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小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第二部

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第150話 最悪の恋敵

 武術の試験でもウィルと対戦したティアは、とても楽しかったようで、『感情のない笑顔』を取り(つくろ)うのすら忘れて夢中になっていた。その輝く笑顔はすべてウィルに向けられているから問題はないのだがな。

 

「ティア、お疲れ様。もう少しおしとやかに微笑んでね」

 

「あ。はい、アリー姉様」

 

 すぐに『感情のない笑顔』に戻ったが、時すでに遅し。クラスメイトの大半はティアに見惚れ、叶わぬ恋……瞬殺された恋心に涙するのだった。

 

 だがしかし、ウィルの牽制(けんせい)が効くのもクラスメイトだけのようで、試験が終わった翌日の朝には、他のクラスの生徒の間で、伝え聞いた噂に尾ひれはひれがついて大変な騒ぎになっていた。

 

「彼女の笑顔を見ただけで、ひっくり返ったらしいぞ!」

 

「俺は、見た瞬間に心臓が止まったって聞いたけどな」

 

「魔性の美貌だと! Sクラスの男どもは、全員がそのご令嬢に惹かれてしまったらしい。その筆頭が、ウィリアム殿下とレオン様って本当か!?」

 

 転入生であるクリスティアーナが美しいという噂だけが、面白おかしく誇張されて伝わったか。魔法や剣術、武術まで規格外だと言われても信じられずに、噂の伝達途中で消えていったのだろう。

 

 そんなSクラスの廊下には、常日頃から人が集まるようになっていた。その大勢の中に、あの男がいた。ウィルに助けられ、九死に一生を得た、あのイーサンだ。

 あれから大人しくなったと聞いていたが、クリスがいなくなった学園では、特に突っかかる相手もいないだけかもしれないがな。

 

「俺と、付き合ってもらえませんか!」

 

 ティアの目の前まで、双子の壁をすり抜けて到達したイーサンは、ウィルの隣に並ぶティアへ愛の告白を始めた。あまりにあり得ないタイミングと人物に、皆が固まってしまい、フォローが遅れたのだが……。

 

「い、いや……だ」

 

 ティアは、絶対無理だと言わんばかりに、すごい勢いで首を横に振り、少しずつ間合いを詰めるイーサンから逃れるため、ウィルの背後に隠れた。その行動に気を良くしたウィルが、一歩前に出る。

 

「イーサン、久しぶりだな」

 

「えっ? あ、ウィリアム殿下。お久しぶりでございます」

 

 慌てて頭を下げるイーサンは、ティアの隣にいるのがウィルだと分かっていなかったようだ。皇太子と並んで歩いている女性に告白するなんて、度胸があるのか、ただの阿呆なのか……。まあ、間違いなく後者だろうが。

 

「それで? ティアに何か用でも?」

 

「あ、いえ……そ、その……」

 

 ティアへの愛の告白を聞いていたはずのウィルは、それすら『なかったこと』にして問い直したらしい。ここで引けば、お咎めはなしだと言っているのだ。なのに、やはりこの男は空気が読めなかったようで……。

 

「そちらのお嬢さんに一目惚れしまして、その、告白を……」

 

「ほお……。僕の彼女に告白、ねえ?」

 

 ウィルはイーサンの耳元に、ティアに聞こえないよう、低く小さな声で呟いた。

 

「え? 僕の彼女? え? 殿下の……?」

 

「そうだぞ、イーサン。ティアとウィリアム殿下は、皇家とモーリス公爵家()()()お付き合いをしているんだ。まだお試し期間だが、相性が悪くなければ……ティアは、未来の皇妃様だよ」

 

「だからね、不敬な物言いは改めたほうが良いと思うよ?」

 

 ラウルとルシアンが、イーサンの後ろから小声で賛同してみせた。すると、やっと言わんとすることが理解できたのか、彼はサーッと顔を青くした。さすがに可哀想になってきたから、俺が「早く行け」とイーサンを逃してやった。

 

 珍しく深々と礼をしたイーサンは、そそくさとその場を立ち去ったのだった。それを見ていた生徒たちは、「殿下やラウル様たちが『告白してきた男を追い払った』らしい」という噂を囁き、その噂は、思いのほか大きくなって、皇帝たちの耳に入ったのだった。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

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