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小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第二部

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152/155

第152話 薬草学の授業

 試験が終わり、今日からは実技のみを落ち着いて受ける予定だったのだが、ティアが受けてみたい座学の授業があると言い始めた。

 

「教科書、これ」

 

「これは……薬草学かい?」

 

 こくんと頷くティア。最近のティアは、お嬢様言葉が難しいらしく、単語のみでの会話が増えつつあった。幼い頃にサザラシア王国へ渡り、数か月前に帰郷したばかりだと皆が知っているため問題はないのだが、それを小さなティアがカタコトっぽく話すものだから、周囲には可愛らしく映っているようだ。

 

「なぜ、薬草学を学ぼうと思ったんだい?」

 

 周りを気にしないウィルは、相変わらずティアしか見ていない。当然、優先されるべきはティアなのだろうが、あからさますぎて、今ではクラスメイトも少し引いていた。

 

「光魔法、使えないとき、便利」

 

「なるほど、まあそうだね」

 

「前に、兄ちゃん、魔法できない前提で訓練した」

 

「うん? 兄ちゃん?」

 

「ああ、ティアはアリシア嬢の兄……侯爵家次男であるレックスのことを言っているのだろう。あやつは、魔法を使えない場面を想定して、森の中を走り回る訓練をしていたんだ。あの夏は、それが役に立ったから驚いたんだがな」

 

「そうか。だから、光魔法が使えないことを想定して、薬草学を学びたいとなったんだね。ティアは賢いなあ!」

 

「まあ、その要因であるレックスから、しょっちゅうラブレターが届いていることも伝えておくぞ」

 

「……何だって?」

 

「ティアは命の恩人だからな。一目惚れだと言っているらしい」


「ふぅん。ウォーカー家の次男か……」

 

「そんなに生臭い方法を考えなくても、アリシア嬢から言ってもらえば良いだけだろう」

 

「ティアのことだけは、自分で何とかしたいんだ」

 

「ちゃんとティアの気持ちを考慮して動けよ?」

 

「分かってるさ」

 

 ウィルは俺に返事をしつつ、頭の中ではすでに薬草学の授業を受けるためのスケジュール調整と、レックスに関することへと切り替わっているだろう。笑顔を貼り付けたまま、読めない顔をしているときは、思案に耽っていることが多いからな。

 

「まあ、それは後々手を打つとして。薬草学の教師は誰だったか」

 

「担任のマイケル=ロバーツだ。魔道具と薬草学の教師をしていると聞いている」

 

「ああ、彼か。ティアは魔道具の授業も受けているから安心だな」

 

「ウィルも受けるのか?」

 

「当然だろう」


 そうやって、俺たちはクラスメイトと共に薬草学の授業に出席することが決定したのであった。


 ★★★


 数日後、俺たちはマイケル先生が受け持つ薬草学の初講義に参加していた。

 教室の机には、実技用として数種類の薬草が並べられている。周囲の生徒たちが教科書と見比べながら「これが癒やし草かな?」と不慣れな手つきで触れている中、ティアは配られた薬草の山をじっと見つめていた。

 

「……先生、これ」

 

 ティアが、ひょいと一本の細長い草を指先でつまみ上げた。

 

「ん? どうしたんだい、クリスティアーナ嬢。それは解熱剤の原料になる青星草(あおほしそう)だよ。とても安全な薬草だ」

 

 マイケル先生が穏やかに笑いながら近づいてくる。だが、ティアは首を横に振った。

 

「これ、違うの。混ざってる。……毒」

 

「えっ? まさか。学園に納品される薬草は、プロの採集人が選別しているはず……」

 

 半信半疑で身を乗り出したマイケル先生の顔が、ティアの持つ草を間近で見た瞬間、一気に血の気が引き、真っ青になった。

 

「っ! それは……青星草によく似た『銀蛇草(ぎんじゃそう)』じゃないか!? 微量でも皮膚から毒を吸収して、数時間は身動きが取れなくなる猛毒草だぞ!」

 

「銀蛇草? 先生、本当ですか?」

 

 周囲の生徒たちがざわめき出す。マイケル先生は慌てて教壇に駆け戻ると、裏返った声で叫んだ。

 

「全員、一旦席から離れて! 薬草には絶対に触れないでください! 納品物に他の毒草が混じっている可能性があります。今すぐ全ての机をチェックします! 助手の君、申し訳ないのですが学園長に急ぎ連絡を!」

 

 教室内は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 生徒たちが椅子を鳴らして後退する中、ティアだけは不思議そうに、つまみ上げた草を眺めている。彼女にとっては、森で生きていくために「知っていて当然」の、ごく初歩的な見分け方だったのだろう。

 

「ティア、大丈夫かい!? 手は痛くないか?」

 

 ウィルが真っ先に駆け寄り、ティアの手を両手で包み込むようにして確認している。毒草そのものよりも、ティアの指先に傷がないかどうかが彼にとっては重大事らしい。

 

「ウィル、平気。これ、根っこが赤いから、すぐ分かる」

 

「……普通は乾燥させたら判別が難しいんだがな。それを瞬時に見抜くとは」

 

 俺は、忙しなく教室内を走り回るマイケル先生を横目に、感心して呟いた。

 周りの生徒たちの視線も、いつの間にか「可愛いお人形さんのような女の子」を見る目から、「とてつもない知識を持つ天才」を見る目へと変わりつつあった。

 どうやら、薬草学の授業でもティアは注目の的になってしまったようだった。


 結局、この毒草混入騒動の原因究明と安全確認のため、薬草学の授業はひと月ほど延期されることになったのだった。

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