第134話 崖っぷちイーサン
歩き始めてから二時間が経過した。俺たちは、この森の地形がよく分かるスポットに到着していた。先に到着し、教師から説明を受けていた他のクラスの生徒たちが場所を空け、俺たちがその場所へ進み出た時だった。
「おい、まだいたのかよ、チビスケ。お子ちゃまは早くママのもとに帰りな!」
前にいたのはイーサンのクラスだったらしい。相変わらず、クリスに向かって暴言を吐いていた。最初のうちはからかう程度だったのだが、今では明確な罵倒に変わっている。
「イーサン、やめろよ! 年下だったとしても、失礼だろう!」
ノアがクリスの前まで出てきて、イーサンを注意してくれる。それでもイーサンは言い募った。
「うるさい! 大体、そんなガキが七年生のSクラスにいることが間違っているんだ! お前だって、ズルしてSクラスに入ったんだろう!」
イーサンの標的がノアに移ったな。この学園ではズルができないことは、皆が理解しているはずだ。解答用紙もペンも対策がなされていて、本人にしか書けないし消すこともできない。そして、不正した時点で解答用紙が燃え尽きてしまうのだから、不正なんてありえないのだ。
「イーサン、お前はそこまでバカだったのか? 不正ができないからこそ、この学園に入学することが貴族のステータスなのだろう」
周りの人間は頷いて同意していた。それは当然だ。だからこそ、ここにいる全員が、努力して試験を突破してきたのだろうからな。
「お前の言動は、我々を侮辱していることに等しいと、なぜ分からない。クリス様とウィリアム殿下の学力が素晴らしいことも、僕たちSクラスの生徒なら、目の当たりにしてきているから知っているよ」
「お前ら全員がグルなら分からないだろう! 殿下に――ムグッ」
さすがはノア。瞬時にイーサンの口を塞いだ。認める気がない上に、殿下への暴言は不敬罪にあたる。このまま放置するのはまずかったからな。しかし、イーサンは止まらない。
「うるさい! お前なんか、崖から落ちてしまえばいいんだ!」
イーサンがノアを突き飛ばそうとした。が、ノアはひらりと避けた。その勢いのまま、イーサンが崖から――落ちてしまった。
「うぎゃぁ――――――!」
汚い悲鳴だな。イーサンを助けようとする者は、誰もいないと思われた。しかし――
「ピッピ! 行くよー!」
クリスがピッピを連れて、崖を飛び降りてしまった。
「チュン、お願い! 手伝って!」
クリスを追って走り出したウィルが、チュンの頷きを確認してから、崖から飛び降りる。
「ああ、行ってしまったな。さすがに崖から飛び降りるのは、俺には無理だぞ」
俺の言葉に、双子が苦笑いする。アリシア嬢が胸を押さえていた。さすがに驚いたのだろう。
「アリシア嬢、大丈夫か? クリスとウィルは、ピッピやチュンとよく遊んでいたから大丈夫だ。鳥たちも覚醒した後だから、問題ないぞ」
「あ、はい。ありがとうございます、レオン様。クリスには、もう少し……わたくしたちの心臓に優しい行動をしてくれるようにお願いしなければなりませんね」
「くくっ。ああ、本当にな」
苦笑いする我々をよそに、他のクラスの生徒たちは、崖下へと消えた三人のことを案じて、ざわざわとしているのだった。
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