6 大都市に着きました
辺境伯の街に行くまでは、さほど時間はかからなかった。ホムンクルスが暮らす森の近くの村は、意外と近くにあったのだ。
辺境の、辺鄙な村だと思ってた。
距離にして100キロ程。
一度宿場町で宿を取っただけ。
普通の旅人でも、七日もあれば辿り着く距離だ。
そうやって見えてきた大都市は、思った以上の街だった。
「結構、大きな都市だったんですね」
「西方最大の都市ですから」
大河の横に自由に伸びた街並みは、東西に30キロ、南北に25キロと、かなりの規模になるらしい。
名前はストーニア。
人口は100万。
都市の性質上兵士の数は多いが、その兵士を客としてかなり発展しているとの事だ。都市の防御のため、城壁の中で農業も営まれているらしい。
私とメアリー・プルは、徐々に走る速度を落としながら都市についての感想と説明を言い合った。
やがて、20メートルはあるかと思われる城門に近付いてきた頃に、私達は走るのを止めて歩きに変える。
人外の速度で走っていたら、怪しまれるからね。
通行許可を得るための列に並び、街についての雑談をしながら私達は自分達の順番が来るのを待った。
そこで気付く。
周囲からの視線に。
具体的には、男、の視線だ。
村の男の視線は多くなかったからそれほどでもなかったけど。
うぇ・・・・・。
気持ち悪っ。
私は、中身が男だから、恋愛対象は女性なんだよ。
悪いな、そこで肉体美を見せつけてくる冒険者さんよ。
「気付きました?」
「こんなの、気付かない方がおかしいですよ」
だから、近付いてくんな、男ども。
「お嬢さん方」
ほらぁ。
これだから、都会の男共は。
私達に声をかけてきたのは、いかにも遊んでいそうな、さわやかな冒険者の青年の一団だった。こういう奴等こそ、裏で何かやってるんだよな。
モテないおっさんの偏見だけど。
「お嬢さんたち、どこから来たんですか?」
どこからだって、あんたには関係ないだろ。
「アゾニ村という所ですが、ご存じですか?」
どうせ、知らねぇだろ。
聞いた話だと、辺境伯領の村は、数えきれないほどあるって言うから。
でも、兄ちゃんは、
「ああ、あそこですね」
知ったかぶりをして喰い下がってきた。
ああ、うぜぇ。
陽キャのこのしつこさは、さすがにうぜぇよ。
女の子になって、やっと分かったわ。
顔だとか胸だとか、脚だとかをチラ見しながらこっちを値踏みしてくるこの態度、はっきり言って気持ち悪い。動きやすいからホットパンツとシャツをベースに着ているが、動きやすい、もっと身体の線の出ない服の方が良かったかもしれない。
「良い所ですよね」
そこは同意する。
が。
お前等と共感はしたくない。
どっかに行ってくれ。
笑顔のまま無視をしていると、冒険者たちは同意と取ったのか、私の肩に腕を回してきた。
「同じ冒険者同士、仲良くしませんか?」
やらねぇよ。
ってことで。
私はチャラ男冒険者の腕をペシッと払って、とびきりの笑顔を浮かべてこう言った。
「お断りです」
「てめぇ・・・・」
チャラ男の顔が一気に赤くなる。
その瞬間、メアリー・プルが、チャラ男とその仲間へ向かって、
「死にたいのですか?」
無表情に、そう言った。
「でなければ、憲兵にしょっ引かれますよ?」
門の方を指差す。
門番さん達も、こっちの騒動に気付いて動き出そうとしている。
それで、冒険者たちは手を引いた。
「ギルドで会ったら、覚えておけよ」
捨て台詞を残して。
列に戻って、私達を一睨みして、門を潜っていった。
さて。
私達も入門だ。
ギルド証を見せて、私とメアリ―・プルは都市の中へと足を踏み入れた。
そこは、私が思っていた以上の都会で。
東京、とまではいかないが、日本で言う所の、九州の福岡市の繁華街位の賑わいを見せてくれていた。
これはすごい。
建物も、意外と高いものもある。
人も、縦横に歩いている。
雑音もすごい。
こいつぁ、思った以上だった。
広さ、人口ともに、本物の大都会だった。
伊達に東西30キロという巨大さを誇ってはいない。
「ここからは、乗合馬車に乗って移動しますので」
なんでも、ブルーオーガを解体してくれそうな冒険者ギルド本部は街の西区にあるらしく、私達が入った東区からは乗合馬車で行くらしいのだ。
都市の構造上、そうなっているのだとか。
やはり、魔物の数は都市の西側でよく発見されるらしく、東側は常に間引きをされているので強い魔物は出ないらしい。自然と、西側には強さを求める冒険者で溢れるので本部をそっち側に置いて、東側には対人を得意とした護衛を生業とする冒険者が集まる為に、支部が置かれているのだとか。
なるほど。
自然とそうなる訳か。
で。
私達は魔物の解体で用があるから、西側に行くと。
了解。
私はメアリー・プルについて、乗合馬車の停留所へと足を向けた。
停留所も賑わっていて、色んな所に行く馬車でひしめき合っている。呼び込みの声もひっきりなしに飛んでいる。
当然、人の数も多い。
そんな中を、私とメアリー・プルは進んでいった。
「あ、あの馬車ですね」
メアリー・プルが一つの馬車を指差す。
馬車の屋根の部分を見て、どこに行くのかが決まっているようで、案内板を見て馬車を特定したようだ。
出発寸前だったその馬車に、私達は乗り込んだ。
「結構、馬車の路線がいっぱいあるみたいですね」
「馬車が発達していないと、この都市は広いですから、人の往来に不便が生じるのです」
聞くに、このストーニアという街は、おおまかに西に兵士街、南に貧困区、中央に平民街、北に貴族街、東に商業街と、大まかに住み分けられているのだそうだ。
「貴族街?」
「寄り子の貴族が、別荘と言いますか、邸宅を構えている街があるのです」
なるほど。
ここを治めるストーン辺境伯とは、それ程の大貴族という事か。
なるほど。
だから、この兵士街に向かう馬車には、むさい男が多いのか。
「とはいえ、絡まれる心配はありませんよ。この馬車には当然兵士の方も乗っていますので、婦女子に不用意に絡むような事があれば即座に取り押さえられます」
そうか。
なら、鑑定でもして、暇をつぶすか。
私は一人の男に目を向けた。
鑑定してみる。
なるほど。
レベルは185か。
ゴブリンのレベルが80位だった事を考えると、兵士かな?
この男を基準に他の人達を見ていくと、八割位の人間が、レベル200位で揃っていた。なるほど。兵士が多いというのも解ったような気がする。
装備的に冒険者と思わしき人も乗っているが、その男もレベル280で、そこまで強くはなかった。
「そんなに強くなさそうだね」
小声でメアリー・プルにそう言うと、
「そうですね。アイリ様と比べると、誰もがそういう感想になるかと思われますよ」
そんな返事が返ってきた。
ただ。
「ただ」
と前置きして、
「数は暴力です。数の前には、如何にアイリ様が強かろうと、屈する事になると思いますのでご注意を」
メアリー・プルはそんな事を忠告してくれた。
覚えておくよ。
ありがとう、メアリー・プル。
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