第138話 君と進むために
クリスが眠りについてから、皆の集まる応接間に向かう。
「待たせたな」
「お疲れ様、レオン。早かったね」
「半月の間、ずっと気が張っていたからな」
俺は説明しながら、侍女が出してくれた軽食とお茶を一気に口にした。ウィルがうずうずしている様子が目に入る。
「ねえ、レオン。次年度の話ってなんだい?」
目が合った俺に、ウィルはすかさず問いかける。俺から話があると言ったのだ。当然、クリスの話だと勘付いているのだろう。
「そうだな……ルシアン、説明してくれるか? そっちの話もあるだろうからな」
「そうだね、私が説明したほうが良さそうだ。ウィル、皇帝陛下からの指示で、クリスは隣国へ留学させるようにと言い渡されたんだ」
「隣国……? ルシアンが関係しているのなら、サザラシア王国か」
「ええ。そして……」
「ん? まだあるのか?」
「ふふっ。ティアを……クリスティアーナを、帝国学園に通わせるように、とのことでした」
「クリスはサザラシア王国へ留学。ティアはサザラシア王国での留学を終えて帰国――そんなシナリオだな。ティアを父親から守るために、隣国へ留学していたことにするらしいぞ」
「………………」
ウィルが固まってしまった。珍しいこともあるもんだ。
「ウィル、ごめんね。合宿に集中させたほうが良いだろうという皇帝陛下の意向で、終わるまでは内密に、と言われていたんだ」
「……まあ、皇帝の命とあっては仕方ない。だが、父上にしてやられたのは少し腹が立つな。でも、悪い話ではなくて良かった」
「そうだね。サザラシア王国にクリスが留学したら、ウィルも行くと言い出すんじゃないかって陛下は心配していたけれど、ウィルはまったく反応しなかったね」
「ああ、それは……距離なんて関係ないだろう。どんな手段を使ってでも、僕は毎日、彼女に会いに行くからね」
「は、ははは……」
ルシアンが乾いた笑い声を上げたが、周りは引き気味だ。ウィルの執着……いや執念に、兄弟たちは心配そうな顔をしている。
「まあ、ウィルなら浮気なんてしないだろうしな。あまり踏み込みすぎると、クリスに嫌われるかもしれないが……ウィルは匙加減を理解しているようだしな」
「そうですね……そこは安心して良いでしょう。クリスが嫌がることはしないと、信じていますよ、殿下」
「何を言っているんだ、そんなの当たり前だろう。嫌われたら元も子もない。だが、そうか……。ティアにやっと会えるんだな」
ウィルは少し寂しそうな笑顔を見せた。ずっと会いたいと思っていたティアと、ずっと一緒にいたクリス。どちらも大事な存在だからだろう。
「クリスは、もう知っているのか?」
「いいえ、まだです。混乱しないように、クリスにも合宿が終わってから説明することになっています」
「やっと口説く機会ができることは喜ばしいが……。ルシアン、ラウル、レオン。学友としての願いだ。クリス……ティアに悪い虫が近づいたなら、潰しておいてくれるか。後処理は、ルシアンに任せる」
「「お任せください」」
ルシアンとラウルは即答したな。
「俺には聞くまでもなかろう。何なら、ウィルも『悪い虫』に成り下がったならば、容赦しないからな」
「それはあり得ないと言い切れるが、そうなった時は容赦なく潰してくれて構わないよ。僕がティアにとって害悪になるのであれば、それは本意ではないからね」
「良いだろう。言質は取ったからな」
「ああ。よろしく頼むよ」
複雑な気持ちを抱えたウィルと、それを見守る双子。次世代の子どもたちが育ちつつある。このまま穏やかに時が過ぎていくならば幸せだなと、感慨に耽る俺なのであった。




