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第21話 王子様系TS少女はツンデレど根性ヒロインとの過去に思いを馳せる その6

「それでは、―――はじめっ!」


「―――。“水弾”」


「――――。―――。“大地よ”」


 ローズの合図と同時に、両者は呪文を唱えた。

 一小節の詠唱で魔法を発動させた相手に対して、トリアは二小節。


「あっ、あぶなっ。な、何とか間に合ったぁ」


 高速で射出された水の弾がトリアに直撃する寸前、土の壁が盛り上がってそれを防ぐ。


「やりますね、ヴィクトリア殿下」


 トリアの対戦相手をしているのはC組の成績上位者だ。来年はB組入りも十分に狙える、学年全体で見てもかなり優秀な部類の生徒と言える。

 ローズのファンの一人であり、今日はトリアの魔法戦の相手をお願いしていた。


「さあっ、こっちの番よ。――――。―――。“火砲”」


「“水よ”」


 トリアの火球を水流が打ち消した。水はそのまま勢いを落とさず土壁にぶち当たり、慌ててトリアは頭を引っ込める。

 魔法と魔法のぶつけ合いになると、どうしたって火属性は弱い。もちろんトリアが制御度外視で魔力を注ぎ込めば属性の相性の悪さなど帳消しにしてお釣りが来るが、当然個人教師チューターとしてそれは禁じている。


「くっ、――――。―――。“火砲”。――――。―――。“火砲”」


「“水よ”、“水よ”、“水よ”」


 無詠唱魔法で生み出された水が火球を呑み込み壁を打つ。土壁は少しずつ突き崩されていく。

 防御と攻撃―――というより攻城か―――を兼ねた上手い戦法だ。


「くうっ、だったらこっちもっ。――――。――――。―――――」


 土壁の影でトリアが長い呪文を唱え始める。今度は火魔法ではない。目には目を、歯には歯を、水には水を、と言うつもりらしい。


「――――。“水よ”。―――きゃあっ」


 まっすぐに放たれた水流はトリアの正面にそびえる土壁に直撃し―――本当は山なりの軌道で壁越えさせるつもりだったのだろう―――、跳ね返った水に彼女は呑まれた。

 生じた水量は凄まじく、先刻から対戦相手が放っている魔法とはもはや別物だ。


「あぶっ、あぶぶぶぶっ」


 術者を押し流しつつも水の勢いは衰えず、ほどなく土壁は内側から崩れた。そして水流が多量の土砂を含んだ濁流となって対戦相手に襲い掛かる。


「“風よ”」


 ローズはすでに駆け出していた。駆けながら、自身の背中に強風をぶつけてグンとさらに加速する。

 対戦相手の少女が濁流に呑まれる直前、ローズは横抱きにかかえ上げるとそのままその場を駆け抜けた。


「ごほっ、ごほっ、ぶへっ。―――ちょっ、ちょっとローズ、審判が手を出さないでよっ、もうっ」


 水に濡れたトリアが立ち上がり抗議した。しかしこの王女、いつも濡れている。


「ごめんごめん、綺麗な女の子が泥水に流されるのは見てられなくって、ついね。君も、勝負の邪魔をしちゃってごめんね」


「いいえ、あの水の勢いは私にはどうしようもありませんでした。勝負はあの時点で私の負けです、殿下」


「あ、あらそう? へへっ」


 E組のトリアにとってはずっと格上の相手だ。コロッと機嫌を直す。


「……ローズ様、助けて頂きありがとうございます」


 ぽーっと熱に浮かされた顔で彼女は見上げてくる。

 憧れの王子様(♀)にお姫様抱っこで助けられたのだから、まあそうもなるか。


「ふふっ、君が無事でよかったよ」


「…………」


 地面に降ろすと、ちょっと名残惜しそうにしながら彼女は身を離した。


「また何か、お力になれることがあったらおっしゃって下さい、ローズ様。―――ヴィクトリア殿下も」


 ローズに深々と、付け足すようにトリアにも軽く頭を下げると、彼女は弾む足取りで他の観客達の元へと戻っていった。

 観衆の半数以上がローズファンであるから、“お姫様抱っこずるーい”とか“ローズさまの腕の中はどんな感触だったの?”などと声が上がる。


「あなた、本当に人気があるのね」


「ははっ、トリアだって負けてないと思うけど」


 観客の中にはトリアの応援に来ている生徒も少なくない。

 いまいち締まらない決着だったので拍手喝采とまではいかないが、ぱらぱらと手を叩く音とトリアを称える声も聞こえて来る。


「ふふ~ん」


 トリアは得意げに手など振って答えて見せる。

 平時での魔法の制御はかなり安定してきたので、ここのところ相手を見つけては魔法戦を戦わせている。

 勝ったり負けたりで勝率は五割と言ったところだ。基本的に相手は格上ばかりだから―――その方が相手もトリアも危険なく戦える―――、よくやってはいるのだが。


「トリア、分かってるよね?」


「うっ。な、何の話かしら?」


 じと~っと見つめていると、すぐにトリアは音を上げた


「分かってるわよ。今みたいな勝ち方じゃ、試験じゃ評価されないって言うんでしょ」


「正解」


 勝つ時も負ける時もトリアの暴発が引き金となった試合が多かった。

 初めに一人で炎を出してもらった時もそうだったが、気持ちが高ぶるほどにトリアの悪癖は強調される。怒りで言葉が荒れたり、緊張でどもるようなもの、とでも考えれば良いのか。

 そうなると、大事な場面ほどにトリアはポカをしでかすことになる。暴発の末に勝利したとしても、学園の試験では敗北よりもかえって低評価を下されることになるだろう。彼女が現在E組所属なのも、それが理由の一つだ。


「ふんっ、C組トップの子に勝ったんだから、ちょっとくらい褒めてくれたって良いじゃない。あたしのことはほったらかしで、あっちの子だけ助けに行っちゃうしさ」


「ははっ、ごめんごめん」


 原作でもこの世界でもトリアには妙にタフなところがあるから、無意識に対応がなおざりになっていたかもしれない。

 ゲームの共通パートでテレーズと絡んでは風魔法で吹き飛ばされていたが、わずか数クリック後には普通に会話に参加していた。コミカルな演出が目立つこともあって、ネット上では彼女一人だけギャグ漫画の住人だなんてよく言われていたものだ。


「トリア、頭を下げて」


「わわっ、ちょっとっ、乱暴っ」


 用意していたタオルを頭から被せ、わしゃわしゃっと髪を拭いてやる。文句を言いつつも、トリアは大人しくされるがままだ。

 ツンデレを動物でたとえるなら普通は猫あたりが定番だが、口先だけでツンが弱々なトリアはたとえるなら人懐っこい大型犬だろうか。

 左右のツインテールもタオルで挟んで念入りに水分を吸い取る。ちなみにどんなに水に濡れてもトリアのドリルが崩れることはない。筋金入りの金髪ドリルツインテール少女だ。


「よし、これで大丈夫。いつもの可愛いお姫様だ。まあ、そもそも水に濡れたくらいじゃトリアの可愛さは微塵も揺るがないけどねっ」


「だから相手の子だけ助けたとでも言いたいわけ? ふっ、ふんっ、いっつも調子の良いことばっかり言うんだからっ」


 言葉とは裏腹に、満更でもなさそうな顔でトリアはドリルの先っぽを指でぐりぐりした。


 ―――よしよし、攻略は順調だ。


 原作のトリアシナリオでは、熱血スポコンストーリーが展開される。主人公アンリは時にライバルとして時に親友として共に成長していくことになる。

 図らずも先生役に付けたのは幸いだった。形は違うが、ローズはコーチとして教え子のトリアを導いてやれば良い。これもスポコンの定番だ。


「それじゃあ―――」


「練習再開ねっ」


 幸いにして、トリアは少なくともやる気だけは百点満点の教え子だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 上手くいくといいなぁ
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