5 狩りました
あれから都度、一度の野営と五回の休憩を挟んで、森の奥地までやってきた。
ホムンクルス達に言われたように、森の奥の方は大きな樹が群生していて、地面を歩いても問題ないほど、下木は生えていない。
ここら辺からブルーオーガの生息地らしいので、速度を落とし、注意をしながら進んでいる。
樹の上からは降りた。
足跡を探すためだ。
また、ブルーオーガの糞を探す為でもある。
彼らの習性である、樹に傷を付けて縄張りを主張するという痕跡は探し辛くなったが、それでも、こちらの方がブルーオーガを探すのに都合が良いらしい。
と。
メルト・プルが停まるよう合図を出してきた。
見つけたのか?
と緊張すると、メルト・プルが腰を落として、一点先の方を指差し、樹に隠れるよう指示してくる。私はそれに従って手近な樹に隠れた。
「見つけたのですか?」
「1クルト先に」
約一キロメートルか。
それにしても、よく見つけたな。
「近くの糞が新しかったので、必ず近くに居ると思っていました」
そうかい。
「これ以上近付くと、気付かれる?」
「ほぼ、間違いなく」
「鼻が効きますからね」
「いくら風下とはいえ、気付かれるかと思われます」
なるほど。
と、いうことはだ。
やはり正面から戦う必要がある訳か。
よしっ。
気合を入れるか。
「メイジ・プル」
「はい」
「バフをお願いします」
「承知いたしました」
メイジ・プルに、HP増加のバフと防御力向上、この世界で言う所の、外皮の重ね掛けを行ってもらう。
そして、最終確認。
「ブルーオーガは一匹だけ?」
「確認できるのは一匹だけですが、群れる事も有るのでご注意ください」
「なら、メルニー・プル。他が居たら、足止めをお願いします」
「承知いたしました」
じゃぁ、行くか。
私は全力で土を踏み、一気に加速をした。
接敵するまで十数秒。
五秒で気付かれ。
三秒ほど動きが止まり。
二秒で臨戦態勢に入られる。
まぁ、早いと言えば早い。聞いていた以上に機敏ではある。
が。
遅い。
私は既に、ブルーオーガの懐に入っている。
その太い腕が振られる前に、私は槍に力を貯めた。
ウィンドボールを使って飛び上がり、喉に一撃。
槍を横に振るって首を半分ほど切断し、意識の飛んだブルーオーガが振るった太い腕を足場にして、もう一撃、眉間に良い奴を入れる。
それで終わりだった。
沈むブルーオーガから離れ、私は地面に着地した。
ズンッと、地響きを立ててブルーオーガが倒れる。
同時に、
「アイリ様、右!」
メルト・プルが鋭い声をかけてくるので右目の端で確認すると、10メートル程の所に、メルニー・プルの土魔法のデバフで足止めされたブルーオーガがもう一体居た。
私がブルーオーガの方へ重心を移動させると同時に、ブルーオーガが土魔法の足止めを剥がして私の方に攻撃を仕掛けて来る。
が。
遅い。
ブルーオーガが掴みかかってきたので、右に回避し、脇腹の下、心臓の辺りに一撃を入れた。もう一歩、右にステップを踏んでジャンプ。頸椎に槍を捻じ込む。
二匹目のブルーオーガはそれで沈んだ。
「メルト・プル、他は?」
寄ってきた三人を横目で確認しながら尋ねると、
「居ません。それで最後です」
メルト・プルが、そう断言した。
「でも、血の臭いを嗅ぎつけて、他の動物が来るかもしれませんから」
「早く離れた方が良いでしょうね」
「そう」
なら・・・・・。
死体を処理して、すぐに移動しましょうか。
ブルーオーガの死体をアイテムボックスに入れて、私達はその場から移動した。
接敵してから五分と経っていない。
やけにあっさりだった。
「アイリ様の実力があればこそ、ですよ。私達だけでは、こうも上手くいきません。一匹を相手にするのでさえ、困難だったのですから」
レベルの違いかな。
チラッと鑑定した限りでは、ブルーオーガはレベル600位だったし。レベル500台前半の1パーティだと、ボス系を倒すのは結構きついだろう。
あとは装備、だろうな。
彼女達に、私レベルの、とは言わないが、相応の装備を整えてやったら、彼女達もそれなりに強くなるはずだ。
まぁ、その辺は帰ってから考えるか。
とりあえず、ブルーオーガの生息域を抜けないといけない。
私はメルト・プルを追って走る速度を上げた。
※
「おいおい・・・・・こいつぁ、ブルーオーガじゃねぇか」
狩りが終わって、村の冒険者ギルドに素材の解体をお願いしに行ったら、かなり驚かれた。
メアリー・プルが来たという事で、ギルドマスター直々の鑑定だったのだが、
「そりゃ、驚くだろうよ。Aランクでも、上位に位置する魔物だぜ、これ。加えてコカトリスとワイバーンだぞ?そりゃ、賢者様の屋敷に住むホムンクルスさんが強いのは知ってるけどよ、前、倒せないって言ってなかったか?」
「私達では無理ですね」
しれっと、メアリー・プルがそう言う。
「じゃぁ、誰が狩ったんだよ」
「アイリ様です」
「そこのお嬢ちゃんか」
「はい」
「あれか?賢者さんの忘れ形見とか、か?」
「そんな所です」
「ふーん」
目の前の大男が、私の事を胡乱な目で見てきた。
さもありなん。
メアリー・プルよりも細い、いかにもか弱そうなお嬢ちゃんな訳だから。身長はあるけれど、腕なんて、枯れ木のように細いか弱そうな見た目なんだから。
体重なんて、ギルドマスターの半分も無いだろう。
でも、事実はレベル900超えのカンスト手前物理職なんだよなぁ。
「事実ですよ」
「まぁ、狩って来ちまったから、事実なんだろうが・・・・・それにしてもすげぇな。ブルーオーガなんて初めて見たぜ」
あ。
初めて見るんだ。
そんなに珍しい魔物だったりするんだろうか。
「珍しいっちゃぁ、珍しいな。この辺だと、かなり森の奥の方に行かないと居ないし、他の生息地といえば、帝国との国境から外れた奥地に行かないと居ないぜ」
へぇ。
「だから、この村のギルドだと、こいつを捌けねぇ」
へぇ。
「ストーン辺境伯様のお膝元にでも行ってくれや」
「街まで行かないといけないのですか」
メアリー・プルの言葉に、ギルドマスターは、太い腕を組んで頷いた。
「さすがにな、こんな辺鄙なギルドだと、素材を駄目にしちまう」
街、か。
行ってみたい気もする。
住んでみたい気もする。
何せ、こっちに来てからホムンクルス達としか会話をしていないからな。
だけど。
確か、ホムンクルス達はこの辺の魔物を間引きしているって言っていたし、居なくなると困るんじゃないだろうか。それなら、街まで行って、解体をしてもらって、魔石と素材を手に入れて帰って来るのが一番丸いか。
ついでに、ホムンクルス達の装備も整えられたら僥倖だ。
「そうしてくれるとありがたいな。ここ最近、ゴブリンだとかオークだとか、エンカウント率が上がってるって話だし、村を守るためには居ておいて欲しいんだよな」
なら。
メアリー・プルだけ伴って、サクッと帰ってきますか。
「メアリー・プル。それで良い?」
「仰せのままに」
そ。
じゃぁ、サクッと行ってきますかね。
「なら嬢ちゃん。ギルドに登録して行けや。通行証代わりになるからよ」
「ありがとうございます」
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