第四話 王宮会計監査室、爆誕
ミレーヌ様の証言は、想像より深刻だった。
モルダート商会の男が男爵家に出入りし、殿下の予定、警備の配置、王宮の間取りまで報告させられていたこと。断れば家を潰すと脅されていたこと。
証言はすべて記録し、彼女の署名を取り、写しを三部作って別々の場所に保管した。
原本はお父様経由で、国王陛下へ。
――そして、監査の日。
王宮の大会議室。国王陛下、宰相閣下、財務卿、そして顔面蒼白の王太子殿下。
わたくしは監査人補佐として末席に座り、帳簿の山と共にその時を待った。
「グランフェルト公爵令嬢。そなたの記録と、王太子府の帳簿に、齟齬が三百件以上あると聞くが」
陛下の声は重い。わたくしは立ち上がり、一礼した。
「はい、陛下。ですが本日申し上げたいのは、殿下の浪費ではございません。浪費は――囮ですわ」
会議室がどよめく。わたくしはページを開く。
「王太子府の支出のうち、隣国系商会に流れた総額は二千三百万リル。うち市場価格との差額、およそ八百万リルの行方が不明です。同時期に、王宮警備の配置図が隣国に渡った疑いがある。つまりこれは浪費事件ではなく――国庫を経由した、諜報資金の洗浄です」
「馬鹿な! 私は、私はただミレーヌに……!」
殿下が立ち上がりかけ、陛下の一睨みで崩れ落ちる。財務卿が震える手で帳簿をめくり、呻いた。
「照合が……完璧だ。日付、金額、証憑、すべて揃っている。我が財務府の記録より、正確ですぞ……」
陛下は長く目を閉じ、開いた。
「グランフェルト公。娘御の帳簿を国事とする。本日をもって王宮会計監査室を設置。監査室付き筆頭に――エルディア・グランフェルトを任ずる」
……あら。わたくし、婚約破棄されたばかりの傷心の令嬢なのですけれど。
まあ、よろしくてよ。帳簿がわたくしを呼んでいますもの。




