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賽は投げられていたのだ

カワイイだけじゃない主人公(カワイイとは言ってない)

次はデート回。本作品は徹頭徹尾恋愛タグに恥じぬ愛情たっぷり甘々なのをこつこつ煮詰めて水分を飛ばした作風でお届けします。

「明日からで良かろう」なんて事を言って、つむじ風のように突然に2人はアタシ達の前から消えた。


「あのバカな領主に思い知らせてやりましょう」

パンパンと手を叩き院長(ゼノビア)はアタシの注意を惹く。


否、対象はアタシではない。

孤児院に似つかわしくない、20歳前後と歳のいった男達が床下から、天井裏から、音もなく現れた。

その権力を裏付ける院長室は敵を殺すギミック以外にも人をその生き死にを問わず隠す仕掛けが施されている。

当然後ろ暗い目的に利用されてきた。


いざとなれば全員で2人しかいない敵を圧殺する構えのつもりだったが、合図を出すもでもなく制圧されたことは直接戦力の差を意味しない。2人しかいないのなら指揮官は後方に下げたまま大人数で、地の利を活かして捻り潰すのが常道だ。



アタシがゼノビアに目をかけられているのは回復魔法を習得していると言うこともあるが、長年の孤児生活の中で暴力の重要性を理解しているからだ。

聞き分けのない餓鬼共を統制するには暴力性が必要であり、衣食住という飴と、服従という鞭を与えることで孤児院は暴力に集団暴力(リンチ)で対応できるようになる。糞餓鬼共は裏切って後ろ盾のなくなった子供がどう扱われるかなど真に理解していないからこそ自由を謳えるのだ。


バカを殴り付ける暴力性は貧民街(スラム)で孤児院を運営するという無茶をこなす上で必要不可欠である。



だから、アタシはゼノビアに逆らえない。

彼女が従える男たちという暴力がアタシの持つ集団暴力(リンチ)よりも優れていることを知っているから。餓鬼はどこまで行っても餓鬼だ。


権力という遥かな暴力に負けたままだと知られては、舐められたままではいられない。


男共が出て行った後でゼノビアは、修道女(シスター)であることを思い出したように、豊満な胸の前で手を組んだ。

それに合わせてアタシもぺったんこな胸の前で手を組む。



赦されよ、赦されよ。


アタシ達がこれまで犯してきた罪を、そしてこれから犯す罪を。


祈ることで全ての罪は赦される。


アタシ達は善だ。


◇◇◇

公爵家。


都市という限定された空間においては随一の権力者であり、領主である以上その兵士を統括する立場。


その権力を持ってすれば、教会の末端組織である孤児院といえど、教会の威光を発揮する前に叩き潰されるのがオチだ。また王家から分かれた関係上、王国の始まりから続く歴史より、政治的な牽制においても方々に顔が利くため下手をしなくても複雑な宮廷力学が傾き教会との戦争にもなりうる危険な家である。



そんな貴族をまともに相手をしては、お話しにすらならないほど貧民街(スラム)は弱い。


ならば、暴力によって権力の大鉈を振るう前に倒してしまうのがいい。

孤児院の、最も権力が集中するところの院長室での出来事や、その犯罪を知っているのならば、その帰結に至ることは難しくない。


だから、先に手は打たれていた。



“知りたいことは知っている”



ハンデを与えるような発言の時にはもう既に籠の中の鳥、調理済みである。

戦いは行わないが最上、やるなら完勝する盤面を整えるが次善。


兵法にすら載っている基礎中の基礎に忠実に。



一方性急な判断とは言え襲撃を擁護するべき点も無くはない。

真実非戦闘員の御者を除けば公爵と、共周りの騎士一名だけのところを狙うか、根城である屋敷にいるところを狙うかと聞かれれば間違いなく前者が好ましい。


少々意地悪な二択ではあるが、貧民街(スラム)という地の利を活かすと考えれば、没交渉となった次の瞬間から牙を剥く意外性を買ったならば、その襲撃はそれなり以上見込みがあったのだろう。



襲撃は孤児院を出たその瞬間に始まった。


「やああああぁぁ!!」

孤児院の収容キャパをオーバーした孤児は、貧民街(スラム)において腕力も知力も劣る。健康面や才能ですら劣る。男達に餌付けされ囲われる彼らは権力闘争において限りなく捨て駒だ。


腰だめにナイフを構え突っ込む少年は勢いのまま剣に顔から突っ込み、その短い生涯を終えた。

大脳と泣き別れした胴体の行く末を見守ることなく、ジェラルドは上下に分けた剣に付いた体液を振り払いざまに柄で斬撃を受け止め、空いた胴を蹴り付けて空間を開けたところに袈裟斬りに斬撃を叩き込む。


そこに殺人に対する躊躇いはない。何故なら争いになることも最初から考慮に入っていたからだ。少年の捨て駒が数人どころか30人来ようと冷静に対処できるのも一般的な家庭を持たない二人であるからこそである。


人間が人間たる所以の一つである共感性をいつかの殺人で失ったかのように、死兵である少年ゲリラを流れ作業で処理し、2体、3体と確実に失われていく足場。

後ろで恵まれた体躯を木偶のように余らせていた公爵だったがやおら魔術を使うと、その背後で動揺する気配。

水の魔術で不意を突かれたのだ。


前後の連携が乱れた隙を狙い、位置入れ替え(スイッチ)と同時にジェラルドが背後に斬撃を見舞い、無手の公爵は上段からの打ち下ろしより先に前蹴り(助走付き)で攻撃をキャンセルさせた。


もんどり打って蹲るあまりに小さな人影だったがその苦しみは神経同士の連結が断たれることにより、生命と共に消え去ることになる。


剣戟の音を背中に聴き、それが偶然の産物でなく、相手方の攻撃による必然だと確信した。

なら次は。

「ふむ」

公爵は独り頷くと、懐より拳銃を取り出す。



タァン!!!

空へ向けて放つと、リボルバーが回転し秒速340mが辺りに広がる。銃弾は落ちてこない。何故なら空砲だから。


音は建物の間で反響し、その強さを逆指数関数的に減衰させていき消えた。

その間魔術による攻撃も行わない公爵は隙だらけ。


銃声に身を竦めたのは一瞬。銃でも集団を纏めて攻撃できないのだと言わんばかりに、殺到した。


迷わず銃口を正中線に向け、1発、2発。

中で花弁の如く開く銃弾が肉を抉り、射入口よりも広い蛸壺状の傷を形成して、途中で止まる。

内臓が刃物を避けるよりも速い速度で銃弾と触れ合った腹部内臓が傷つき、そして銃弾の運動エネルギーを受け止めた細い肉が舞踏(バレエ)でも踊っているかのように一回転。

そのまま力を失った人形は倒れ伏した。


それを見た貧民街(スラム)の住人は脚を一層速める。もっと減らせば自分には銃がそのまま手に入るのだと。

フェイントもなく銃弾を迎えに行った細身が肉に変わるのを他所目にその銃を奪わんと手を伸ばす。

栄養状態の差からか、リーチは段違い。

伸ばされた手を払い鋳鉄製握り(グリップ)で側頭を殴りつけると、意識の飛んだ男が真横に吹っ飛んだ。


大した力である。馬鹿、と接頭語に付けてもいいくらい。


公爵、という肩書き上戦争でも貴族社会でも肉弾戦には至らないものの、恵まれた体躯から出る直接攻撃はそれなりのものである。ただその強さを発揮する機会が幸運にもなかっただけで。


真横に飛んだ数十キロに巻き込まれまいと脚がごくわずかに緩んだ隙を狙い、後ろの男に蹴撃が飛ぶ。

首元に刺さった脚は気管を潰し、それだけに留まらずその生命を刈り取った。


脇から短剣を刺し込もうとする少年に対し、迷わず引き金を引く。

少年の、未発達な身体の中で健常男性と比べ大きな的であるところの頭部に綺麗な柘榴が割れた。

勢いそのままに足の踏み場を埋めようとする肉を蹴り飛ばして場所を確保すると舌打ちをした。


返り血が鼻に入りかけた不快感もあるが残り少ない弾丸を使ったことへの苛立ちからだった。

いざという時自害する用の1発を除けば残り1発。

懐に10発はあるが装填を許してはくれないだろう。


ーーーでもまあ及第点だろうて。


己が身かわいさもあるのだろうか、そう結論づけた。

視線の先には花が咲こうとしている。


透明な氷の華。


その根っこでは寄生胞子が栄養を吸い上げるかのように、赤く染まった液体がシャーベット状になっていた。

当然根本の人間は静かに鼓動を止めている。

高山で氷漬けになった男が生還した事例があるように、それはそのまま死を意味しないがニアリーイコールである。


音もなく彼らは制圧された。

死んでいる。皆んな死んでいる。


それは先の空砲を合図とした魔術によるものであり、貧民街(スラム)でなく遠く公爵屋敷から放たれた攻撃である。




そもそも。

貧民街(スラム)と言えど公爵が治める都市、勢力圏内である。


それは戦力という意味だけではない。


情報収集能力においても文句なしに、本拠を持つ孤児院の住人よりも高い精度を持つ。


水を操る魔術は公爵家に伝わるものだが、人間生活に欠かせない水を使えば情報はほぼほぼ筒抜けになる。


それが情報戦において先んじた正体。

2人で敵の牙城にノコノコ出て来られた理由である。


「御無事ですか」との言葉に頷きながら振り返ると、音の出所とは違う場所で目が合った。

鎧戸の陰から覗く目線は成人女性にしては低い。おそらく例の小娘だろう。


この程度のいざこざは見慣れているだろうに、目が合ったと思ったら目を逸らされ、廊下を走り抜ける音が微かに聞こえる。



“知りたいことは知っている”



前々から考えていたのだ。

修道女(シスター)という名の阿婆擦れがなぜ20年近くも前から孤児院にいるのかを。


それは本人の資質もあるだろうが、貧民街(スラム)における孤児院の立ち位置が問題だ。宗教を背景にしたとて無信心者には効果がない。どころか末端も末端であるからして公爵家から資金提供を受けないとやっていけない。そしてそれ故に狙われる。


よって、自身の身を守るためにあえてそういう危険に身を置くことは合理化される。


荒くれ者共から強奪を受ける危険に身を晒し続けるよりかは一部を籠絡して自身を守る盾とする方が『正しい』。


もちろんそれで逃げ出さなかったあたり、意識的かは知らないが小児性愛(ペドフィリア)があったのだろうと考える程度には信用がない。


さて、諸問題を一挙に解決する銀の弾丸はないが、地道な解決に必要な第一歩ならある。

リスクを負いつつなんの成果も得られない可能性もある手。


犠牲を崇めるわけではないが、あえて言おう。犠牲なくして(ノーリスク)得るものなし(ノーリターン)

◇◇◇


「では、そちらにお掛けになって」

小児性愛者(ペド)がそう声をかけるのにも耳を貸さず、閣下はジェラルド様に命令を下す。

「ジェラルド」

「はっ」

ジェラルド様が空中で剣を振るうと、天井の一部が抜け、先ほどまで公爵閣下が座っていたソファに落ちる。


ドシンという腹に響く音。

天井との間でサンドされたソファは醜く潰れ、中の綿が裂け目から吹き出した。

殺意マシマシの凶器、吊り天井を支えるロープが切れていた。



「何か、言ったか?」

「…………いいえ、何も」

これは最後通告だ。

次は殺す、と。


そして下克上が失敗した。

ーーーこれなら最初に座った時に落としておくんだったな。

そう思ったけど、もし実行に移したとしたら今度は愛しの王子様、ジェラルド様を口封じしないといけない。


拘束して、自由を奪うことに愉悦を覚えるけれど、実際問題として凄腕の剣士であるジェラルド様を何の被害もなく抑える事ができるとは思えなかった。

殺すか、もしくはこちらが全員殺されるか。二つに一つで、アタシとジェラルド様が一緒に生きる未来はないだろうから、このたらればはいらない。



ああ、クソ。

公爵閣下は院長室の奥にあった上等な椅子に背中を預けると、書類が積んであるのも構わず机の上に長い脚を投げ出す。

かなり大きな机なのだが、身長が高いせいで机から足首がはみ出している。


院長の椅子。アタシが将来座るはずの椅子だ。

クソッタレ。


アタシの所有物が穢されたような、嫌な気分になったが、もう虚を突いて殺すことはできなくなった。


その椅子周りには殺すための道具はない。動作不良で自分が殺されるなんてバカなことは、そのリスクが低かろうと許せなかったからだ。



腰に余りに悪そうな姿勢で脚を組み、睥睨する様子はまさしく柄の悪い悪党。


「無関係、とは言わせん」

何を、なんて分かりきっている。前後から挟み撃ちにした後ろの方は、孤児院に潜んでいたからだ。

必殺の布陣が裏目に出たのだ、性欲でボヤけた頭のゼノビアが対策を打っているわけもなく。


「お前もだ、小娘」

とばっちりは当然のようにアタシにも降りかかる。

どうせ知っていたんだろう?なら同罪だ、と。


「だからアタシの名前は「命を狙ってきた相手などお前で十分だ」

言い募ろうとするもピシャリと言い捨てられる。


「最初の契約は変わらん。お前が屋敷内でどんな行動を取ろうとも、労働規約に縛られる。それでも、加担した以上は多少なりと罰を受けねばならん」

所詮小娘で、貴様の影響力など容易く制限できる。


そんな裏の意味が透けて見えた。

舐めやがって、殺してやる、と思う。キザったらしい綺麗なツラを切り刻んでやりたい。



そんな妄想ができるのもこの瞬間までだった。

何も映さない無機質な目。





()()に見つめられた瞬間にそんな甘っちょろい思考は飛んで消えた。

仕方ないだろう。アタシには青い血など流れていない。何よりも青い血を持つ最上級に敵うわけがないのだから。

覇気を伴った威圧、それだけでアタシの心はへし折れたのだ。



ヒュッという呼吸音はどの喉から溢れたか。


アタシは何も聞こえないアタシは何も知らない死にたくない死にたくない死にたくない。

気付けばアタシの口から飛び出していた、自滅発言(ごめんなさい)


自らの非を認めることは非暴力的であり求心力を低めるにも関わらず、だ。

呼吸音がうるさい。

逃げ出そうと考えた時には脚が震えて動けず、アタシは無様に尻餅をついた。

「で」


死ぬのではないかと思うほどに激しい動悸を感じていたところに、公爵閣下が目をズラすことでアタシは助かった。

「一つ提案をしよう。選択肢など与えん。私が望む答えはイエスのみだ」


アタシにその目が向けられていないにも関わらず、つい数秒前までの殺気を思い出してゾワゾワする。拳すら使わず、目だけで屈服させられたのだ。頭では分かっていても、その苛立ちより恐怖が勝る。


冷や汗を頬顎へと垂らしながら小児性愛者(ペド)は一も二もなく頷いた。

べ…別にFG○の2部6章で妖精の言い回しが気に入ったとかそんなことないんだからねっ


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