第二話 アフィニティ Last Sip
Second Sipまでお読みいただき、ありがとうございます。
マスターの話を聞いた翔は、声をかけるのをやめました。
第二話『アフィニティ』、最後の一杯です。
翔は、空のグラスの縁に残った水滴を見つめていた。
もう帰ろう。そう決めたはずなのに、席を立つタイミングを逃している。
マスターの話を聞く前なら、あの女性に声をかけていたかもしれない。酒の名前を尋ねるくらいなら、不自然ではなかっただろう。
だが今は、知らない相手と急に親しくなることが、少し怖かった。
翔は財布を取り出そうと、上着のポケットに手を入れた。
「マスター、アフィニティをもう一杯いただける?」
三席向こうから、女性の声がした。
翔が顔を上げると、彼女もこちらを見ていた。目が合う。
先ほどまで何度も待っていたはずの瞬間だった。なのに翔は、どうしていいか分からず、軽く会釈することしかできなかった。
女性は微笑んだ。
マスターが新しいグラスを用意する。氷を入れたミキシンググラスに酒を注ぎ、バースプーンを静かに回した。翔はその手元を見ているふりをしたが、向こうからの視線が気になって仕方がない。
「お一人なんですか?」
不意に声をかけられ、翔は女性とマスターの顔を交互に見た。
「えっ……あ、はい。一人です」
翔は返事をしながら、自分がさっきまで彼女と話したがっていたことを思い出した。
「私も一人です」
女性は少し笑って、続けた。
「つい最近、こちらに出てきまして。まだ、このあたりのお店もよく知らないんです」
「そうなんですね。俺もここには、たまにしか来ないですけど」
もっと気の利いた返事があるだろうに。翔は自分の声が少し硬いことに気づいた。
女性は気にした様子もなく、マスターが差し出したグラスを受け取る。ひと口飲んでから、翔のほうへ向き直った。
「このお店、落ち着きますね」
「ええ。地下だから、外のことを忘れます」
「私も、そう思いました」
彼女は楽しそうに笑った。
ほんの数分前まで、翔はこの人と話したくて仕方がなかった。今も、話してみれば感じのいい人だと思う。マスターの昔話を聞いたせいで身構えている自分が、急にばかばかしくなった。
もう少し話してから帰ろうか。
そう思ったとき、女性が尋ねた。
「出身地ってどこなんですか?」
「……えっ?」
第二話『アフィニティ』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最後の問いかけを、皆さまはどう受け取りましたか?
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