第73話 隣国との同盟 ★ラウラ SIDE
私たち双子がサザラシア王国のゲートに着いた日から、既に十日が過ぎていた。王国では、なぜか恐ろしいくらいに歓迎モードで、王国側のゲートを出た瞬間、「ワーッ!」という人々の歓声に驚いて固まってしまった。サザラシアの民たちが、私たち双子に向かって歓迎の言葉を口々に伝えて来るのだ。ネルソン卿がこっそりと教えてくれたのだが、王国の魔物問題を一緒に考えてくれる猛者を連れて帰るから歓迎してほしいと、ブルース卿が国王に手紙を出してくださったそうだ。
どうやら、ブルース卿は国王陛下のお気に入りらしい。歯に衣着せぬ話し方は貴族らしくないが、本音で話せることが、国王としては嬉しいのだろう。ブルース卿もネルソン卿も、王国では好感度が高いらしく、とてもモテる渋いオジ様たちだった。素敵な味方もいることだし、王国と同盟を結んで帰る自信はある。
ラビィ殿のお兄さんである森のエルフ殿にもお願いして、ギーニは今後、帝国側で全て処理するから安心してほしいということを同盟の目玉として提示したのだ。十数年前、ギーニの被害が大きくなり、帝国側へ追いやることしかできなかったと謝られたからね。
ギーニは皮膚が硬い上に、表面の毛は油でも塗ってあるかのように滑るから、剣での攻撃が通りにくい。怪我人ばかりが増え、当時先頭に立って指揮していた王弟が命を落としてから、戦う気力もなくなってしまったと言う。だが、国民を守るのが貴族の義務。ネルソン卿とブルース卿は森の近くで魔物を狩り続けていたらしい。だから人気があるのだろう。誰もやりたがらない魔物狩りを、国民のために取り組んで来たのだから。
斃した数で報酬がもらえると聞いた私たち双子は、見てもらった方が早いと森へ向かい、森の入り口から一キロメートルぐらいまでの魔物をすべて狩って見せた。帝国の辺境伯領では、魔物は素材として回収するから首を落とすのだと言うと、その素材として回収する技術を教えてほしいと頼まれた。そこは皇帝からの許可がいるが、同盟を結んで、王国の民が無理せず、安心して生活できるようになるくらいまでなら、帝国としては尽力しても良いと私が交渉した。
「国王陛下、改めて内容のご確認をお願いします。一つ、魔物の森に出る『ギーニ』は、今後帝国の辺境伯がすべて処理すること。二つ、魔物が大量に湧き、王国側で対処が厳しい時は、帝国の辺境伯が三日間、その都度手伝うこと。三つ、辺境伯で作る『罠』や魔物を退治するための『魔道具』を、サザラシア王国へ優先的に輸出すること。四つ、それらに対する関税はお互いにかけないこと。この四つの条件をこちらから提示したく思います」
「そ、それは王国にとって、有り難い条件でしかないのだが、帝国に旨みはないのではないか?」
「国王陛下、それは違います。帝国の辺境伯としましては、急に魔物の量が増えることだけは避けたいのです。辺境伯領では、五人の小隊から、魔物が増えると十五人程度の中隊、大物が出ると三十人の猛者が出動します。例えば、隣国からの侵入者であったり、負傷者が出た場合には魔物が集まる習性があるので、そのような可能性があった場合にはベテランが対応します。ですので、魔物が一気に増えるとベテランが日々の狩りで疲弊してしまいます。かと言って、新人を多く投入すると怪我人が増え、さらに魔物を呼んでしまうのです」
「なるほど。この提案は、こちら側の魔物もそちらで対処することで、帝国の辺境伯で戦う者たちを守りたいと言っているのだな?」
「はい、その通りです。十数年前、一気に魔物が押し寄せて来た日、私たちは辺境伯の屋敷にいました。担架で次々と運ばれて来る兵士たちを何もできずに見守るのは、とても心苦しかった記憶があります。見回りは新人の仕事なのですが、その時の私たちはまだ幼かったので、同行することも許されていませんでした。そして、魔物が急に増えるということは、これから新人となる若者たちが犠牲になるのです」
「そうか、そうだったのか。そなた達が熱心に同盟を望む理由が分からなくてな。辺境伯領で戦う同志を守るため、魔物を帝国へ押しつけた我々王国のことすら許し、同盟を持ちかけるとは……。なんと寛大なのだろうな。同盟の話は、こちらからお願いしたい。是非、帝国の……辺境伯のお力をお貸しください」
「ご理解頂けて嬉しく思います。これから先は、私たちの祖父である現辺境伯と、皇帝陛下の許可が必要となります。こちらが提示した条件は、すべて通るように尽力いたしますので、このまま私が王国と帝国の交渉に携わってもよろしいでしょうか?」
「それは是非お願いしたいです。我々では分からないことも多いですから、これからも色々教えてもらえたら助かります。ラウル殿とラウラ殿は辺境伯のお孫さんでいらっしゃるのですよね? 先ほどのデモンストレーションでお二人がお強いのは理解しましたが、他の辺境伯領の方々もやはりお強いのでしょうね?」
ブルース卿が興味津々といった雰囲気で、前のめりになりつつ聞いて来られた。
「私たち双子は特殊と言いますか……祖父の技術を受け継ぐため、勉強や実戦に時間を割いて参りました。私たちより強い人間がいるとしたら、祖父である辺境伯と……可愛い弟でしょうか。辺境伯家の人間は、帝国の騎士や魔導師より強いと言われていますので、私たちが飛び抜けて強いのは事実ですが、実践で毎日戦う辺境伯の人間より強い人間も、そういないのではないでしょうか?」
「なるほど、お二人は辺境伯の中でもお強いのですね! ですよね、周りの魔物があっという間に殲滅される様は、特別な訓練を受けていなければ無理ですよね! 私もお二人のように強くなりたいです!」
目をキラキラさせながら話す様子は、まるでクリスのようで……ブルース卿はイケオジなんですけどね? なんだか可愛く見えてしまいます。初日に稽古をつけてほしいと頼み込まれた時の目と、同じ目をしていらっしゃる……。
「ブルース侯爵、あまり無理はしてくれるなよ? 確かに王国で戦える人間は少なく、指導できる者が必要なのも確かなのだが……。それでそなたが怪我をしては元も子もないからな」
どうやら、国王陛下も過保護なタイプらしい。つい、私とラウルは笑顔になった。急にクリスたちに会いたくなって来たよ。そろそろ帰って次の行動を起こさなければだしね。ブルース卿には「機会があったら」と答え、辺境伯が心配だから近々帰るという旨を伝えた。
たった二人で大量の魔物を殲滅したことが、インパクトが凄かったのだろう。王国の人間も、これで安心して生活ができるかもしれないという希望が見えたようだ。帝国の評価はあっという間に好転した。そして、今回使者として王国に滞在していた私たち双子は、惜しまれながらも、やっと帝国に帰る日付が決まったのだった。
お祖父様が上手くやってくれたら、私たちが帰るタイミングで帰還パーティーが開かれるはず。そして、サザラシア王国と帝国が同盟を結ぶことも伝わっているはずだ。ラウルには雑に説明してあるが、好きにしたら良いと言われた。ラウルは今後、辺境伯を手伝って生きて行きたいらしい。そして最終的には、森の守り人の長になる予定だと言っていた。森の守り人とは辺境伯領で戦う人のことで、森の守り人の長とは辺境伯のことだね。
辺境伯は皇帝陛下からの指名となる。指名でない場合、自薦他薦があった場合なのだが……辺境伯になるということは、皇帝陛下の次に高い爵位を持つ人間になるということだから、それなりの権限も持つことができる。ただ、危険と隣り合わせで休まる暇もないと、何人もの人間が辺境伯の爵位を返上した過去があるからか、なり手がいないのだ。
なので、次世代……ウィリアム皇太子殿下が皇帝になられたなら、ウィリアム皇帝陛下のための辺境伯になる予定だ。クリスのことや、公爵家のこともあるから、今後も私とラウルで大事な人たちを、守っていけたらと思っているよ。
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