70.クラスの文化祭
「では、1-Aの文化祭はチョコバナナで決定しました」
勇者との魔王討伐任務とは打って変わって、平和な学園生活だ。
今日もクラスの文化祭準備なので、エルデが前に立って話を進める。
キアラはそういうのが苦手なので、相変わらず板書係りだ。
希望が叶ってクラスメイトは喜んでいるけれど、キアラは『ちょこばなな』が何なのか、実は知らない。
みんな嬉しそうだし良かったな、という程度だ。
それから店の役割分担決めに移ったが、受付、販売、調理、宣伝とそれぞれ希望者で枠がどんどん埋まっていく。
(出来れば、裏方がいいなぁ……)
とは思うものの、みんなの希望を書く方に忙しくて、自分の希望を書く暇がない。
そうしているうちに調理の枠が埋まってしまいそうだ。
「キアラはどこが希望だ?」
キアラの考えが分かったのかと思うほどいいタイミングで、エルデが振り返って訊いてくれる。
「……ぇっと……裏方が……」
「じゃあ調理にするか」
「……ぁっ、ぅん……」
カリナとソフィアはそれぞれ受付と宣伝なので、一緒にやるのは難しい。
調理に入れて貰えたら、その方が気が楽だ。
それぞれに担当が決まり、班ごとに分かれる。
キアラの入った調理班では、今日は試作をするそうだ。
「……チョコバナナ、って、何?」
調理班に入ったものの、何を作るか知らないキアラは隣の子に訊いてみる。
「えっ、チョコバナナ知らないの? お祭りとか行かない感じ?」
「……ぁっ、ぅん……」
キアラの知っている祭りは、故郷の村の収穫祭くらいだ。
人混みの中で魔力が暴発するのが怖いので、祭りみたいに人が沢山集まる所は苦手なので。
でも、最近は魔力操作が上手くなったので、いつか行ってみたいな、とは思っている。
「何で行かないの?」
積極的に人と話さないキアラが殆ど喋ったことの無い相手なので、無邪気に聞いてくる。
「……ぇっと……仕事で……忙しい、から……」
「あっそうなの。ごめんね」
なんとか言い訳をしたら、かわいそうな子を見る目で見られてしまった。
でも、それでもいいや、と思う。
キアはとにかく秘密が多いから、仕方がない。
「バナナ届いたよ〜」
南方からの貿易品で手に入りにくい物だから、クラスメイトのひとりがまとめて注文してくれている。
こういう時、貴族で実家の権力があると違うなぁ、とキアラはひとりで感動していた。
(……ぁっ、見た事ある!)
いつだったか、レンツァーとしてパーティーに出た時に、この特徴的な形を見た覚えがあった。
その時にはただの飾りだと思ったので食べなかったのだが、食べられたのか。
「キアラちゃん、食べたことないんでしょ?
食べてみたら?」
先程キアラと話していた女の子は周りからサンディと呼ばれていて、かなり気さくな性格らしく、キアラに試食を勧める。
「……ぁっ、ありがとう……」
作り物みたいにパキっとした黄色は、馴染みのないキアラには食べ物に見えない。
「ここから剥くの。ほら」
でも、サンディが手で簡単そうに皮をむくのを見るとなんだか美味しそうだ。
「……わぁっ、おいしい!」
とっても甘くてなんだかねっとりしていて、とても美味しい。
「そうでしょ?」
「……ぅん、おいしい。なんか、変わった匂いが、するね」
「それがバナナの美味しさよね〜。だから、チョコとも合うんだよ」
「……これより、もっと、美味しくなる?」
「そうだよ! キアラちゃんって、すごく美味しそうに食べるね」
「……だって、おいしいもん!」
キアラは人付き合いから意識的に遠ざかっているだけで、基本的に素直な性格だ。
初めての食べ物に感動しているその姿は、クラスメイトが見ていてほっこりするほど可愛らしかった。
(やっぱり、王国はいいな。魔境には食べ物ってそもそもないもんねぇ)
当の本人はそんなことを考えていたけれど。
「じゃあ、次はチョコレート刻むの手伝ってくれる?」
チョコレートは、キアラも食べたことがある。
甘くて美味しいので大好きだ。
溶かしやすくするために刻むのは、錬金術の手法にかなり似ているのでお手の物。
言われた通りの大きさに手早く刻む。
「キアラちゃんめちゃくちゃ手際いいね! どうする? 得意なら、刻み担当になってくれない?」
「……はぃ」
キアラは他の人の速さを気にしていなかったけれど、言われて隣を見ると倍近いスピードだ。
慣れた仕事を割り振って貰えた方がキアラもやりやすいので、刻み担当にしてもらおう。
「ロッテン君も刻み担当頼んでいい? もちろんシフトで交代にはするけどさ、包丁使うの上手いし」
「いいぜ。ただ、めんどくさい所担当するんだから食わせろよ」
「もちろんだよ〜!」
キアラより遅いけれど、隣の男子も刻み担当になるらしい。
しかも、キアラと違ってちゃんと自分の利益も確保するあたり、抜け目ない人だ。
「はい、出来たよ〜! 最初のは、チョコ刻んでくれた二人にどうぞ」
サンディがずい、とチョコバナナを差し出してくれる。
「おう、さんきゅー!」
「……ありがと」
さっきのバナナだけの状態でも充分美味しかったのに、更にチョコまでつけるなんて!
「おいしい〜!」
キアラは感動だ。
ねっとり甘いバナナと、パリパリ甘いチョコが美味しすぎる。
こんなに美味しい物が食べられるなんて、キアラは益々文化祭が楽しみになった。
「うん、美味いな!」
「やっぱり、変に工夫するより王道がおいしいよね。じゃあ、これでやろっか」
美味しさに感動するばかりのキアラとは違って、調理班の他のメンツはちゃんと試食して相談している。
でも、チョコバナナを見つめてうっとりしているキアラの可愛らしさに、なんだかほっこりするのだった。




