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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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55.玉座



 魔王が玉座に居るだけで、魔族は元気になる。

 その言葉通り、大広間の最奥にある玉座にすわるキアラの所へは、ひっきりなしに違う魔族がやってくる。

 彼らは皆、目を爛々と光らせて、非常に活動的な様子だ。


 〈魔王様、復活をお喜び申し上げます〉

 〈俺こそが、勇者の首を取り、魔王様に捧げます!〉


 喜び勇んでやってくる魔族達は、キアラに気にいられようとしているのかもしれないが、全ては彼女にとって逆効果。


 (……ぃゃだ、いやだ、嫌だ!)


 玉座から与えられた記憶と知識からは、永きに渡ってニンゲンたちと戦ってきた歴史が詰まっている。

 だから、彼らがニンゲンを、そしてその代表である勇者を倒そうと意気込む気持ちはよく分かる。

 ニンゲン達もまた、魔王討伐を掲げて活動するのだから。


 でも、当事者となれば話は違う。

 キアラの部下である魔族達が、ルーレストの命を狙っている。


 それは、キアラには絶対に許せないことだった。


 だって、キアラは、ルーレストが『怖い』と呟いた時の、あの薄い表情を今でも鮮明に覚えている。

 そしてキアラは、彼を守ると宣言したのだ。

 その約束を、違えるつもりはない。


 だから、今ここに集まった全ての魔族に対して命令する。


 〈魔族の皆さん、聞いてください。全員に、命令です。

【ニンゲンに、危害を加えるな】必ず、守ってください〉


 〈魔王様、正気ですか!〉

 〈平和主義者のフリをするな!〉

 〈生ぬるいことを言うな!〉


 気性の荒い魔族達は口々に非難するが、命令には逆らえない。

 魔族にとって魔王の命令は絶対で、魔力を乗せた魔王の声には、絶対に逆らえないのだ。

 それは玉座が教えてくれたことで、魔族達は刃向かいながらも何も出来ない。


 ただ、偶然ではなく意図的に、『魔王』として命令を下すことは、とても恐ろしかった。

 ルーレスト先輩の命を守るためのナイスアイデアだと思ったからやったのに、目の前の魔族が逆らえないのを見てしまうと、とんでもない力を手に入れ、それを使ってしまったのだと、感じた。


 武闘大会の時、何故魔法が解けたのか誰にも分からなかったけれど、今なら分かる。

 コンラート・エルデとガンツ先生を通して、彼らを操る魔族に魔王の命令が使われたのだ。

 結界に魔力を流していたから、その魔力が命令に上乗せされて、かなりのエネルギーが魔族の元へ流れ込んだ。

 だから不自然に魔法が解けて、ガンツの傀儡を含めた全ての術が破壊された。

 それほどまでに、絶対的な権限を有しているのだ。




 キアラは玉座から沢山の知識をもらったけれど、その中身は事実の羅列ばかりだし、断片的なところも多い。

 だから、ここに居る時間を使って本を読もうと思った。


 代々の魔王は、ここから動けないからきっと暇だったんだろう。

 手の届くところに、大きな本棚が幾つもある。

 それに、キアラには魔力の腕があるから、見える範囲ならどこにあっても取れる。


 やっぱり、魔力操作が出来るようになってて良かったな、と思いながら、次の本を選んで読み始める。

 これは昔の魔王が書いた、勇者との戦いの話だ。


 キアラは、自分が魔王だと認めたくない。

 けれど、認めざるを得ないことも、分かっている。

 だから、代々の魔王達がどんな生い立ちだったのか、どんな生活をしていたのか、知りたいんだ。


 でも、どんなに探しても、ニンゲン出身の魔王は見つからない。

 それに、魔王は意識を持った時には既に魔王復活が予言されていて、キアラみたいに何年も生きてから復活予言がされることはないらしい。


 やっぱり、自分が魔王じゃないのかも! と思うけれど、魔王城の玉座に座れて、魔力を供給出来たらそれは立派な魔王らしい。

 泣きたい。


 でも、泣いている場合じゃないので本を読み続ける。時間があるうちに、少しでも多くのことを知りたいから。


 魔族達と同じように、食事も必要無くなって、段々日付の感覚も無くなってきてしまった。


 (……ぇっ……!!!)


 気づいた時には、魔王の証は足首にも出現していた。


 (……嫌だっ!!)


 それは間違いなく魔王に近づいている証で、とてもとても嫌だ。

 でも、周りの魔族達は心の底から嬉しそうだ。


 〈ねぇ、ダン。魔王様が、もっと、凄い魔王様になるね〉

 〈そうだね、ザン。良かったね〉


 白黒の双子少女が嬉しそうに両足を撫でるのが、いっそ気持ち悪い。


 そう思うのに、キアラの中でも戸惑いが生まれていた。

 それは、『魔族達の、期待を裏切りたくない』という気持ち。


 本当にキアラが《殲滅の魔女》として働くのなら、ここは魔族が集まっているところなんだから、大魔法を連発して全員を消滅させればいい。


 そうすれば、大手を振って王国に帰れるだろう。


 でも、キアラはそうしたくない。

 この白黒の少女たちは、玉座の前にぺたんと座り込み、飽きもせずにキアラの足首を撫で回している。

 きっとそれは、永く魔王復活を願ってきて、それがようやく叶いそうだから、とっても嬉しいのだろう。


 それは、ニンゲンも魔族も変わらない気持ちのように思える。

 それを裏切ることは、キアラにとって楽しいことじゃない。


 それに、玉座にずっと居たい気持ちになっているのだ。

 ここへ来てからずっと座りっぱなしでも、どこも痛くない。それどころかとても快適で、ずっとずっとここに居たいと思う。

 気持ちも穏やかで、とても心地よい感じがする。


 でも、キアラの頭のどこかでは、この状況を冷静に分析する自分が居た。

 この快適さはきっと、魔王の玉座の効果だな、と。

 帰りたくないしどこかへ行きたくもない。それはどう考えてもおかしいし、玉座の知識からも貰っていない。

 だから、きっと玉座にとって隠したい機能なんじゃないかな、って。


 それは、きっと魔王本人に知られたら都合の悪い事だからじゃない?

 魔王を魔力の源としか見ていなくて、供給装置の根幹となる存在を、ここに居させるための機能なんじゃ……?


 段々、ここに来る前のことを、思い出さなくなっている気がする。

 というか、前って、いつだったっけ……?


 私は、ずっと玉座に居たわけではないはず。

 なのに、ここに来る前のことが、霞がかかったようにおぼろげで、うまく、思い出せない。


「……ぁれ? わたし、何か、忘れてる気がする……?」


 そう、この言葉も、久しぶりだ。

 ずっと、〈古代語〉で話してて……?


 あれ、この言葉は、どこの言葉?


 分からない、分からない。

 分からないことが怖い。


 怖いことから逃げよう、と玉座が囁く。

 思い出さなくていいよ、大丈夫だよ、って。


 でも、キアラはそれは嫌だった。

 だから必死に思い出す。


 何か、あの頃の思い出を、何か……。


 ふと、思い出した。


 記憶の深い深いところにあった、大きくて剣だこの目立つ手のひらが、優しく髪を撫でてくれる感触。


 それは、確か……。


「ルーレスト、せんぱぃっ!!」


 忘れるわけがないのに、忘れていた。

 それは絶対に異常なことで、自分の何かが絶対におかしい。


 しかも、今気づいた。

 アシェが、居ない。それに気づいてなかったんだ。


 それは、とても怖い。

 自分が人間じゃなくなっていくみたいで、とてもとても怖い。


 (……きっと、この玉座のせいだ)


 自分に知識を記憶を流し込めるなら、精神を操れても不思議じゃない。


 (この玉座は嫌だ。…………私は、『人間』で居たいっ!!!)


 そう決意した時、みんなの顔が浮かんだ。


 大好きだったおばあちゃん、いつも影から支えてけれるアズーラ中尉。


 同じクラスの、カリナやソフィア、エルデ。


 生徒会のイヴ、ウェブ、ルチア、そして、ルーレスト先輩。


 忘れていた景色や声が、蘇ってくる。

 もう一度、あそこに戻りたい。


 あの教室に、あの生徒会室に。


 もう一度、戻りたい。

 戻れるんだ。

 戻ろう。


 戻らなきゃ……!!!


 身体は玉座に居続けようとするけれど、意志の力を振り絞って立ち上がる。


 それと同時に、魔境全体へと流れていた魔力の供給が止まり、焦った魔族が集まって来る。


 〈魔王様、いかがなさいましたか? 何かあれば、何事でもご命令ください。

 ですから、玉座にお戻りを!〉


 〈ねぇ、魔王さま。玉座に、戻ろ?〉

 〈そうだよ、魔王様。戻らなきゃ。ね?〉


 口々にキアラに語りかけ、それを全て無視したら、手を掴んで力尽くで止めようとする。


「やめて、離して!」


 その手を、振り払う。


「……私は、魔王になんか、ならない。

 私は、『人間』として、生きていきたいの。

 ……だから、アシェ!!!」


 強く強く、キアラが呼びかけると、見慣れた蝶々が、キアラのもとへと舞い降り、頭にぴとりと止まった。


 それが堪らなく嬉しいし、力が湧いてくるような気がする。


「…………帰ろう!!!!」


 強く確かな想いを胸に、キアラは、あゆみ出す。


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