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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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60.生徒会、本格始動



 文化祭へ向けて、生徒会の活動が本格化し始めた。

 今日の書記の仕事は、各クラスが出してきた出し物の案をまとめて調整することだ。


「1年と3年で8クラスしかないが、やりたいものはだいたい同じになるから、調整も生徒会の仕事だ」


 そう言うウェブは慣れているのですいすい進める。


「ああ、そのクラス、避けといて」


 横からウェブがそう言ってくるけれど、どこのクラスとも被っていない。


「……ぁの、なんで、ですか?」


 昔のキアラは誰かにものを訊くことなんてしなかったけれど、最近は教えてもらうことに慣れてきたので、疑問に思ったらそれがすぐに口から出てくる。


「そのクラス、アイスクリーム屋を希望してるだろう?」


「……はぃ」


「まだまだ暑い時期だから、みんなが食べたかったってだけでアイス屋を希望してるかもしれないからな。

 だが、文化祭は秋も半ばだ。本当にその時期にアイス屋で良いのかは聞いてやらないとな。

 当日閑古鳥が鳴いたら可哀想だろう」


「……なるほど」


 ただ機械的に分けていくだけでなく、奥が深いものらしい。


「……ぁの、この、ジュース屋さんは、どうしますか?」


 アイス屋と同じなのでは、と思って聞いてみる。


「ジュース屋は例年出しているし、そこそこ売れているから大丈夫だ。

 一昨年はめちゃくちゃ寒かったから、ホットオレンジジュースとかいう気持ち悪い物を売ってたけど、意外と売れたらしいぞ」


「……へぇー……」


 全部を見ると、串焼き屋とカフェが2軒ずつになったし、料理部もカフェを希望している。


「その場合、3年優先な。料理部には、カフェクラスがあると通知だけしておいてくれ」


「……分かりました。色んなお店が、ありますね。知らないのばっかりです」


「そうなのか?」


「……はぃ。うちのクラスのも、あんまり分かっていませんよ」


「1-Aは、っと……。第1希望はチョコバナナ、あとはカジノとフライドポテトか」


「……はぃ。酒場の賭博と、揚げ芋は分かるんですけど。チョコバナナ、は、あんまり分かりません。チョコレートなんですよね?」


 バナナは南国の果物で、王国では栽培されていないし痛みやすいので、最近ようやく王都に流通し始めたばかりだ。

 貴族ばかりのクラスメイトは知っていても、キアラには何か分からない。


「賭博と揚げ芋もちょっと違う気はするが……。まあいい、どことも被っていないから、採用されるから食べてみりゃ良いだろ」


「……はぃ、楽しみです」


「よし、んじゃあこれで決定、各クラスに通達だな。んで、次は劇だ」


 書類1枚目の2-Aは『勇者伝』希望だ。

 キアラでも知っている有名なお話で、勇者が魔王を討伐に行く物語。


 全王国民が、寝物語に聞いて憧れるお話なので、希望クラスがあること自体は全く不自然ではないし、主演は決まったも同然なのだが。


「ははは! 会長のクラス、勇者伝希望か。おーい、会長、いいのか?」


 少し離れた机で作業していたルーレストに、ウェブがからかうように問いかける。


「他の全員が賛成なんだよ。さすがに断れなくてね」


 そう言うルーレストは、かなり嫌そうだ。


「だけど、毎年勇者伝は人気だろう? 

 他のクラスと被ってないのかい?」


 被り相手があれば是非ともそちらへ押し付けたい、という風情だが。


「会長、残念ながらどこも書いてないぜ。Aクラスがやると思って避けたんだろうな」


 それを聞いたルーレストは、はぁ、と大きなため息をひとつついて。


「仕方ない、許可しといて」


 かなり嫌そうに、そう言った。






 その日の夕方。

 キアラはうっかり生徒会室に忘れものをしてしまったので、点滴が終わってから慌てて生徒会室へ向かった。

 遅くなったら、ご飯が食べられなくなってしまうから。


「……す、すみません……生徒会室の、鍵を……」


 いくら何でも誰もいないだろうと思って、職員室で鍵を借りようとしたら、まだ鍵は返却されていないという。


「……ぁっ、はぃ……」


 少し疑問に思いながらも生徒会室へ行くと、まだあかりが付いていた。


「……す、すみません……」


 恐る恐る中へ入ると、ルーレストが一人で居た。

 かれは夏休み前に『怖い』と言っていた時と同じような、表情の薄い顔をしていて、心のどこかがきゅっと痛くなる。


「……ぁの……?」


「どうしたの?」


 その笑顔はいつものルーレストなのに、さっきの表情が頭から離れない。


「……忘れものを……」


「そう」


 ただそれだけを返して、また物思いにふける様子は、なんだかとても脆そうに見える。


 魔法兵団で聞いたところによると、ルーレスト殿下は毎日学園の訓練所で近衛兵や魔法兵団の団員相手に訓練を重ねていたそうだ。

 それでも、まだ怖いのだろうか。


「そんな顔しなくても大丈夫だよ。単に、夏休み中に魔王の気配を感じた、ってだけ。

 今はそれもしないから、大丈夫。怖がらなくていいよ」


 そう言うルーレストは、自分が一番怖がっている感じがした。


 (今なら、言ってあげられるのに。大丈夫ですよ、って。

 絶対、魔王は勇者を倒さないから、安心していいですよ、って)


 本気で、言ってしまおうかと思った。

 それくらい、キアラは秘密を抱え続けることが苦痛だった。

 極秘任務の秘密だけでもつらいのに、『自分が魔王だ』という、どうしようもない秘密まで抱えてしまって、どうしていいか分からなくなっている。


 でも、今全てをさらけ出すことなんで、絶対に出来ない。

 だって、自分が魔王だと分かったら、ルーレスト先輩に討伐されてしまう。


 今のこの楽しい時間が崩れてしまうのは、絶対に嫌だった。


 だから、やっぱり、何も言えなくて。


 考え込むルーレストを置いて、ひとりそっと部屋を出ることしか、出来なかった。


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