第141話 眩しい世界
翌朝、王都の有名なブティックへ向かったのは、紹介してくれたブルース卿と双子、ウィルと俺。そして、本日の主役であるクリスだ。
貸し切りにしてくれていたらしく、クリスが着られるサイズもたくさん用意してあった。きらびやかなドレスを見てたじろいていたクリスに、双子とウィルがどんどんドレスを着せていく。
「ティア、次はこれね」
「その次はこれを着てね、ティア」
楽しそうにドレスを選ぶのは、ラウラ口調に戻りつつあるルシアンと、真面目な顔でドレスを見つめるウィルだ。
「はあー、どのドレスも似合うから、選べないわ……」
頬に両手を当てて、お姉さんのようにクネクネしているルシアンの言葉に大きく頷きつつ、視線をティアから外せないウィル。
「ああ、そうだな。ティアは何を着ても似合う。とても綺麗だ」
「…………」
着せ替え人形にされているティアは、すでにぐったりしていた。朝からもう、百着近いドレスを着替えているから当たり前か。
「お嬢様はまだ幼くていらっしゃるので、コルセットなどは……この一番大きなサイズからで問題ないと思われますが、いかがなさいますか?」
「ああ、そうしてくれるかい。ティアは細身だから、あまり締め付けの強いものは避けてほしい」
「かしこまりました。以上でよろしいでしょうか? こちらは侯爵家へ明日の朝までに調整してお届けいたします」
今回の買い物で、ドレスと靴や小物を五十セット以上を購入したようだ。なぜか、ウィルとルシアンが満足そうにしていた。ティアは、一番気に入ったらしい青色のドレスと、それに合う靴を選び、身につけて帰ることになったのだが……。
「うわっ!」
「ティア! もう少し歩幅を小さくして、ゆっくり歩いてごらん?」
ルシアンが慌ててティアの手を掴んで転倒を回避し、歩き方を指南している。男の子として生活してきたティアには、すぐに慣れるのは難しいだろうな。
「うー、歩くだけなのに大変……」
「まあ、慣れるまでは大変だろうが……頑張れ」
「慣れるように、王都を見ながら戻ろうか。ああ、その前に……」
ポケットから何かを取り出したウィルの瞳は、とても優しげだ。着替えるティアを、愛しそうに目を細めながら、すべてのドレス姿を目に焼きつけようとじっと眺めていたのだった。
「ティア、僕からプレゼントがあるんだ」
ウィルは跪くと、ポケットから出した小箱を開けて見せた。中には、ウィルの瞳の色の魔石を使った指輪が入っていた。
「うわあ! すごく綺麗だねー!」
「この指輪は、ティアの瞳の色を両方同じ薄桃色にするための魔道具なんだ。片目を前髪で隠すのは大変だろう? よかったら使ってくれると嬉しいよ」
「ウィル、ありがとう! 大事にするね!」
「ふふっ。喜んでくれて良かった。僕がつけてあげるね」
指輪をつけてもらっているティアの後ろでは、双子がひっそりと話をしていた。
「あー、あの指輪、ウィルの瞳の色だね……」
「何かを贈るなら、そうなると思っていたけどね。ティアが選んだドレスも、ウィルの色なんだけど……ティアは無意識なのかな」
「恐らくね。長い時間を共に過ごしてきたからね。ティアもウィルに依存しているところがあるんだろう」
「ルシアン」
「はっ!」
耳を赤くしたウィルが、ルシアンを呼ぶ。ルシアンはわざとらしく、きちんと返事をしてみせた。
「ティアの髪を整えてやってくれないか。両目出せるようになったのだから、もう一つにまとめておく必要もないだろう」
「ああ、たしかにそうですね。そのドレスなら、ハーフアップにしてみましょうか。ティア、おいで」
ルシアンに髪を整えてもらったティアは、とても可愛らしい。鏡の前で、くるりと回って見せたティアは、困った顔をしていた。
「ティア、慣れないか」
「うん。何だか、ボクじゃないみたい……」
「ティア、『わたくし』って言わないと」
「うぅ……」
「ティア、ゆっくりでいい。僕も手伝うから、一緒に頑張っていこうね」
「うん、ボク……わ、わたくし、頑張ってみる」
先は長そうだが、少しずつ慣らさなければだな。賢いティアのことだ、慣れれば問題ないだろう。こうやって、元の姿に戻ったティアは、双子やウィルの『お姫様』として、ちやほやされながら侯爵家に戻ったのだった。
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