59.新学期
「あっ! キアラ! 久しぶり、夏休みの間は大丈夫だったの?」
新学期前日に学園の寮に戻ったキアラの所に、カリナが早速来てくれた。
「……ぅん。ごめん、お仕事に行ってて」
「そうなんだってね、キアラの職場の人から返事が届いたからびっくりしたわよ」
キアラ・レンツァーが行方不明になってから、カリナへの返事はアズーラ中尉が書いていた。
「……ぅん、カリナの家、行きたかった……」
「私もキアラに来て欲しかったわよ。で、仕事ってどこに行ってたの? 楽しかった?」
「……ぅん、ちょっと……言えない……ごめん」
「あら、キアラちゃん、お久しぶり」
そこへソフィアも来てくれて、いつもの友達とお喋りが出来ること自体が嬉しい。
「ソフィアちゃん、久しぶりね。あのさ、キアラは夏休み中ずっと仕事に行ってたんだって」
「あら、そうでしたの。どちらへ?」
「それが言えないっていうから、なんか怪しいとこなんじゃないの?って思うんだけど」
カリナの良いところは素直で明るい所だけれど、本人の目の前で職場が怪しいと言うのはさすがにどうかと思う。
「……大丈夫、そぅいうんじゃない、から……」
目を逸らして、なるべく言い訳っぽく黙り込む。
これはアズーラ中尉に教えてもらった言い訳方法で、こうすると『王宮か軍関係の店だな』とみんなが思ってくれる、らしい。
変装中のキアラとしてはそれでいいのか? と思わないでもないが、アズーラ中尉が良いと言うんだから良いんだろう。
「……ぁの、ごめん、図書館へ、行かないと」
「こんな初日からわざわざ? どうしたの?」
カリナが心配してくれる。
「……ぇっと、魔法生物学と、魔法陣学の課題、出来なくて……。
本を読んでまとめ、だけど、本が、無かったから……」
「そうなの!? そっか、学園の生徒で魔法系の本が全くない家ってほとんど無いかもね。
先生も見落としちゃってたのかも。
そんなんだったら、教えてくれたら仕事先まで本を送ってあげたのに!」
「……カリナ、ありがと。出来なかったから、今日借りて、提出日までに、書くよ」
「キアラ、大変だけど、頑張ってね!」
時間が足りなくて間に合わなかった課題の言い訳なのに、応援してくれるなんてやっぱりいい友達だな、と嬉しくなった。
翌日からの教室では、魔王復活の話で持ち切りだった。
「でも、やっぱり怖いよねぇ」
前からそうだけれど、魔境の脅威が身近なカリナはとても怖がっている。
「そうですわよね。私も、今年は領地へ帰らず、ずっと王都にいましたもの」
「ソフィアちゃんは帰らなかったんだ。私は地元に帰ったんだけど、その時に結界の更新もしてきたよ」
「結界の更新、ですか……?」
結界と聞いたら、キアラもかなり気になる。
「もしかしたらまた魔族が攻めてくるかもしれないでしょう?
その時に、命だけは守れるように、教会とか砦には結界魔法を組んであるの。
でも、それをしたのは前の襲撃の時だから、もう20年近く経っているのよ。
さすがにそろそろ更新しないと、って言ってもお金が無くて。
今まで出来てなかったんだけど、私が勉強して出来るようになったから、更新したってわけ」
そう語るカリナはとても嬉しそうで、学園を辞めて帰ろうかと言っていた時の彼女とは全然違った。
大切な人を守れるという自信に満ちた彼女は、キアラから見てとても格好良いと思う。
「そうなのね、凄いじゃないの!
だから、前期で結界学を熱心に受けてたのね」
「そうよ。しかも、古い術式のままじゃなくて、ちゃんと最新のものに変えて更新したわ」
「……カリナ、すごいね」
故郷の人々にそうして頼られるカリナがとても輝いて見えて。
良かったな、って思うのに、心のどこかでほんの少しだけ、羨ましいなって思った。
キアラが戻ってきた日常を噛み締めている中、期末テストの実技の成績で席替えが行われた。
トップ5人の順位は変わらなかったけれど、カリナは少し順位を上げた。
(あとで、おめでとうって言ってあげなきゃ!)
ちなみに、キアラの成績は座学を含めればもっと低いが、席次には実技しか考慮されない。
この学園では、あくまで大切なのは実技で、座学は魔法行使の能力を上げるためにしているだけ、という扱いだ。
魔境と戦い続ける国だから、そういう風潮になっている。
「じゃあこれでホームルームは終わりだ。あとは文化祭の話だが、エルデ、キアラ、頼んだぞ」
担任は気楽な調子でそう言って、とっとと教室を出て行った。自由な風潮の学校とはいえどうなんだ、とキアラはたまに思う。
「じゃあ、文化祭の出し物を決めるぞ。
例年、1,3年は出店で、2年が劇をすることになっている。それでいいか?」
エルデがどんどん話を進めてくれるので、キアラは大人しくチョークを持つ。
この場を仕切れと言われても困るだけなので、書記に徹するつもりだ。
「反対が居ないなら出店だな。やりたいものの候補を出してくれ」
祭り、と言われてキアラが思い出すのは故郷の村の祭だ。
いつもの店が広場に出てくるだけでも、とても楽しかったのを覚えている。
だけど、みんなが候補として出す店は、キアラには馴染みがなくて、よく分からない。
言われるがままに書き連ねてゆく中で、
(そういえば、冬至の星祭りにパン屋さんが作る星のパン、とっても美味しかったなぁ……)
そんなことをふと思い出した。




