↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHAKER & STIRRER  作者: 猫ネコユズキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/18

第三話 スターレット First Sip

第三話「スターレット」へようこそ。


静かなバーに、明るいアルバイトの女の子がやって来ました。


彼女が運んでくるのは、新しいお客さんと、これまでとは少し違う夜。


まずは、最初の一杯からお楽しみください。

「今日からお世話になります。河合亜衣子です!」


開店前の店内に、よく通る声が響いた。


亜衣子は二十代前半。胸元にエプロンを当てながら、壁の鏡をちらりと見た。髪を整え、口角を上げる。


「どうですか? バーの店員っぽいですか?」


「似合っていますよ」


マスターが答えると、亜衣子は満足そうに笑った。


バー「LIFE is BAR」にアルバイトが入るのは、久しぶりのことだった。


グラスの置き場所を教わり、注文を覚え、客が帰ればテーブルを拭く。亜衣子はよく動いた。失敗すると大きな声で謝り、褒められると、それ以上に大きな声で喜んだ。


数日もすると、常連客は彼女を「亜衣子ちゃん」と呼ぶようになった。


「マスター。このお店、SNSやってないんですか?」


客の途切れた時間に、亜衣子がスマートフォンを差し出した。


画面には、カウンターを背景にした彼女の写真が映っている。実物より少し目が大きく、肌も明るい。


「もう作っちゃいました。お店のアカウントじゃなくて、私のですけど」


マスターは画面を見た。


《今夜はLIFE is BARにいます。私と飲みましょ♡》


「お客さん、増えると思いますよ。友達にも声かけてみます」


「そうですか」


「なんですか、その反応。嬉しくないんですか?」


「嬉しいですよ。ただ、ほどほどに」


「大丈夫ですって」


亜衣子は笑いながら投稿ボタンを押した。


その週末、店には初めて見る客が何人も来た。


「亜衣子ちゃんの投稿を見て」


そう言われるたびに、彼女は嬉しそうにマスターを振り返る。マスターもそのたびに小さく頷いた。


忙しさが落ち着いた頃、一人の男がカウンターに座った。


「亜衣子さん、いますか」


亜衣子が顔を上げると、男は照れたように笑った。


「写真、見ました。実際に会えてよかった」


「ありがとうございます。何を飲まれますか?」


男はメニューを開かずに答えた。


「亜衣子さんのおすすめで」


「じゃあ、マスター。スターレット、お願いします」


「スターレット?」


男が聞き返すと、マスターはグラスを手に取りながら答えた。


「これからスターになることを夢見る、若い女優のことですよ」


「私も、このお店のスターになれるかな」


亜衣子が冗談めかして言うと、男は笑った。


「もう、なってますよ」


亜衣子は「上手ですね」と笑い、別の客に呼ばれてカウンターの奥へ向かった。


男はマスターの手元を見ていなかった。別の客と話し始めた亜衣子を、黙って目で追っていた。


その夜、男は閉店近くまで席を立たなかった。


帰り際、亜衣子が「また来てくださいね」と言うと、男は一度だけ振り返った。


「はい。また、あなたがいる日に」


それから男は、亜衣子がいる夜に何度も店を訪れた。注文するのは、決まってスターレットだった。


ある夜、男が帰ったあと、亜衣子は売上を数えるマスターの横で、嬉しそうにスマートフォンを見ていた。


「ほら、今日の投稿、こんなに反応があります」


画面に並んだ数字を見つめる彼女に、マスターはもう一度だけ言った。


「亜衣子さん。ほどほどにしてくださいね」


「はーい」


亜衣子は画面から目を離さずに返事をして、次の投稿に載せる写真を選び始めた。

第三話「スターレット」First Sipをお読みいただき、ありがとうございます。


亜衣子が入って、いつものバーも少し賑やかになりました。マスターの「ほどほどに」は、彼女に届いているのでしょうか。


続くSecond Sipも、読んでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。