58.討伐ペース
そうして魔法兵団に帰ってきたキアラだけれど、夏休み最初のようにガンガン魔獣討伐に行くのはやめた。
理由は、魔王の玉座と魔王城の本から貰った、知識があるからだ。
それによると、魔境は世界中の魔力の溜まり場で、その中でも特に魔力濃度が高い所に魔獣が産まれる。
その濃い魔力の結晶が、魔石となるのだ。
つまり、魔獣は魔境の魔力の結晶なので、その魔獣を討伐して人間界に魔石を持ち出すことを、魔族はとても嫌悪している。
しかも、悪いのは感情論だけじゃない。
魔獣が自然に死ぬと魔石はそのまま魔境の土地へと還るけれど、それを持ち出してしまうとその循環が起こらない。
魔石を使うとそのなかに溜められた魔力が放出されてしまうのだ。
その魔力は自然と巡るけれど、消えてしまう部分もあるから、わずかづつでも減っていく。
その状況がずっと続いて、もしも魔力が全く無くなってしまったら、どうなるだろう。
魔族が生きていけないのはもちろんだけれど、人間も大混乱に陥るだろう。
それほどまでに、魔力は今の人類の根幹を支えているから。
キアラは、人間が出来る範囲で魔獣を倒すことを止めはしないけれど、自分が調子に乗ってどんどん討伐するのはやめようと思っている。
それに、アズーラ中尉はキアラのことをとても心配してくれているから、あんまり不安にさせたくないのもある。
「……ぁの、アズーラ中尉?」
「はい、どうしましたか」
「……討伐任務、なんですけど。前は、たくさん行ってたじゃないですか。
……でも、わたし、疲れちゃったんです。
疲れてたから、魔族に、捕まったのかな、って。
とってもとっても怖かったから、あんまり、魔境に行きたくないな、って……」
精一杯可愛い感じでアピールしようと思って、ルチア先輩とかソフィアの仕草を真似してみたら、多少は効果があったみたいだ。
「レンツァー師、それは至極当然のことです。むしろ今まで、兵団がレンツァー師に頼りすぎ、働かせすぎていました。
週に一回3時間、この規定をやはり守るべきかと考えます」
「……そぅ、します。ぁりがと」
「レンツァー師は学生で、しかも特殊任務中ですから、魔境任務は無しにしたい、と言っても良いくらいだと個人的には思います。許可は出ないでしょうけれどね。
とにかく、無理は禁物ですよ」
「……ぅん」
早口でまくし立てるのはおばあちゃんとは全然違うのに、何だか似ている気がして安心する。
「それに、レンツァー師は魔境任務も大切ですが、学園の新学期に向けての勉強も必要だと思います。山ほど課題が出ているかと思いますので、取り掛からないとまずいと思いますが」
「……そぅ、なんです。あれ、終わりますかねぇ……」
「忘れている所もあるでしょうし、とにかく課題をやりましょう。もちろん自分も手伝いますから。
この夏休みで今まで出来なかった基礎をやろうかと思っていましたが、それは無理です。
せめて、課題だけでもやらなければ!」
アズーラ中尉にしたら、キアラの課題が出来ていないのは魔法兵団のせいだ。間違いなく。
でも、それを学園に言うことは出来ないから、このままではキアラがただのサボり生徒になってしまう。
それはあまりにも可哀想なので、自分に出来る限り手伝おうと思っているのだ。
(あれ、すごく分かる……なるほどねぇ……)
一方キアラは、忘れていることを覚悟していたのに、むしろ前よりよく分かるようになっていて驚いた。
それもそのはず、古代語を完璧にマスターしたからだ。
今の魔法の原点は全て古代魔術が源流で、それを使いやすくしたのが現代魔法だ。
時と共に言葉が変わり、魔法に使うのとは違う言葉になったから〈古代語〉を別で覚えないといけなくなったが、キアラはそれを日常生活レベルで習得した。
「レンツァー師、かなりきちんと覚えていますね。素晴らしいですよ」
アズーラ中尉が褒めてくれるが、キアラとしてはちょっと居心地が悪い。
自分の努力じゃないけど、と言い訳したくなっちゃう。
(しかも、古代語だけじゃなくて、古代語で書かれてる術式学とか詠唱学とかも分かるようになってる!)
キアラは自分一人で感動するけれど、さすがに全部出来るのはあまりにも不審なので、アズーラ中尉の前ではかなり気をつけないと。
学園では、夏休みの間に頑張ったと言おう。
(あんなに苦労してた勉強が、こんなに分かるようになるなんて!)
キアラ自身の努力じゃないけれど、これだけラクになるのなら、魔王の玉座も悪くなかったかな、とか思う、現金なキアラなのだった。




