラの隣でチョコを刻んでいた女子が、悲鳴のような叫びを上げる。
「結局俺の仕事かよ〜」
「ごめんね、ロッテン君。ありがとう」
「まあ任しとけよ!」
でも、文句を言いつつやっていた女子より、格段にスピードが上がったので良かったと思う。
キアラの腕もいい加減痛くなってきたので、いつだったか刺繍をした時のように、魔力の腕を動かそうかと考える。
(でも、これは結構力がいるから加減が難しそうだな。それに、周りに人がたくさん居るから、何か事故があったら怖い)
と、いうことで、諦めて地道に手で刻むことにしたのだった。
クラスの店番の時間が終われば、次は生徒会の仕事、なのだが。
「キアラちゃん、ずーっと刻みばっかりでごめんね、疲れたでしょ」
持ち場を離れようとしたら、サンディが声をかけてくれた。
「……ぅん、大丈夫」
「そう? でも、交代もなしにやってくれたし、ありがとね。
チョコバナナ食べていく?」
「食べたいっ!」
珍しくいい勢いで返事をする。
「そうだよね、美味しいもんね!
ごめん、1本こっちにまわして貰えるかなー?」
調理班の中でもキアラから遠い、チョコを冷やして固めている人に声をかける。
そうして数人の手を経たチョコバナナが、キアラに手渡された。
「はい、どーぞ!」
「……ぁりがとう。美味しそう」
ぱくりと食べると、ねっとり甘いバナナと、パリパリ甘いチョコレートが合わさって、とても美味しい。
「キアラちゃんって、本当に美味しそうに食べるよね」
「……そう、かな。ありがとう」
準備は大変だったし、今日一日とても忙しそうだけれど、こんなに美味しいものを貰えるなら頑張ろうと思ったキアラだった。
(だって、こんなの魔境にはないもんね)




