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小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―  作者: 月城 蓮桜音
第二部

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136/156

第136話 不純な動機で英雄に ★ウィリアム side

 イーサンの首根っこを掴んで、チュンの背中に引き寄せる。


「チュン!」


 垂直に落ちていたチュンが翼を広げ、地面と水平になるように体を起こす。『バサ――ッ!』という音と共に、風の抵抗を受け、チュンが舞い上がる。


「ギリギリだったな。イーサン、クリスに感謝しろよ。僕は君を許す気はないけれど、きっとクリスは許す……というより、気にしていないだろうけどね。クリスが飛び降りなければ、僕は君を助ける気がなかったことだけは伝えておくよ」


 もう、返事をする気力もないのだろう。ぐったりとして、僕の腕に抱えられたまま、崖の上に戻る。あ、チュンもピッピも、他の生徒には見えてなかったんだった。


「ウィル、ナイスキャッチだったね! 彼を助けてくれてありがとう!」


「ああ、それはいいよ。僕は皇太子だから、国民を守る義務がある。それより、チュンとピッピの存在がバレるのは良くないから、崖の少し外側から歩いて戻ろうね、クリス」


「うん! お散歩だねー!」


「ふふっ、そうだね。二人でのんびり歩いて戻ろう。恐らく、レオンたちが適当に誤魔化してくれているだろうからね」


 崖の上から、地面は見えていなかったはず。であれば、事の真相を知る()()は他にいないはずだ。うちの班のメンバーなら、僕たちが無事であることは分かっているだろう。そうやって、イーサンを担いだ僕と、笑顔のクリスは、のんびりと皆の場所に戻るのだった。


 ★★★


「クリス様だわ!」


「殿下がお戻りになったぞ!」


「あいつ、肩に担がれてるぞ……。問題児め」


「流石は皇太子殿下ね! 素敵だわー!」


「クリス様も、幼くていらっしゃるのに、とても勇敢でしたわね」


 崖の上では、僕たちに関する話題でざわざわとしていた。そこへ、慌てた様子のSクラス担任と、イーサンのクラスの担任が走ってきた。僕はイーサンをその場に降ろし、治療師を呼ぶように頼んだ。どうやら、恐怖で腰を抜かしてしまったようだ。その場にへたり込んで、身動きが取れずにいる。


「クリス様、殿下! お、お体は大丈夫でしたか!?」


「我がクラスのイーサンが申し訳ありませんでした!」


 土下座せんばかりの勢いの教師たちに、僕はゆっくりと話しかける。


「先生方、僕たちに怪我はありません。イーサンに治療を受けさせてやってください。大きな怪我はしていないと思いますが、腰を抜かしているのと、喉を痛めている可能性がありますので……」


「は、はい。本当にありがとうございました。イーサンに何かあれば、私の首も飛ぶところでした……心から感謝いたします」


 たしか、この教師は……ご両親が早くに亡くなって、弟たちの面倒も見ていたのだったか。職を失わずに済んだことに感謝されているようだ。まあ、イーサンのような生徒がいるクラスは大変だよね。


「気にしないでください。それより、先生の顔色がとても悪いですよ。少しお休みになったほうがよろしいかと」


「ありがとうございます! 労いの言葉までいただいて、感無量です!」


「あ、あはは……」


 苦笑いしながら、レオンたちの待つ少し離れた場所へと、クリスと移動する。


「クリス! 心配したのよ! 殿下、ありがとうございました」


 アリシア嬢が深々と頭を下げた。


「本当に……ありがとうございました。この事は、西の辺境伯にも伝えておきます」


 ノアも自分のことのようにお礼を言ってくる。


「二人とも、気にしなくていいよ。アリシア嬢、クリスをお願いします」


 僕は、クリスたちから少し離れて脇に避けてから、地面に座り込んだ。すると双子がスススと近づいて来た。


「ウィルはイーサンのことが嫌いなんだと思っていたよ」


「うん、私も。いつもクリスにちょっかいをかけているから、そう思うよね」


「なのに、命が懸かった場面でも、迷わなかったしな」


 ああ、そう思われても仕方ないし、実際に彼を嫌いということは間違っていない。というか、好きになる要素がない男だろう。


「違うよ」


 何と説明すれば良いのだろうか? 普通に嫌だったとしか……。


「いや、僕は……」


「ウィルは……?」


「人助けだったとしても、クリスが他の男と密着するのが我慢できなかったんだ。それだけだよ」


 人の生死とか、そんな大したことじゃないんだよね。


「………………」


 双子がポカンと口を開けて僕を眺めている。僕と双子の後ろで聞いていたノアとカイルが「へっ?」と変な声を出した。なんでだろう?


「……ああ、なるほどな。くくっ、ウィルはブレないな」


 レオンだけが、妙に納得したように頷いたのだった。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

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