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【完結】小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第一部

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第72話 空いた爵位と功績 ★皇帝陛下 SIDE

 ラウルとラウラの双子が、サザラシア王国へ出立してから十日が経っていた。ラウラからの手紙によると、毎日『稽古』をつけてほしいと、中々帰してもらえないようだ。午後からは、ネルソン卿とブルース卿を中心に、国王陛下やサザラシアの辺境伯家の者たちと、帝国のオベール辺境伯が行っている対策や罠の仕掛け方を教えているらしい。


「ふむ。帰って来るには、まだ掛かりそうだな?」


「そうですね。まさか、成人したばかりの二人をサザラシア側が引き留め、ここまで長く滞在させるとは思っておりませんでしたので、期間を決めていなかったですからな……」


「それだけ、あちらの魔物の森は大変な問題なのだろう。まぁ、恩も売れるわけだし、こちらとしては、友好国ぐらいにはなってくれた方が『貿易』もしやすいからありがたいしな」


「そこまで大量に必要なものはありませんからね。辺境伯領で作っている魔物用の魔道具や素材が、多少なりとも売れるなら、うちにも少しは旨味があるんですけどね」


「そうだな。貿易するにしても、窓口は辺境伯になるだろうからな。ロドリゲス公爵家もそちらに領地があったよな? 伯爵家が吸収するか?」


「陛下、やめてくれ。彼奴等がまともに領地を経営していたとは思えぬ。暴動でも起きたら面倒だ。ワシも暇ではないからな」


「ふむ。それでは……やはり、公爵家はラウラに任せるか」


 先日、ラウラが身の振り方を悩んでいるようだと、ジョセフから聞いていたのだ。女性の格好で生きて来たことを恥じてはいないが、説明が面倒だから、ひっそりと影になろうと考えていたらしい。だが、ラウラの頭脳や才能は、影として使うだけでは惜しい。そこにタイミング良く空いた、公爵家の爵位。ロドリゲス公爵が失脚したからだな。


「あくまでも、嫡男としてパーティーなどに顔を出させて、皆が認識してからになりますが。ラウラは賢いですし、モーリス公爵家はラウルが奪ってから、ジョバンニに継がせると言っておりますからなぁ」


「まだ帰って来るまでに時間があるようなら、彼らの帰還パーティーを開いて、例の『舞台』を整えておいたらどうだ?」


「サザラシアと同盟でも結べれば、あの子たちに褒賞を与えることも可能ですな」


「良いじゃないか。表向きにはラウルしか出られないが、ラウラは名前を変えて、公爵家の嫡男として生きてもらおうか」


 ウンウンと頷きながら、書類にサインをする私の顔を、ジッと見ているジョセフに気がついた。なんだろうか?


「はぁ――――。ラウラが言った通りになりましたな」


「何だと? …………ラウラも予言できるのか?」


「まさか。ただ、先を読めるほど賢いだけです」


「まぁ、ラウラが納得しているのなら、良いじゃないか」


 それは、ラウラもロドリゲス公爵家の爵位を継いでも良いと思っているわけだろう? 何も問題ないではないか。ジョセフは納得していないようだな。


「何だ、ハッキリ言って良いぞ?」


「少し陛下を誘導しただけですが、我々が部下や貴族を誘導する時に使うやり方のようなものを、既に使うようになっているとは……」


「ほお。宰相に向いているのかもな?」


「ええ。まず、公爵家を継ぐ人間が欲しいことはラウラも知っていました。それに自分が推薦される可能性が高いことも。なので、まずは公爵家の嫡男として顔を広めるために、『パーティーに出す』ということを強調してほしいと。それでパーティーと『舞台』が皆の中で繋がるだろうから、帰還パーティーを『舞台』として整えるだろうことを予測していました。そして、『同盟でも結べれば、あの子たちに褒賞を与えることも可能だ』と言ってくれと。帰って来た時に同盟を結んでいたら、我々はそう考えていたのだから、褒賞として爵位を渡そうとなるでしょう? 要は、自分は同盟を結んで帰るから、爵位をくれと言っているのですよ」


 確かに誘導しているな。あくまでも、こちらが納得していなければそ(・)う(・)はならないだろうから、私にはラウラからのメッセージと取れるが。それも凄いとは思うが、初めて行った国で同盟を結んで来る自信があると言っているのだぞ? そっちの方が凄い自信だと思うが。普通、同盟を結ぶには数年はかかる。両国が細かいところまで納得しなければ、同盟は結ばれないからだな。


「…………本気か? 隣国は今まで帝国が恐ろしい国だと思っていたのだろう? なのに同盟を結んで帰ると? 今回の、たった一回だけ隣国に行っている間に?」


「ラビィ殿や賢者のエルフ殿に話を通したから大丈夫だと言っていましたので……私の勘では、ほぼ確実に同盟を結んで帰って来ると思いますよ」


 ジョセフの勘は恐ろしい程に良く当たるからな。そ(・)う(・)な(・)っ(・)た(・)時(・)の行動を考えるべきだろうな。


「本当に同盟を結んで来たなら、爵位は喜んで渡そう。公爵家の欠員を作りたくないのが本音だが、そんな奇跡を起こした人間を国外に出したくはないからな。我が国の貴族として働いてもらえるなら、お互い損はしないだろう。しかし、本当に大丈夫なのか?」


「先ほどから、何が気になられるのです?」


「いや、そりゃそうだろう。今回は『人ならざる者』の仕業で、隣国の貴族が、危険な魔物の森から帝国へ不法侵入したことを説明するところからスタートだろう?」


「ええ、そうですね。彼らは、行方不明扱いになっていました。消息を絶つ前に、隣国側の魔物の森で、魔物を狩る手伝いをしていたらしいですよ」


「ほお。そう言えば、結界の中で浄化する前に、クリスが彼らは魔力が多いと言っていたな。魔法が得意なのかもしれないな」


「ええ、そのようです。今では、戦える貴族が義(・)務(・)として、魔物を狩らなくてはならないそうです」


 貴族なのに魔物を狩らされるのか。辺境伯のように、戦うことに特化した貴族が少ないのだろうな。国の騎士や雇った兵士を派遣するにしても、限界は必ずある。国の金はあくまで国民の税金であって、無尽蔵に湧(わ)いては来ないのだから。


「そうか。それなら確かに、彼らの知識は役に立つだろうな。まだ引き留められていることからも、気に入られていることは間違いないだろう。ふむ。本当に同盟を結べそうな気がして来たぞ?」


「まぁ、ラウラに任せておけば大丈夫ですよ。どちらに転んでも良いように、パーティーは二パターン用意しましょう。帰って来る前には連絡が来るでしょうし、直前でも変更できるように準備しておきますね」


「あぁ、それで頼む。その時は名前も変えるのだろう? ロドリゲスのままでも構わないが、イメージが残るのは避けたいよな?」


「そうですね。名前も改名したいと言っていましたし、その時にラウラが自分で考えると思いますよ」


「…………放任主義なのか? それとも、孫たちが何でもできてしまうのか?」


「後者ですよ。双子は言われなくても、やるべきことを全て終わらせてから遊ぶような子どもでしたからね。どちらかが終わらなければ、二人で話し合いながら情報を共有したり、教え合ったりして終わらせていました。私とジョエルより、心の距離の近い双子ですね。悲しくても、辛くても、怒っていても、全て話し合って解決していました。私たちは反発もしましたが、彼らはお互いを理解しようと歩み寄れる子たちなのです」


「そうか。クリスは双子たちが近くにいたから、穏やかな子どもに育ったのだろうな」


「ええ、そうでしょうね。クリス……ティアは、兄たちが大好きでしたから。今は、ジョバンニに会えなくて寂しい思いをしているようだと、レオン殿から聞いています」


「そうか。それは、早く解決してやりたいな。『舞台』の準備は抜かりなく頼むぞ。正直、『昔のティアの幻影』を見た日から、彼女の父親である公爵を許せなくてな。早く失脚させたいのが本音だ」


「はい、私もです。私は地下牢でティアに再会した時、気づいていてもすぐに助けられなかった自分を恨みました。ですが、ティアは私に文句のひとつも言わず、会えて嬉しいと涙を流したのです。その時、私は公爵を闇に葬り去ってやろうかと、本気で考えましたよ」


「彼女を知っている人間の心はひとつだな。手を回せるところには惜しみなく金を使って構わんから、必ず成功させるんだ」


「「かしこまりました」」


 私とジョセフの会話を黙って聞いていたジョエルがニヤリと笑った。この男が本気になると、必ず成し遂げるから心配は要らないだろう。彼女があの男に怯えて暮らさなくて済むように、必ず成功させなければと、我々は拳に力を込めるのであった。

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