光と闇の逆襲
これ以上の損害を出したら闇少女が激しく怒る未来が待ち受けているだろう。
そんな容易に想像できる未来を避けるべく、ジルは強がりの笑みを浮かべて闇のコアストーンを握る手に力を込める。
残りの手持ちを死守した上で、レイに取られた分も取り返さなければいけない。
たとえ相手が格上の存在だとしても、簡単に諦めるわけにはいかないのだ。
「おや、今度はルカのコアですか。いいでしょう。私には必要のないものですがそれも頂きます」
「これだけは渡せない……! ルカ……力を貸してくれ……っ!」
取り出した闇のコアストーンを腕輪にはめ、顕現した闇の鎌を握り締める。
普段ならこれで戦闘モードに完全移行したことになるが、ジルはこれではいけないと不安を抱えていた。
水のコアストーン使用時はどちらかといえば中・遠距離向きのスタイルだが、闇のコア使用時は鎌という武器の兼ね合いもあって近距離で戦うのが好ましい。
しかし、ジルは目の前の水精霊に対して取る戦法としてそれでいいのかと頭の中で引っかかっていた。
(ルカにはまだ止められてるけど……やるしかないか)
ジルの頭に浮かぶのはルカの言葉。
今のジルの本当の奥の手。
まだ、それを試したことは一度もない。
その奥の手を使うことで、どんなことが起こるかは分かっていない。
だが、今がその奥の手の使い時。
ジルは光のコアストーンを取り出して、意を決して腕輪にはめ込んだ。
「うっ、うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「くっ、眩しい」
溢れ出る光と闇のエネルギー。
コアストーンを同時に二つ使用するという賭けに出たジルだったが、この状態が長く持たないことをこれまでの経験から本能で察知して、すぐに攻撃を仕掛けた。
迸る閃光に視界を塗りつぶされてたじろいだレイだったが、すぐに向かってくるジルに迎撃を行う。
だが、ジルの纏う光のエネルギーが、レイの攻撃を防ぐ。
闇の攻撃力と光の防御力。
攻防二つを併せ持つスタイルに、ジルはこれならいけると確信した。
しかし、いくら光が防御に適したコアストーンだとしても、水のコアストーンを一つ取り戻して強さが増したレイの攻撃をそう何発も防ぐのは無理がある。
それを瞬時に理解したジルは攻めに出た。
最短距離で最大の一撃を叩き込むために、光のコアストーンの防御性に身を委ねてレイの懐に突っ切った。しかし、水のコアストーンを取り戻して力を増したレイの連撃をすべて耐えきることはできなかったようで、彼女の元に辿り着くほんの手前で膝を付いてしまう。
「がはっ」
「……惜しかったですね。素直に称賛しますよ。正直身の危険を感じました。ですが、その力……やはりたかが人間が扱うには身に余る力みたいですね」
「何……もう勝った気でいやがる」
「事実です。では、それも頂きますね」
レイの作りだした激しく唸る水流。
それが迫る中、ジルが選んだのは回避でも相殺でもなく、レイを狙う必殺の一撃だった。
「魔光斬ッ、暗影!!」
膝を付いたまま立ち上がることもできずにジルは残っている力のほとんどを闇の鎌に集約させて横なぎに振るった。
その後、レイの水流を受けて吹き飛ばされる。
地面に打ち付けられて数回バウンドして、ぐったりと横たわるジル。
だが、まだ意識はある。
(残りの力を……光属性の回復力に回して…………っ? まさか)
痛む体に鞭をうち、腕輪に目をやる。
そこに黄色の輝きはなく、ジルは唖然とした。
「リンのコア、もらいました」
「ぐっ、返せ……っ!」
「もう無理しない方がいいですよ。ボロボロなんですから。それも渡せば、命は助けてあげますよ」
レイがジルの腕輪に残る闇のコアストーンも回収してしまおうと近づいてくる。
それはジルにとっては死刑宣告のようなものだった。
立ち上がろうと腕に力を籠めるが、うまく立ち上がれない。
結局地面に這いつくばったまま、レイがじりじりと距離を詰めるのを怯えてみていることしかできない。
そのはずだったのだが、ジルは彼女のうめき声を聞いて目を見開いた。
「うっ、ああっ!!」
彼女の胸元に一閃。
ジルの振るった鎌の軌跡。
白と黒の入り混じる斬撃の痕が、バチバチと怪しい光と共に例の身体を抉っていた。
バチンと弾けるような音と共に彼女の身体から吐き出された青い輝き。
それは都合の良いことにジルの手元に落ちてきた。
「……へへ、ちゃんと届いていたのか」
「……まさかっ、そんなことがっ……!」
ジルが力を注ぎ込んだ現時点で放つことのできる最高の一撃はレイの胸を捉えていた。
彼女の精霊体を斬り裂き、内部にまでダメージを与えたことで、レイは取り込んでいた水のコアストーンを放出してしまい、よろよろと苦しそうにしている。
「私の……コア……っ」
「悪いな。返してもらうぜ」
「う、あっ、かえ……しなさ、い」
飛んできた水のコアストーンを回収したジルの右手。
そこには青い輝きを放つ石が四つ握られていた。
ジルは純粋な光の精霊術でわずかながら身体を癒して、闇の鎌を支えにして立ち上がる。
そして、おぼつかない足取りで、苦しそうにうめく彼女に問う。
「あんたの力も大分削げたようだな。それでもまだやるか?」
「……これ以上やるのは得策、じゃなさそうですね。今回は退いてあげます。私のコア預けておきますよ……っ!」
ジルが回復したといってもそれは僅か。
しかし、水のコアストーンを一気に四つも失ったレイのダメージも甚大で、もはや形成は逆転したといってもいい。
奪う者と奪われる者の立場が入れ替わったことで、レイは苦々しく表情を歪ませながらも、退散することを選択した。
本当ならばここで追い打ちをかけて、取られてしまった光のコアストーン諸々取り返したいところだが、ジルにもうそんな余力は残っていない。
そういう意味では、レイがおとなしく退いてくれたのはありがたいと感じつつ、風を纏いものすごい速さで離脱していく彼女を見送って、ジルは安心して座り込んだ。
「はぁ、はぁ……正直限界だった。コアの力を維持するので精いっぱいだったけど、何とかなったな」
ジルの纏う闇のオーラが掻き消えて、携えていた鎌も霧散して消える。
最後の方はレイの戦意を叩き折るために、虚勢で闇の力を維持していたのだ。
もしそれが持たなかったら、レイを追い払うことは叶わず、再度立場は逆転していただろう。
そうならずに済んだことに安堵してジルはよろよろと立ち上がる。
(光のコアは取られてしまったけど、水のコアは最終的に三つ増えた。これならルカのお説教も少しは優しくなるかな。なるといいな……! なってくれないと困る……っ)
数だけで見ればプラスだが、光のコアストーンを失ってしまったことも事実。
これがどう響くのか。
そして、それを知ったルカがどのような反応を示すのか。
来たるべきお説教が軽いことを祈りつつ、どんよりとした空気を纏いゆっくりと帰路に付くジルだった。




