第144話 隠された光の覚醒
翌日、僕たちはサザラシア王国の若者たちとの交流という名目で開かれたパーティーに参加することになっていた。手早く正装に着替え、軽く髪をセットしたところに双子が迎えに来た。
「ティアの着替えが終わったらしいよ。早朝から準備していたから疲れていると思うので、エスコートをよろしくお願いしますね」
ルシアンが、何か企んでいるような笑顔で僕を促す。だが、動かなければ着飾ったティアも見ることができないのだから、警戒しながらも双子の後をついて歩いた。
「こちらの部屋です。ティア、兄様だよ」
「どうぞ」
着付けを手伝ってくれた者の声だろう、入室を許可されたので、そっと扉を開く。椅子に座っていたティアが、ゆっくりと立ち上がり、丁寧に振り向いた。そこには、僕たちを見つけてホッとしたのだろうか、固い表情が柔らかくほころぶさまは、ため息が出るほど美しかった。
「…………っ!」
「まるで女神の再来だね」
「このドレスを選んだ僕たちのセンスも正解だったよ」
双子たちが淀みなく華やかな言葉を並べる横で、僕だけが語彙力を喪失し、何一つ賛辞を口にできずにいた。言わなければと焦れば焦るほど、声が出ない。ああ、両目が見えるように、前髪を切ったんだな、昨日見たはずのドレスはサイズを直しただけなのにな、と目からの情報は入ってくるのに、言葉にならない。それほどまでに、目の前のティアは美しかった。
「今日のドレスは、深い青なんだね。アクセサリーの青とはまた違う雰囲気で、綺麗な色だね」
ルシアンが微笑みながら言う。その程度の感想すら言えない自分に、少し呆れてしまった。ティアのアクセサリーは、プレゼントした僕の瞳色の指輪に合わせて、イヤリングやネックレスも僕が色を揃えて贈ったものだ。こういったパーティーにも着けられるようにと、自分で探して用意したのだ。
「うん。とっても綺麗な色のドレスだよね。布は重くて動きにくいけど……」
苦笑いするティアに、双子はアドバイスを始めた。
「ティア、歩幅を小さくして、ゆっくりと歩けば大丈夫だよ。ウィルがエスコートしてくれるから、彼の歩幅で歩けば良い。まだ言葉遣いも雑だから、ちょっと心配だけどね」
そう言って、チラリと僕に視線を向けるルシアン。ああ、安心させろと言っているのか。
「ティア、大丈夫だよ。サザラシア王国で、僕が主賓として招かれる初めてのパーティーだから、ほとんど僕が対応することになると思う。ティアは僕の隣で微笑んでいてね。ティアがいてくれるだけで、僕も頑張れるから」
自分の顔はもちろん、耳まで赤くなっているのがわかる。そんな僕の顔を覗き込んだティアはどう受け取ったのか、視線を合わせて頷いた。
「ウィル、分かった。ボクも頑張るね。微笑むの、難しそうだけど……」
苦笑いしながら首をコテンと傾げたティアの姿に、心の中で悶絶していると、双子が『どんな微笑み』かを、説明し始めた。
「ティア、ウィルがよくやるやつだよ」
「そうそう。遠くから見たときのウィルの表情、分かるでしょ?」
「感情のない笑顔のこと?」
キョトンとした顔で、でもはっきりとその違いを理解してくれているらしいティアは、僕の外向きの笑顔……薄く、遠くに向けたような微笑みをしてみせた。
「……ティア、理解していたんだね」
「誰でもわかるでしょう? ウィルがボクに笑いかけてくれるときは、お日様みたいだもん」
「…………っ!」
すごい勢いで体温が跳ね上がるのがわかった。僕の顔や耳、もしかしたら全身が真っ赤になっているかもしれない。ちゃんと見ていてくれたんだという歓喜。僕の色で飾った宝石たちを纏ったドレス姿のティア。
「ティ、ティア……ドレス姿、とても綺麗だよ。前髪、切ったんだね。瞳や顔がはっきり見えるのも、とても似合っているよ」
「ありがとう! ウィルにそう言ってもらえるのが一番嬉しい! それにウィルも、すっごく格好良いよ!」
やっと褒め言葉を絞り出した僕は、ティアのその言葉に再び悶絶させられた。今日は、ティアの一挙一投足に反応してしまいそうだなと、言葉を失うばかりだった。
パーティーは、これからだというのにぐったりしそうなのは僕の方だった。ティアをエスコートするために肘を貸す指先がわずかに震え、ドレスの柔らかな生地を傷つけないかと過剰に意識してしまう。皇太子として壇上に立つときよりも、よほど緊張していた。
今、僕の心を締め付けているのは、『自分だけが知っていたはずの魅力が、世界に放たれてしまう』という独占欲と焦燥感だろう。ティアが注目されないわけがないのだ。でも、準備は終わってしまった。これから皆の前にティアを連れて行かなければならない。
せめて、僕のパートナーだと、しっかりエスコートしなければと心に決める。ここはサザラシア王国。王の子どもたちは皆、男ばかりだ。ここで僕がしっかりしなければ。ティアを奪われたくなければ、ティアを守らなければ。そんなことを考えながら、ゆっくりと歩いたつもりだったのに、あっという間に会場の前に着いてしまった。
そして、会場の扉が開いた瞬間、場内が静まり返り、現地の令息たちの視線が一斉にティアへと突き刺さるのだった。
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