第74話 準備も大詰め ★ジョセフ SIDE →レオン SIDE
双子から帰国するという連絡が届いたのは、こちらに戻ってくる五日前の夜でした。隣国との同盟を果たしてくれたラウルとラウラの帰還を祝うパーティーを『舞台』として開催するために、私たち双子とアルバート宰相は、最終的な調整などをしながら慌ただしく過ごしていました。
「折角ですから、ラウラは名前を変えた状態で登場させたいと思いますが、姓も変えるのですから、考える時間を与えなければなりませんね。サザラシアにいるラウラに連絡は取れますか?」
アルバートが宰相らしく、新たな公爵家の立ち上げに必要な書類などを確認しながら私に声をかけて来ました。
「流石にラウラだけに極秘で連絡を取るのは難しいでしょうな。念話でも出来れば良いのですが、念話ができるのは〝神の遣い〟の資格がある者のみですから――――」
『我が伝えてやろう。これは成功せねばならん案件だろう?』
「わわっ! レオン殿……驚かせないでくださいよ……」
『悪かったな、アルバート。相変わらず驚いてくれるから、我は案外嬉しいぞ? ククッ』
レオン殿はアルバートを気に入っているのか、ちょくちょく揶揄っては遊んでいらっしゃいます。仮とはいえ、クリスの父親というアルバートの立場が気に入らないだけなのかもしれませんが。
「レオン殿、聞いていらっしゃったのであれば話が早いのですが、ラウラに名前をフルネームで考えておくように伝えてもらえますか? 折角目立つ役どころですから、今回のパーティーでお披露目して皆に認知させてしまおうかと思いましてな」
『あぁ、それが良いだろうな。面倒なことは、皆が知らないうちに終わらせておくに限る』
「さすがレオン殿。良く分かっていらっしゃる。それでは、ラウラへの連絡をよろしくお願いします」
『あぁ、今聞いてみる。今が無理そうなら、空いている時間を聞いて伝えておけば良いな?』
「はい、それで大丈夫です」
レオン殿も話が早くて助かりますな。まるで昔からいるような、思ったことがそのまま伝わるというか、違和感のない不思議な存在なのです。
『……………………無理そうだな。この話は夜に伝えておくぞ。我らに手伝ってほしいことはあるか?』
「いえ、こちらは問題ありません。順調に進めておりますので、どうぞご安心ください」
『ジョセフ、アルバート。分かっているだろうが、我はクリスの契約神獣で、直接は手が出せない。だからこそ…………頼んだぞ』
きっと、言いたいことはたくさんあるのでしょう。慌ただしくしている我々の邪魔になるからと一言だけでしたが、何が何でも成功させてほしいと言いたいのでしょうな。そのためにも、皇太子殿下とクリスが安全だと分かっているならば、全力で動きやすいのですが……。
「レオン殿。ひとつ、お願いがあるのですが……」
『うん? 珍しいな。爺さんが我に頼みがあるとな?』
「はい。皇太子殿下の護衛にクリスがついているので問題はないと思うのですが、帰還パーティーが終わるまでの間、皇太子殿下とクリスは辺境伯領から出ないでほしいのです」
『あぁ、なるほどな。狙われる可能性の高い皇太子に気を配りながらパーティーの準備をするのは大変だろうな』
「ええ。辺境伯領であれば、レオン殿も森のエルフ殿もいらっしゃいますし、二人も退屈しないでしょう? 今のクリスなら、ギーニ相手であっても、皇太子殿下を守りながら余裕で戦えるでしょうし、自由に遊ばせてやってほしいのです」
『そうだな。これからは、ウィルが自由に遊べる環境は一気に減るだろうからな。今のうちに好きなだけ遊ばせてやるのが良いかもしれないな。良いだろう。クリスもウィルが一緒なら喜ぶだろうし、我が色々と監視しておいてやろう』
ほほほ、やはり良く分かっていらっしゃいますな。
「話が早くて助かります。辺境伯邸にはすぐに伝えておきますので、どうぞよろしくお願いします」
私はすぐに魔道具の通信機を使って、辺境伯の屋敷の婆さんに皇太子殿下のことを伝えた。それにしても、この皇帝の執務室だけは外から干渉出来なくしてあるので、本来ならばレオン殿が転移して来たり、聞き耳を立てても聞こえないはずなのですが……レオン殿は神獣であらせられるから、そういうものなのでしょう。
『では、我はクリスとウィルを連れて辺境伯邸へ戻るぞ?』
「はい、お願いします」
★レオン SIDE
我は小さく頷き、人型をとってからクリスのもとへ戻った。
「レオンくん、お帰り!」
「レオン、急に転移したりして、どうしたの? 何かあったのかい?」
「耳を澄ませていたら、面白い話をしていたからな。そなたたちは今日の勉強もすべて終わったのだろう? 二人が時間を持て余しているようだからな。辺境伯領で遊んで来て良いと、爺さんから許可が出たぞ」
「本当に? やったぁ! ウィル、森に行こうよ!」
ウィルは『面白い話』の方が気になっているようだが、クリスが楽しそうに声を上げたから、そちらに反応した。
「ふふっ、そうだね。コトラ、今日も背に乗せてもらっても良いだろうか?」
「ウニャニャーン!」
楽しげに皆で辺境伯邸へ転移すると、婆さんが嬉しそうに笑顔で出迎えてくれた。
「クリス、レオン様、お帰りなさい。皇太子殿下、いらっしゃいませ。お腹は空いていませんか? 恐らく森へ行きたがるだろうから、先に何か食べさせてやってほしいと爺さんに言われましたよ? うふふ」
「おぉ! ジョセフは良く分かっているな! 俺は腹が減ったぞ」
「あはは、レオンくんはよく食べるよね」
「成長期だからじゃないかなぁ? 最近、レオンの身長が僕を超えそうだよね」
確かに目線はウィルと同じになったかもしれないな。俺の人型の姿も成長するようだ。ずっと子供のままではないようで安心したぞ。
「クリスも、肉をもっと食えばデカくなれるぞ。そなたは食が細すぎる」
「そうかなぁ? ボク、あまりお肉はたくさん食べられないんだよね。昔より食べる量は増えたんだけどなぁ」
「クリス、無理はしなくて良いんだよ。バランス良く食べることが大切なんだ。それにレオン、人間はそんなに食べられないと思うよ? 騎士たちのように、重い剣をずっと振り回したりして体を動かす者であれば、筋肉をつけるために、お肉を沢山食べなければならないのだと賢者様が言ってたけど……。レオンはクリスにムキムキになってほしいの?」
「な、なんだと!? 肉を食いすぎるとムキムキになるのか?!」
「レオンくん、多分だけど、ムキムキの素がお肉で、体を動かすことでムキムキになるんだと思うよ? 『貴方も素敵なマッチョになれる!〜筋トレと食事の関係性〜』って本に書いてあったもん」
「な、なるほど。ムキムキの素が肉なのだな……」
「ブファッ! く、クリスはあの本を全部真面目に読んだんだね? あははは! 僕と同じだね!」
珍しくウィルがいきなり吹き出したから驚いたのだが……未だに爆笑しているな。
「ウィル? どこがそんなに面白かったの? ボク、ちょっと分からないや」
「ふふふっ、分からなくても大丈夫だよクリス。っ、ふふっ、本のタイトルまでも丸暗記しているクリスはすごいなって思ってね。あははは!」
「あ、うん。面白いタイトルだよね。確か、図書館のお兄さんが干し肉を持って来てくれた時に、食事はバランスが大事だって話をしてくれて、その後に持って来てくれた本だったんだ。興味深く読んだ記憶があるよ」
「うんうん、内容はとても素晴らしかったんだよね。タイトルをもう少し考えて、女性も手に取りやすくしたら良かったのにって、とても思ったよ。お肌の調子が良くなるとか、髪がツヤツヤになるとか、そういう話もあったからね」
「ほお。それは面白いな。肉だけでは駄目だと、確かに賢者のエルフに言われた記憶がある。だが……やはり、俺は肉が好きだからなぁ。お! 今日はステーキにしてくれたのか! 嬉しいぞ、婆さん!」
ワイワイと話している間に、食事が運ばれてきた。俺はしっかりと完食してから、コトラの背に乗って森へと向かうのであった。
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