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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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54.勇者討伐



 キアラの言葉に応えるかのように、目の前の大男がゆっくりと頷く。


 だが、それを見ても、彼女はとてもじゃないが納得できない。


 (……だって、私は、人間だもん!!)


 混乱の極みにあるキアラは、必死に考える。

 自分が魔王じゃない、人間だという証拠を、見つけなければ。


 でも、全く見つからない。


 無限に湧き出る魔力。

 人間業ではないと言われるほどの魔法行使。

 長時間の魔境滞在ができる体。

 逆に、王国では薬なしには維持できない肉体。


 すべての事実が、キアラこそが魔王だと告げている。


 〈……ぁの、ここへ来てから、どのくらいの、時間が経っていますか……?〉


 恐る恐る、目の前の大男に訊く。


 〈そうですね、およそ2日ほどでしょうか〉


 彼は粗暴そうな見た目に反して非常に丁寧で紳士的な振る舞いをしているけれど、キアラはそれに構っていられない。


 (既に、2日が経ってる。なのに、魔力は溢れていないし、身体はどこにも支障が出ていない。

 こんなの、明らかにおかしいのに……)


 いつもなら、少し時間を過ぎただけでも、大きな影響が出る。

 例えば、魔力が漏れ出て意図しない魔法になってしまったり、身体の節々が痛んだり。


 でも、それは全く無い。

 至って普通の健康体だ。


 それは、虚弱体質のキアラにとって、あまりに異常なことだった。


 〈魔王様、復活おめでとうございます。

 魔族全体にとって、大変喜ばしいことでございます〉


 心底嬉しそうな大男だが、キアラにとっては全く嬉しくない。


 自分という存在が何なのか分からなくて。

 怖くて、怖くて、認めたくない。


 怖い時、嫌なことがあった時。

 いつもキアラは、そこから全力で逃げる。


 でも、今は、逃げられない。

 全ての事実そのものが、キアラを追い詰めてくる。


 (……いやだ、嫌だ、……アシェ!)


 逃避先として必死にアシェに呼びかけるのに、彼女は応じてくれない。唯一の、キアラが縋れる相手なのに。


 〈魔族の現状を、ご理解頂けておりますでしょうか?〉


 丁寧すぎる口調で大男に問われ、キアラはどう返事をすべきが分からない。


 知識としては、得た。


 魔族は今、魔力不足にあえいでいる。

 人間が食事を摂らないと死んでしまうように、魔族は魔力を摂取しないと消滅する。

 なのに、その魔力が足りないのだ。


 だから、無限の魔力を持つ魔王が、魔王城の玉座に座ることで、魔境全体に魔力を流してゆく。


 少しでも多くの魔力を流してもらうことは魔族の悲願で、だからこそ強引な手を使ってでもキアラをここに連れてきた。


 それを、理性で知識として理解はしても、感情はもちろんついていかない。

 それなのに、大男はキアラの気持ちなんて、分かろうとする気もないようだ。


 〈魔王様、ありがとうございます。

 これだけ多くの魔力を大地へと流せるとは、素晴らしいお方でございます。

 多くの魔王様を見てきた私ですが、あなた様が一番だと断言できます〉


 感無量、と言わんばかりに大きな身体を玉座の前に投げ出し、全身でキアラに感謝を伝えてくる。


 〈……ぇっ〉


 自分の意思でしていないことに感謝を示されても困るばかりだ。

 けれど、とても嬉しそうな毛皮大男の、期待に満ちた熱演は続く。


 〈魔王様のために、魔境中から生き残りの魔族が集まっております。

 それは、もちろん勇者から魔王様を守るためでございます〉


 〈……ぇっ〉


 勇者から守る。

 その言葉に、キアラは激しく反応した。


 (勇者が、魔王を討伐にくる……? ルーレストせんぱいが、私を……?)


 キアラの貧弱な想像力では、実際にどんなことが起こるのか、想像もつかない。

 けれど、それを考えること自体が、酷く恐ろしかった。


 〈ご心配には及びません、魔王様。

 私が、勇者を討ち取ってご覧に入れましょう〉


 顔を真っ青にしたキアラに、毛皮の大男が悠々とそう告げる。


 〈ねぇ、ダン。勇者を倒すのは、私たちだよね〉

 〈うん、ザン。そのとおりだよ〉


 白黒の双子も、互いを見つめあってそう言う。

 だけど、キアラはそんなこと、絶対に許せない。


 〈……ぁの、やめて、ください。勇者を、倒さないで〉


 キアラとしては、至極当然の頼みだった。

 だって、そうしないと、キアラが大好きな、ルーレストせんぱいが、この魔族達に倒されてしまう。


 〈何故でございますか、魔王様。もしかして、勇者が可哀想だとお思いで?

 それは、違いますぞ。

 彼は勇者の運命を背負った存在です。

 我々が倒さなければ、魔王様が、殺されるのですぞ〉


 毛皮男が真剣な瞳でキアラを見据え、言葉を紡ぐ。


 〈『討伐』と言えば聞こえは良いですが、その実際は殺し合いでございます。

 殺るか、殺られるか、その世界です。

 勇者は魔王を倒す一撃を備えておりますが、それは魔王様も同じですぞ。

 互いに力をぶつけ、最後の一撃は魔王様みずからが勇者に与えるのです!!〉


 〈やめて、やめて!!〉


 毛皮男の熱弁なんて聞きたくない。


 〈そんなこと、出来ないよ!!〉


 自分がルーレスト先輩と戦うなんて、そんなこと絶対に出来っこない。


 〈魔王様、『出来ない』ではありません、やるのです! 魔王様自身、ひいては我々魔族のため。そして、ニンゲン共に殺された、あまたの同胞たちのために!!〉


 熱演する毛皮男だけでなく、大広間に集まった20人近くの魔族達の視線が、一斉にキアラ一人に注がれる。


 (……ぃゃだ、いやだ、嫌だ!!

 魔王なんて、なりたくない!!)


 魔族達の、期待の視線から逃げたいのに、キアラはローブのフードを深く深く被って俯くことしか出来なかった。


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