第143話 ルシアンの策略
翌日から、思い出したかのように、ウィルの後ろをちょこちょこついて回るティアを見かけるようになった。
「ウィルが鼻の下を伸ばしているように見えるな」
「あー、昨日のナンパ騒動で、私が言ったことをティアが思い出したのだろうね」
ルシアンがのほほんと言う。ああ、そういえば……。ナンパ対策を教えた日に、ウィルの近くにいろとか何とか言っていたな。
あの時は、『兄様たちは強いけど、一人になった隙にたくさんの女の子に囲まれちゃってたもんねー。ボクじゃ、躱せそうにないや』という会話のあとに、少し考えて、何か「ピン!」ときたらしいルシアンがクリスに言い聞かせるように話しかけていた。
『良いかい、クリス。クリスはウィルが大事だよね?』
『うん! ウィルはボクの親友だから大事だよ』
『ふふっ、そうだね。じゃあ、ウィルも兄様たちみたいに大変なことになると思うから、できるだけ一人にならないように、クリスがいつも一緒にいてあげてくれるかい? これまでは、アリシア嬢やヘンリーたちも一緒にいたから平気だったけど、来年度からは八年生で、就職活動や貴族としての付き合いなどで不在にすることも増えると思うんだ。だからね、ウィルを守るためにも、ティアが一緒にいてくれると、ウィルも兄様たちも助かるんだよ』
『兄様たちも助かるの?』
『そうだよ。その度にウィルを助けに行くとね、兄様たちも巻き込まれる可能性があるだろう? でも、最初から誰かと一緒にいれば、そこまで強く言い寄れる人は少なくなると思うんだよね』
『そっか! 学園に通ってるときは、ずっとウィルと一緒に行動するね!』
『パーティーのときもだよ、クリス。あー、どんなときも一緒にいてくれると助かるかな。ティアの姿に戻ったら、『護衛』という大義名分がなくなってしまうからね。レオンがいるから大丈夫だと思うけど、ティアがいるところにしかレオンはいないんだから、ティアがウィルと一緒にいる必要があるんだ』
『なるほど! じゃあ、ずっとウィルと一緒にいるね!』
『ありがとう、クリス! これで兄様たちは安心して就職活動や貴族としての活動ができるよ!』
そう言っていた。こちらは、ウィルへの「女性避け」対策だろう。確かに、ブルース卿が開いてくれた昼のパーティーでは、ウィルの隣にティアがずっといたおかげで、小さなレディたちが近づいてこなかった。そしてティアにも、サザラシア王国の令息たちは近づくこともできなかった。まあ、これはウィルが牽制していたからなんだけどな。
「おい、待て……。それは、手放しで喜んでいた僕が馬鹿みたいじゃないか!」
「えー? 毎日ティアが一緒に……隣にいてくれるんですよ? 学園内でも、パーティーでも。これって、私にお礼を言ってくれても良いくらいですよね?」
「うぐっ。たしかに、それは嬉しいが……。自発的ではないことのほうが……」
「ウィル。それでも最終的に、そなたの近くにいることを決めたのはティアだぞ。その言い方は、ティアにも失礼だ」
「はっ! ああ、そうだよね。これは素直に礼を言うべきか。ルシアン、ありがとう。僕の悩みの種はスムーズに一つ減ったようだ」
「ふふっ。当の本人たちには分からないものです。それほど、恋は盲目になるものですから」
「ほお。ルシアンは恋をしているのか?」
「レオン、見ていたら分かるじゃないか。ルシアンが好いているのはアリシア嬢だろう」
「ああ、そういえば、しょっちゅう庇う必要のない彼女を庇っていたな」
「男だからね。レディを守るのはナイトの役目さ」
キザなセリフが似合うルシアンに、憧れの眼差しを向けるウィル。いや、絶対に真似しないほうが良いと思うぞ。そう思いつつ、大事な者たちを守ろうとする彼らをこれからもずっと、温かく見守りたいと思うのだった。
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