第149話 砂塵の演武と虜の英傑
魔法の試験が終わり、次は剣術の試験だ。昨年も思ったのだが、剣術も武術も、弱い者を容赦なく叩きのめす形式の試験に意味を見出せなかった。だが、昨年の試験を見ていた教師たちがやり方を変えてくれたらしい。
「今年は、昨年の成績順で戦ってもらいます。一位だったクリス様はいらっしゃらないので、二位のウィリアム殿下と……」
おそらく、令嬢であるクリスティアーナが試験を受けることに驚いているのだろう。だが、小さな令嬢に怪我をさせるわけにもいかないと思ったはずだ。やはり、カールは優しい男だな。
「ああ、僕がクリスティアーナと一緒に受けます」
「かしこまりました。では、前へ」
ホッとした顔で僕たちを促す彼は、試験のSクラス担当教師よりもしっかりしているように思えた。
「始め!」
剣を構えていた二人は合図の瞬間、俺たち以外のクラスメイトには消えたように見えただろう。「ガッ! ガガガッ! ガキン!」と音だけが会場に響き渡る。動きが速すぎて見えていない上に、砂埃で二人の姿はまったく見えなくなっていた。
「おい、あの二人じゃ時間内に終わらんのではないか?」
「ああ、レオンの言う通りだろうね。先生、時間を制限したほうがよろしいかと」
「え?」
「あの二人は、いつも一緒に訓練しているからな。下手すれば一時間以上……短くても三十分以上は続くと思うぞ」
「そうなのですね。彼らの姿は見えませんし、もう十分でしょう。やめっ!」
カールの声に、「ばっ!」と二人が離れた。二人とも息すら上がっていない。いつもの戯れに過ぎないことを物語っているな。
「さすがは殿下のお墨付きだな!」
「あの小さな体を、どう使えばあの動きができるんだ?」
「普通じゃないから、殿下が大事になさっているんだろう」
クラスメイトは見たまま、あるがままの二人から連想ゲームを始めたかのように、あることないこと話し出した。そんな中、悩んでいたカールが困ったようにウィルに声をかけた。
「うーん。殿下、優劣がつけがたいので、お二人は同率で暫定一位となります」
「そうですか、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
優しく微笑んだティアに、またまた頬を染めたカール。今回はウィルが見ていなかったから、彼が睨まれることはなかったぞ。
その後の順番は、ラウルと俺、アリシア嬢とルシアン、カイルとノアが対戦することになっていた。ヘンリーだけは少し後にクラスメイトと対戦することになったようだった。
★★★
「お待たせしました!」
「お疲れ、ヘンリー。随分と太刀筋が綺麗になったね」
「そうですか? ありがとうございます! 皆さんがいつも訓練に付き合ってくださるからですよ」
「ふふっ。ヘンリーの努力のたまものだと思うよ。昨年の今頃から、毎日うちで素振りや訓練を怠らなかったからね。『継続は力なり』だよ」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
ラウルに褒められ、珍しく嬉しそうに照れているヘンリーは、昔よりも随分と表情が明るくなった。成長を感じられるほどの努力をしているのだから、自信が持てたのだろう。
ヘンリーと合流した俺たちは、昼食のために食堂へ向かおうと踵を返す。すると、数人のクラスメイトがティアに話しかけようと近づいてきた。怖がらせないよう大きな声を控え、できるだけ身を小さくしている。ウィルの言ったことを理解した上で、細心の注意を払って話しかけようとしているのが分かる。
「あ、あの、クリスティアーナ様。お話よろしいでしょうか?」
おずおずと話しかけてきた茶髪の令嬢に対し、困った顔をしたティアはウィルに視線を向けようとしたが、その前にラウルとルシアンがティアの前に一歩出た。
「ごめんね、試験で疲れたみたいなんだ。質問は私が受け付けるよ。何が知りたいのかな?」
「あ、い、いえ、学園に馴染まれてからお声掛けさせていただきますっ」
令嬢は細かく震えながらカーテシーをし、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。彼女はたどり着いた先……おそらく友人と「る、ルシアン様が目の前にっ! ああ、もう心臓が爆発しそうだわ!」「羨ましい――!」といった会話をしていることから、双子のファンなのだろう。
次に、綺麗な顔をした小柄な令嬢が、諦めきれないらしくティアに話しかけようと身を乗り出した。
「そちらのご令嬢は、どのような質問でしたか?」
「く、クリスティアーナ様は、何カ国語お話しになるのか、気になりまして……」
「ああ、それなら私が答えよう。読み書きまで完璧なのが十カ国語、話すだけならその他に五カ国語だよ」
「え……? ほ、本当ですか?」
「ルシアンが言ったことは本当だよ。サザラシアではサザラシア語で勉強していたわけだし。私たちの祖父は二十カ国語話せるから、私もティアも、まだまだだけどね」
「な、なっ……」
ひっくり返りそうになりながら友人のもとに戻った令嬢は、「わたくしの努力が……っ!」と泣き出してしまったようだ。友人らしき者が、「クリスティアーナ様が現れるまでは、貴女が最有力候補だったのに!」と地団駄を踏んでいる。ああ、こちらはウィル狙いか。王妃になるならば、複数言語を話せなければならないからだろう。
ティアが返事をする間もなく、双子や俺、そしてウィルが代わりに返答し、十人近くのご令嬢を躱したところで、それを見ていたクラスメイトがこそこそと話しているのが聞こえた。
「あの方、ご自身で言葉を発する必要さえないのね。帝国の皇太子殿下やモーリス公爵家、さらにはあのレオン様までが彼女の意志を汲み取って代弁なさるなんて……」
「次代の帝国のトップと謳われる方々を虜になさっているなんて」
「わたくしたちに勝ち目はこれっぽっちもないと理解したわ」
勝手に勘違いして完結してくれるのはありがたいのだが。本来はティアが喋ってボロを出さないための、周囲の必死な連携プレーなのだがな。苦笑いする仲間たちと共に、やっと食堂へ向かうのであった。
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