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小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第二部

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153/155

第153話 とある日常の中で

 とある昼下がり。魔道具の授業を終え、俺たちはいつものように食堂へ向かったのだが、アリシア嬢とルシアンが別行動をするということらしい。

 

「ラウル、任せたよ」

 

「ああ、たまにはゆっくりするといい」

 

 双子の会話に、アリシア嬢が頬を染める。

 

「レオン、アリー姉様のお顔が真っ赤だね」

 

「ああ、ルシアンと二人きりになるから照れてるんじゃないか?」

 

「ふーん?」

 

 首を傾げて、よく分かっていない様子のティアに、ラウルが優しく声をかけた。

 

「最近、ルシアンにも、アリシア嬢にも釣書が大量に届くんだ。だから、他の者たちを牽制するためにも、二人で行動する時間を増やすようにするらしい。婚約は家の都合でまだできないが、二人はこのまま婚約することになるんじゃないかな」

 

「他の家と婚約する利点もなさそうですし、その可能性が高そうですね」

 

 ヘンリーが眼鏡をクイッと上げて、頷いた。

 

「アリー姉様はルシ兄様のお嫁さんになるの?」

 

「ええ、そうですよ。お二人とも満更でもなさそうですし、恐らくご成婚まで問題なく進むと思われます」

 

「……そっか」

 

 ティアは皿に視線を落としたまま、何か考えているようだ。その思考を邪魔しないように、俺は全く違う内容をヘンリーに尋ねる。

 

「ヘンリー、家での話し合いは落ち着いたのか?」

 

「あ、はい。ウィリアム殿下が我が家にいらしてくださって……あの厳格な父が踊り出すほど感激し、トントン拍子でまとまりました」

 

「くくっ。ウィルは完璧な皇子様だからな。ヘンリーの家にまで行って、手ぶらで帰ってくることもあるまい」

 

「ええ、本当に。私などが側近なんて、務まるのでしょうか……」

 

「ヘンリーも、自己評価が低いんだよな。あれだけ苦手な剣術すら毎日欠かさず訓練できる人間が、どれだけいると思う? そなたたちは、周りが異常すぎるから感覚が麻痺しているだけじゃないのか」

 

「そうだと思うよ、レオン。僕らの周りに集まって来てくれる者たちが、あまりに優秀なんだ。僕が指示していないのに、双子が話をまとめてくれていることも多いしね。この前はノアとカイルが不審者を捕らえていたよ」

 

「ああ、そうだったな。ヘンリー、そなたはもう少し自信を持っていいと思うぞ」

 

「皆、そう言ってくださるのですが。その、どうしても弟と比べられて過ごした日々が、忘れられなくて……」

 

「家庭内のいざこざ、というやつか。そなたは、何が嫌だと思ったのだ?」

 

「私は、ご存じの通り、運動神経が悪いのです。何でも器用にこなす弟たちと比べられて育ちました。『お前が長男でなければ、弟たちの方が家を盛り上げられただろう』と、しつこく言われてきたのです」

 

「それは酷いな。反論しなかったのか?」

 

「父が言うように、私はとても不器用で……幼い頃はどうしてよいのか分からず、イーサンのように悪ぶってみたりもしましたが、強がっているだけで、全くダメでしたね」

 

「ああ、ウィルが立太子した頃か。一部分だけ切り取れば、それなりに悪いやつに見えたかもな?」

 

 フォローになっていないフォローをすると、ヘンリーはがっくりと肩を落とした。「はあぁぁ――っ」と大きなため息を吐くと、苦笑いしながら話し出した。

 

「レオン様は聞き上手ですね。つい、本音を漏らしてしまう。……私は、本当は文官になりたかったんです。弟たちに負けないと言い切れるものが、外国語の習得……八カ国語を話せることだけだと、自分では思っていたのです」

 

「いや、それだけでも十分すごいけどな。そんなに卑下する必要はないと思うぞ」

 

「何の話?」

 

 ティアが顔を覗き込んできた。とても真剣に話をしているから、なかなか話に割り込めなかったようだ。

 

「ヘンリーの魅力についてさ」

 

「魅力? ヘンリーさんは、とっても魅力的だよね! すごく優しいし、周りをよく見ていてくれるよね! ルカが、帝国で困っている時には、不安な視線を向けるだけで『大丈夫? 何か手伝おうか?』って声をかけてくれたから、クラスにも馴染めたんだって、とっても感謝していたよ!」

 

「えっ……」

 

「くくくっ。そなたにとっては『ちょっとしたお手伝い』だったのだろう? ルカにとっては、『誰よりも自分を気にかけてくれる人』だったのだろうな。自分に見えない『良いところ』が、たくさんあると思うぞ」

 

「いえ、私もサザラシア語を勉強させてもらってましたし……」

 

「たしか……『控えめ』って言うんだよね、ヘンリーさんみたいな人のこと。兄様も姉様も、つい強く主張しがちだから、しっかり周りを見て発言できる人は実は一番強いんだって、姉様が言ってたよ」

 

「えっ? 私が強い……のですか?」

 

「控えめな人は、忍耐力もあるんだって。ただ、爆発したときはすごいらしいけど、どういうことだろうね?」

 

「ああ、なるほどな。たしかに普段言わない人間は、爆発すると手が付けられないかもな。くくくっ」

 

「レオンは見たことがあるの?」

 

「ああ、昔にな。ひたすら我慢する日々に限界が来ると、壊れたように爆発するんだが……ヘンリー、悩みがあれば聞くからな」

 

「……はい、そうします」

 

 苦笑いしたヘンリーは、アリシア嬢とティアの言わんとすることが理解できたらしく、「我慢しすぎは良くないですね。今は相談できる仲間もいますし」と小さく微笑みながらつぶやいていたのだった。

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