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【完結】小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第一部

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第71話 各々の想いと双子の旅 ★ガルシア宰相 SIDE

 サザラシア王国側からの招(・)待(・)を待っていた双子とサザラシア王国の貴族二人は、準備万端の状態で待機していた。双子はまだ身バレすると困るので、帝国を出るまでは下手に外を歩けない。賢い双子はその時間を使って、サザラシア王国の二人と魔物や森について、知識のすり合わせなどをして過ごしていました。


「〝大変お待たせ致しました。サザラシア王国の国王陛下から、直々に招待していただきました。一時的にゲートの使用許可もいただくことができました。ネルソン卿、ブルース卿。そして帝国からはラウルとラウラ。早速、出立(しゅったつ)してもらうことになります。問題ありませんか?〟」


「〝はい、我々は大丈夫です。ガルシア宰相殿、この度は大変お世話になりました。この御恩は決して忘れません。両国が友好国として、末永く協力関係を保つことができたらと思います〟」


 ガルシア卿の言葉に、ブルース卿も頷き、頭を下げて謝意を示されている。


「〝ネルソン卿、ブルース卿。我々も両国の平和と安寧を心より祈っております。サザラシア王国へ戻られてからも、お健やかにお過ごしください〟」


「〝ありがとうございます。我々サザラシアの人間は、帝国の人々の優しさや賢さを知らず、武力の国だから暴力的だと勝手に思い込み、恐れ慄(おのの)いておりました。今ではそれを、恥ずかしく思っております。ラウル殿とラウラ殿がこの数日間、付きっ切りで我々と交流してくださり、少しですが帝国を知ることができました〟」


「〝ラウルとラウラは、辺境伯が幼い彼らに全てを叩き込むようにして教育したと聞いております。ふふふ、怖がらなくて大丈夫ですよ。彼らは賢く、私が敵わない程に強いですが、『武』の辺境伯より穏やかな性格をしていますからね〟」


 腹の底から楽しそうに笑っているお二人は、きっと元々、気のいい人たちなのだろう。


「〝宰相殿、またお祖父様に睨まれますよ?〟」


「〝おっと。ラウル、内緒にしてもらえるかな? 彼は怒ると、辺境伯領の魔物より怖いのだから〟」


 わざとおっかないフリをした私の仕草に、皆が笑ってくれた。


「〝はははっ!帝国の人々は、もっと軍隊にいるような、カチッとした人間ばかりだと思っていましたが、国の中枢にいる方々が、こんなにもユーモアに溢れているとは思いもしませんでしたよ〟」


「〝ええ、ブルース侯爵の言う通りですね。サザラシア王国で人気者になると思います〟」


「〝それなら安心して送り出せます。サザラシア王国に滞在している間、どうぞ二人のことをよろしくお願いします〟」


「〝はい、お任せください〟」


 笑顔で頷くお二人と、緊張もせずに落ち着いている双子を、用意しておいた馬車まで案内する。ゲートのある場所まで少し距離があるので、馬車で移動してもらうことになっていた。馬車に到着すると、双子の爺さんが同じような笑みを浮かべている。もちろん、クリス様とレオン殿も見送りにいらしていた。


「兄様、いってらっしゃい。ご無事にお戻りください」


 きちんと挨拶をするクリス様に、双子はガバッと抱き着き、寂しそうな顔でギュウギュウと抱きしめている。


「クリス! やっと一緒に住めると言うのに離れ離れなんて、寂しいよぉ」


「クリスぅ! 帰って来たら、たくさん一緒に遊ぼうね!」


 双子に埋もれているクリス様は、二人の背中を撫でてあげていらした。相変わらず、とてもお優しくていらっしゃる。


「ほほほ、双子の方が幼子のようですな」


「クリスのことは、ワシらがちゃんと大事にするから、安心して行って来るが良い。その間は、ワシが独り占めするがな! ホッホッ」


 双子の爺さんも、全く心配していないようですな。二人に何かあったとしても、彼らには諜報員としての技術もありますからね。二十歳にして、ベテランの諜報員と同じ動きができるのだと、前にジョセフが嬉しそうに話していました。因みに、ジョセフは酒を飲ませないと、身内の話はしてくれないのですよ。それを知っている陛下が、良い酒をわざと飲ませて喋らせたりするのが、私ども幼馴染のお決まりだったりします。


「あ、じーちゃん。ウィルが、武術に興味があるって。今度お話してあげてくれる?」


「あぁ、勿論じゃ! 何でも聞くと良い。楽しみじゃの」


「やった! レオン、あとでウィルのところに顔を出して帰ろうね」


「あぁ、分かった。ラウル、ラウラ。心配していないだろうが、クリスは俺がついているから安心して行って来るが良い」


 二人はとても良い笑顔で大きく頷き、馬車に乗り込みました。


「〝気を付けてお帰りください〟」


 クリス様がネルソン卿とブルース卿に声をかけると、お二人は丁寧に頭を下げて挨拶をなさった。


「〝クリス様。浄化していただき、ありがとうございました。貴方様に治癒していただいたお陰で、擦り傷どころか、長年の悩みであった腰痛まで治りました。感謝しかありません〟」


「〝私もです。慢性的な肩こりと頭痛が無くなり、とても快適に過ごせています。本当にありがとうございました!〟」


 そう言えば、ジョセフも解体作業中に痛めた腰を治してもらったと言っていましたね。私も絶望的な状況の時には、クリス様に治癒をお願いしたいですね。


「〝寂しくなりますが、どうぞお元気で〟」


 お二人は何度も何度も頭を下げ、馬車に乗り込まれました。扉を閉めると、馬車はすぐに出発しました。時間が少し押しているのでしょう。


「行っちゃったね。ちょっと寂しいな」


「そうか。だが、すぐに帰って来る。ウィルのところでお茶でもしよう。楽しいことをやっていれば、時間なんてすぐに過ぎるものだからな」


「うん! お祖父様、ウィルのところに行って来るね!」


「クリス、帰りは一言言って帰るんだよ? 皇太子殿下には影がついているから忘れていても連絡は来るが、ジョエルがとても心配するからね」


「はい、分かりました! じーちゃん、武術の話、楽しみにしてるね! 宰相さん、魔力切れは落ち着いたのですか? お大事に!」


 可愛らしい笑顔を見せてくださったクリス様に大きく頷くと、レオン殿がさっさと転移なさった。


「どちらも嵐のように去って行きましたな……」


「元気があって良いことじゃろ」


「もう少し落ち着きがほしいところですが、まだ四歳ですしね」


 ジョセフはクリス様に今以上を求めるというのですか? 既に所作なども完璧でいらっしゃるのに。


「いや、十分でしょう? 隣国の客人に対する受け答えも完璧でしたよ? これ以上求めるなんて悪魔ですか……ガルシアの名を使用している間は、私が甘やかしますからね? 子どもはもっと甘やかしてあげなければ」


「アルバート、クリスはかなり甘やかされていますよ? 双子や、領地に戻れば婆さんたちが、放っておくはずもないでしょう?」


「そうじゃな。ワシもかなり甘やかしているが、元々の性格として自立心が強いのじゃろう。もしくは、あの父親の所為で強くあらねば生きて行けなかったのか……」


「後者である可能性が高いことに腹が立つな。これである程度、やるべき仕事は片付いただろう。そろそろ復讐の舞台をしっかりと整えなければ」


「そうだな。アルバートも協力してくれよ」


「当然です。クリス様は、今だけは私の息子なのですから」


「お主、何故『クリス様(・)』と敬称をつけているのだ?」


「助けてもらったからに決まっているでしょう。お心の強さも、魔力の強さも、美しさも……全てが私を魅了するのだから、呼び捨てにできるわけがないでしょう」


「ま(・)た(・)、クリス信(・)者(・)が増えたな」


「信者?」


「あー、気にしなくて良い。昔の陛下みたいなもんだ。それより、そろそろ陛下のもとへ戻らなくて良いのか? 宰相殿?」


 私は懐中時計を取り出し、時間を確認すると、そろそろ陛下が仕事に飽きてくる時間でした。


「サボっている可能性が高いですね。私は陛下の執務室へ向かいます。後は任せました」


「あぁ、また昼飯の時にな」


 ジョエルが背を向け、軽く手を上げてヒラヒラと振りながら去って行きます。昔は、真面目なジョセフを際立たせるためにしている行為だったのでしょうが、今ではジョエルがとてもマメで、細かく気を遣ってくれていると知っています。そんな彼に私が感謝していることを、きっと誰も気がついていないでしょう。一番年上の私の立場を考えながら、いつも行動してくれるジョエルを、私は心から尊敬しているのでした。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

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