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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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56.魔王城からの脱出



 〈魔王様いかがなさいましたか!〉

 〈魔王様、魔王様!!〉


 伸ばされてくる魔族達の手を振り払い、キアラはひたすら外へ向かって走る。


 〈魔王様が操られているぞ!〉

 〈お助けしなければ!〉


 追いかけてくる魔族はそう言うけれど。


 (……ちがう、違うのに!)


 王国に帰りたいのは、キアラの本心だ。

 むしろ、今まで魔王城に居たことの方が異常で、玉座に操られていたと言える。


 だけど、魔族にはそんなことが分からないから、必死に追いかけてくる。


 それに、キアラとしても、申し訳ないとは思っているんだ。

 魔族がどれだけ魔王の復活を切望しているのか、よく分かるから。キアラだって、明日からのご飯に困るとなれば、必死になると思う。


 彼らは魔王であるキアラを短い間だけど守ってくれたし、お世話もしてくれた。

 仲間かもしれないと思い始めた相手だからこそ、怪我をさせたくない。

 人間への魔法行使と同じくらい、躊躇ってしまう。


 だから、【命令】する。


 〈魔族の皆さんに、【命令】です!

【私を追いかけて来ないで】

【人間に、危害を加えないで】

【人間の領域に行かないで】〉


 3つの命令に、ありったけの魔力を載せて発したら、見えない壁が急に現れたかのように、魔族達が一斉に立ち止まる。


 それを一瞬だけ振り返って確認したキアラは、そのあとは脇目も振らずに走り続けた。



「アシェ、どうしよう」


 なんとか魔王城は脱出したけれど、その先に広がるのは広大な魔境の森だ。

 木々はうねって他の木とからまり、間を抜けていくことも難しそうだ。


「きあら、空、飛ぶ?」


 フードに貼り付いていたアシェが、目の前でくるりと宙返りをして女の人の姿になる。


「飛べたらいいんだけど、私、まだ飛行術は習ってないんだよね……」


「じゃあ、きあらを飛ばせてあげる!」


 わくわくした、とても楽しそうなアシェがまたくるりと宙返りをして蝶々の姿に戻った。

 それからぱふっ、と気の抜ける音をたてて、キアラの身体よりも大きくなったアシェは、背中側にまわり込む。


「きあら、行くよ!」


 大きくなってもアシェの脚は蝶々のままなのに、持ち上げることなんて出来るのかな、と思ったら、アシェはキアラの身体に同化しているみたいだ。

 自分からは見えないけれど、キアラの背中に直接青い蝶々の翅が生えているように見えるだろう。


「アシェ、大丈夫?」


「うん! だって、きあら、とってもとっても強くなったから。

 今なら、何でもできるよ」


 キアラが酔いそうな勢いでブンブン飛び回るアシェは楽しそうだ。

 ただ、振り回される方としてはたまったものじゃないけれど。


「きあら、どこに行くの?」


 アシェにそう訊かれて、キアラは神経を集中させる。

 魔王として復活した今、意識を向ければ勇者の居場所が何となく感知できるからだ。


「アシェ、あっちに向かって」


 ルーレストは王宮か魔法学園に居るはずで、そこに着くまでに魔法兵団の魔境戦線に当たるから、とにかくルーレストの方へ向かっていけばいい。


 2時間近くかかったけれど、キアラにとって快適な空の旅は唐突に終わりを告げた。


 地上の魔法兵団から、一斉掃射を浴びせられたからだ。


「《殲滅の魔女》キアラ・レンツァー、帰還しましたっ!!」


 魔族と思われてもしょうがない登場の仕方なので、無理やり迎撃しながら叫ぶ。

 虚弱体質のキアラは大声を出すのが苦手だけれど、今はそんなこといってられない。


「レンツァー師だ!」

「攻撃、やめ!!」


 やっとキアラの正体に気づいてくれたので、拠点に降り立つ。


「お疲れ様です!」


 一斉に敬礼で迎えられ、キアラは少し居心地が悪い。


 背中のアシェを翅の状態から直接魔石の中に戻ってもらい、フードを目深に被って転移陣へと急ぐ。

 尋問にあうのは分かっているので対策は考えたけれど、今は人との会話を最低限にしたいんだ。


「レンツァー師!!!!」


 転移陣の空間の揺らめきにすら懐かしさを感じ、兵団本営の廊下をてくてくと歩いていると、前から全力疾走してくる男が居た。


「……アズーラ、中尉」


「レンツァー師! ご無事の帰還、何よりですっ!!」


 ビシッと敬礼をした軍人の男が、少しばかり泣きながら出迎えてくれたその事実に、キアラはとても申し訳なくなる。


「……す、すみません」


「いえっ! レンツァー師が謝ることは、何一つありません!

 本当に、ご無事で、良かったです」


 最近のアズーラ中尉は、キアラを上官ではなく世話のやける妹のように思っていたのだ。

 そんな彼女が、任務中に魔族に連れ去られたとあって、夜も眠れない日々が続いていた。


「……アズーラ中尉、すみませんでした」


 その様子を見たキアラは、昔むかしのことを思い出していた。

 まだおばあちゃんと一緒に村で暮らしていた頃、学校の帰りに遊びすぎて、暗くなってしまった時のことを。


 友達と、帰るのが遅すぎるって怒られる!と慌てて帰ったのに、おばあちゃんは怒らなかった。


 ただ、

『キアラに何かあったんじゃないかと、とてもとても心配したんだよ。無事に帰ってきてくれて、安心したよぉ……おばあちゃんに、心配かけんとっておくれ』

 そう、言われただけだった。


 その時おばあちゃんは、キアラをそっと抱きしめてくれて、背中をとんとん叩いていた。


 だから。


 敬礼を解いたアズーラ中尉に、そっと近づいて背中に手をまわして、とんとん叩いてみた。


「……ごぶじで、何よりですっ……!!

 無理だけは、なさらないで、くださいっ……」


 キアラの背中に回されたアズーラ中尉の手のひらは、おばあちゃんと違って、とても大きい。

 なのに声は震えて湿っていたから、しばらくこのままで居て、顔は見ないであげようと思う。



 暫くそうして居たけれど、軍人らしくなく鼻の頭を赤くしたアズーラ中尉と団長室へ向かう。


「レンツァー師、無事の帰還、本当に良かったな!」


 団長の大声で迎えられて、キアラはなんだか安心した。やっぱりここが、自分の帰る場所だったのかも、って。


「……というわけで、要するに兵団は手をこまねいていることしか出来なかった。

 レンツァー師には申し訳ないが、魔境での長時間捜索は、あまりにも難易度が高かったんだ」


 キアラが連れ去られてからのことを大まかに説明されたが、主戦力を奪われて大騒動だったけれどどうしようも無い、という感じだったらしい。


 魔法兵団は魔境戦闘のプロではあるけれど、基本的には戦線維持が任務だ。

 彼らはあくまでニンゲンで、決して魔境の奥深くへ突っ込んで行けるバケモノではない。


 キアラとしても、助けに来て欲しかったとまで言うつもりは毛頭ない。

 というか、あの場に来られていたら討伐されてたかも、とすら思う。


「レンツァー師は非常に疲労が溜まっているだろう。聴取その他は明日にするから、今日の所はゆっくり休め!」


 団長は手早い説明だけで解放してくれたので、キアラは久しぶりに美味しいものでも食べたいな、と思うのだった。

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